第25話 気持ちが溢れそうです~ロイド視点~

「セイラ、外は好きかい?」


「ええ、大好きですわ。確かに外は寒いですが、厚着をすれば問題ありませんし。何よりも、お部屋の中にずっといると、息が詰まりそうで」


「わかったよ、セイラ、もっと奥まで行こう。僕が連れて行ってあげるよ」


 毛布でセイラをくるめると、そのまま抱きかかえた。すっかり痩せてしまったセイラ、森に行った時よりも、随分と軽くなってしまった。着々と死期が近づいている事を、嫌でも実感してしまう。


「運んでいただき、ありがとうございます。こうやってロイド様に運んでもらえるだなんて、幸せですわ」


 僕の首に手を回すセイラが、愛おしくてたまらないのだ。


 中庭の奥に付くと、事前に使用人が準備したソファにセイラを下ろし、僕も隣に座った。今日もセイラの好きなお菓子をたくさん並べた。もうセイラは、ほとんどお菓子を食べる事が出来ない。食べられても1口程度だ。


 どうして僕は、セイラが元気なうちにもっとたくさんのお菓子を食べさせてあげなかったのだろう。こんなに弱ってから、いくら沢山のお菓子を準備しても、セイラはほとんど食べられないのに…


 後悔しても、もうどうにもならない事は分かっている。でも、どうしても後悔してしまうのだ。


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、セイラはいつもお菓子を手に取り、少しだけ口に含んでくれる。そして


「このお菓子、本当に美味しいですわ。お菓子は見ているだけでも、幸せな気持ちになりますね」


 そう言ってくれるのだ。


「セイラは優しいね。ねえ、セイラ。ずっと聞きたい事があるのだけれど、聞いてもいいかい?」


「聞きたい事ですか?何でしょう、私に答えられる事なら、何でも応えますわ」


 一体どんな質問をするのだろう、そう言わんばかりに、不思議そうな顔をしている。僕は意を決して、あの質問をする事にした。


「セイラはラファエルと仲が良かったよね。その…もしかしてラファエルに好意を抱いているのかなって思って…」


「私がラファエル様をですか?」


「いや、そういう意味ではなくて…セイラはあと少ししか生きられないだろう?だから、セイラが会いたい人に会わせてあげたいと思っただけだから。深い意味はないから、気にしないでくれ」


「お心遣いありがとうございます。確かにラファエル様には、王宮に通っていたころ、色々とお世話になりました。その点に関しては、とても感謝しております。ロイド様、私の我が儘を聞いて下さいますか?」


「君の我が儘なら、何でも聞くよ。一体どんな我が儘だい?」


 やはりラファエルに会いたいというのかな?正直セイラをラファエルに会わせたくはない。


「ラファエル様に“今まで気を使って下さり、ありがとうございました”と伝えていただけますか?」


「伝えるだけでいいのかい?」


「はい、もちろんですわ。ラファエル様にしたら、迷惑かもしれませんが、私はラファエル様の事を、大切なお友達だと思っておりますの。さすがに図々しいですよね」


「別に図々しくないと思うよ。きっとラファエルも、同じ気持ちだと思うよ」


 ラファエルはセイラに恋心を抱いている様だが、セイラはラファエルにその様な感情は抱いていなかった様だ。


 それなのに僕は、勝手に勘違いして…本当に愚かだな…


 僕はセイラと過ごせる貴重な時間を、自らどぶに捨てたのだから…過去に戻れるのなら、戻りたい。


 でも、もう時間は取り戻せない。そしてセイラと過ごせる時間は、後わずかなのだ。そう、後わずか…


 セイラはもうすぐ、僕を残して逝ってしまう…


 嫌だ、僕はセイラを失いたくない。


「ロイド様、どうされたのですか?急に抱き着いてきて。もしかして、寒いのですか?申し訳ございません、私ばかり毛布を使って」


 セイラが何を勘違いしたのか、僕に毛布を掛けてくれた。違うよ、セイラ。僕は寒くて君を抱きしめているのではない。君が愛おしくて、大切で大切でどうしようもないほど大切だから、抱きしめているのだよ。


 セイラ、どうか僕を残して逝かないでくれ。僕は君がいないこの世界でなんて、生きていく自信がないよ。


 僕はまだまだ、君と一緒に過ごしたい。この6年、出来なかった事を沢山したい。それなのに、もう時間がないだなんて…


 神様、どうかこのまま時間を止めて下さい。僕からセイラを奪わないで下さい。どうかお願いします。


 セイラを抱きしめながら、何度も何度も願い続けたのだった。



 ※次回、セイラ視点に戻ります。

 よろしくお願いします。

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