第5話 検視官 Coroner

アーモニア帝国、帝都・ベーラン

タンペルホーフェ=シェーネバルク区内

ベーラン市警本部ポリツァィ・プラシディウム

新皇帝歴1年4月21日

午前10時25分頃


検視官室に入った二人を待っていたのはすらっと身長が高く、華奢な体をした女性だった。彼女の名はリベッシュ・マウンバットン、階級はウエダー同様、警部コムミヅァール魔法検視官マギー・コゴーナー半森妖精 ハーフ・エルフ。マッシュミリエン・リッヘ準男爵にとって、2か月前別れた元恋人で同棲していた相手。リベッシュの亡き父親は帝国ライヒ 北部の田舎貴族で爵位は男爵だった。領土のマウンバットン郡は三つの村と一つの小さな町で構成されていた。

彼女の母親は300歳を超えた森妖精エルフのレスレイ・マウンバットン男爵未亡人。リベッシュは3人兄妹の末子で彼女の兄、ヘイリッシュ・マウンバットン男爵は現当主だった。真ん中の姉のセシリッシュは同じ北部の貴族、ミュレーラー男爵家に唯一の夫人として嫁いでいた。


「やっと来たか・・・30分前に侯爵の検視解剖アウトプシー終わったのよ・・・私は暇じゃないの・・・わかってるの?」


リベッシュは二人を見て、不機嫌に呟いた。


「お待たせして申し訳ない、マウンバットン魔法検視官マギー・コゴーナー。」


マッシュミリエンは敢えて、ウエダーに外で待たされたことを言わなかった。

彼はそれを言い訳と受け取られて、余計に彼女が不機嫌になると思った。


シュミーツは何か言うようと思ったが、マッシュミリエンは片手で制止した。


「相変わらずですね、リッヘ君・・・心のこもってない謝罪は得意だもんね。」


マッシュミリエンにはこの言葉が心に刺さった。4年間同棲し、結婚の約束をしたのに、同僚たちとの飲み会で若い研修生 トレニーの女性と酔った勢いでことを成し、リベッシュに現場を押さえられて、盛大な喧嘩の末で破局した。


「リベッシュ・・・本当に申し訳ございません・・・」


「いつから私を呼び捨てにしていいと許可した?」


「失礼しました・・・」


「いいのよ・・もう・・・どうせ、ヘルミー(ヘルミニアの愛称)が意地悪して、外で待たせたでしょう・・・あの子には後できつく言わないと・・・」


「ああ・・はい。」


「では、早速説明をするね。」


リベッシュは二人を解剖台へ来るように促し、魔法納体袋 マギー・ライシンサグを開けて、ヘイデンバルグ侯爵の死体を見せた。

侯爵の死体から焼けた肉の臭いが漂った。145歳の老人だったが、見た目は70歳にしか見えず、筋肉質な体をしていた。侯爵の胸、心臓の位置辺りに大きな火傷があった。雷の魔法一撃で即死だった。


大きな解剖用の魔法ルーペで火傷を拡大して、二人の捜査官に見せた。


「一見、普通の雷の魔法に見えるわ・・初歩的な攻撃用のドナー にね・・この威力は基本的に鬼人オーガ若しくは強い豚人オークが攻撃に使うレベル。」


「そう見えるが、そうじゃないってこと?」


「はい・・その通り、流石リッヘ君。鬼人オーガ程度の魔力ツァオバー・クラフトでは侯爵は殺されないし、第一、極めて近距離で攻撃が放たれているので、攻撃した側も自分の攻撃の衝撃を受けて、やられてしまうわ。」


「攻撃者の死体や血痕などの痕跡がないってことかな?」


「鑑識官のエンマーちゃんは何の痕跡も見つけてないよ・・・そして強盗団の構成員は侯爵の目の前まで近づくと思えない。」


「確かに・・・侯爵はこの国屈指の魔導士マギー。」


「強盗じゃない、何者か侯爵に近づいて、攻撃を放ったと考えられるわ・・・但し、そいつは無事で済まされないのよ。」


「確かに・・・でも痕跡も残ってないでしょう?」


「はい・・・それと物理的な痕跡だけじゃなくて、魔法の痕跡も残ってないのよ。」


「魔法攻撃ではないってこと?」


「そうとしか考えられないのよ・・・魔法なしに雷の威力を再現できるのは難しい・・・最近は魔法工学と最新の魔法科学なら・・・でもまだそこまで至ってないの。」


「電気ってやつかな?」


「そうよ・・・しかも小型化し、携帯できるものじゃないと・・・知っての通り、電気を蓄電できるバッテリーの威力が弱いわ。」


「そうか・・・でも何故上層部は人外の強盗団の仕業と発表したのか?」


「あり得ない仮説より、現実味のある定説を選んだわ・・・若しくは責任を押し付けるためかも知れない。」


「襲撃したのは亜人ウンメンシリーヒかどうか、わからないってこと?」


「いいえ、女性たちの死体には獣人の精液がたっぷりかけられていた・・・鬼人オーガのもあったわ。」


「侯爵の息子たちは?」


「同じ攻撃でやられているの。」


リベッシュの説明を聞いて、マッシュミリエンは思考をフル回転させていた、論理的な説明が見つからないのに、上層部は人外の帝国民に対して風当りが強くなる発表をしたからだ。

彼女は魔法納体袋 マギー・ライシンサグをのファスナーを再び閉めた。

解剖台から離れるように二人を招いた。


「報告書にまとめるでしょう?」


「はい、そして今回の事件が帝国秘密国家警察ライヒ・ゲハイメ・シュターツ・ポリツァイのヘイドリヘ大佐オーバーストが引き継ぐことになった。」


「ラインヘルスト・ヘイドリヘ大佐オーバースト?」


「はい・・・」


「何を考えているのよ・・・上の人たち・・・頭痛いわ・・・」


「はい・・・でも残念ながら上の命令には逆らえない。」


リベッシュは帽子、マスクを取り、まとめていた長い銀髪が自由になった。

彼女は森妖精エルフの特徴である銀髪と長い耳、そしてアーモニアの人族の特徴である青い目をしていた。白い肌と顔にすこしのそばかすがあり、長くて、同じく銀色の美しいまつ毛もしていた。


「リッヘ君、ちょっと話があるの・・・」


「では、どうぞ。」


「二人きりで・・・」


リベッシュは片手で髪を上げた。赤面していた。


「ちょっと急用を思い出した・・・退室します、リッヘ巡査部長サージャント


「おう・・・いいぞ。」


シュミーツはその場の空気を読んで、嘘の急用で二人きりにした。


「リッヘ君・・・」


「リベッシュ・・・」


赤面していた美しい彼女がマッシュミリエンを真っ直ぐ見つめた。


「大事な話がある・・・アット・ヴァン・ヘイデンバルグ侯爵が私の孫甥なの・・・」


「孫甥?」


「私の母上の一番の姉君の曾孫なの・・・」


森妖精エルフは繁殖あまりしないとされている。定期的に発情期サークルがあり、兄弟姉妹の年齢の離れは一族によって、100数年となることもある。

リベッシュの母親のレスレイ・マウンバットン男爵未亡人はシュタイナールの一族の末子の4人姉弟だった。

シュタイナール一族の長女、イリビーナ・ヘイデンバルグ侯爵夫人は生きていれば600歳だったが、数年前に亡くなったと聞いた。唯一の夫は人族のヘイデンバルグ侯爵の祖父だった。


「リベッシュは確かに今年で53歳だっけ?」


「うん・・知ってるでしょう・・」


マッシュミリエンはリベッシュを見た、彼女の外見は二十歳ほどの女性にしか見えなかった。そして思い出した、自分がずっと年下だったことを。


「それで何かあった?」


「ヘイデンバルグ侯爵の右目は精巧に作られた魔法義眼マギー・アオゲなの・・・もちろん物が見える上、一見、本物そっくりだわ。」


「はい・・・」


「その義眼は私に反応したのよ・・・」


「ええ?・・・どういうこと?」


リベッシュは白衣のポケットからガーゼに包まった魔法義眼マギー・アオゲを取り出した。

彼女が手をかざしただけでその魔法義眼マギー・アオゲは光り出した。

そして魔法映像マギー・ビルトを映し出した。

映像の中には文字があった、マッシュミリエンがよく知っている文字だった。


「ねえ、マッシュミ(マッシュミリエンの愛称)、これはヒノモト列島皇国の文字でしょう?」


「ええ、間違いなくヒノモト列島皇国の文字だよ・・・ハン帝国から取り組んだハン字とヒノモトの平民がよく使うヒトカナ字だ・・・」


「マッシュミ・・・何か書いてあるの?」


「リベ(リベッシュの愛称)・・・恐ろしい真実だよ・・」


魔法映像マギー・ビルトに映っていた文字にはっきりと書かれていた。


【アーモニア・帝国・ノ・新皇帝・ハ・悪・ノ・異世界人・デ・アル】













































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