第29話 夢の遊園地
初めて、女性と遊園地。
その夢に思わぬ邪魔が入った。
でも夢は続いている。
ぼくは遊園地にもどり、入場券を買って入った。
志保さんはどこだろう。ポケットからスマホを取りだし、かけてみる。
「マキトくん、だいじょうぶなの!」
すぐに心配した声で志保さんがでた。
「あっ、意外に、いい人でした」
ヤンキーさんは、コンビニによってから遊園地にいくと言っていた。
「よかった。わたしたち、いまメリーゴーランドの列にならんでてね。ちょっとだけ待ってくれる?」
「志保さん、いまなんて言いました?」
「あっ、聞こえないかな。メリーゴーランド。メ・リ・イ・ゴ・オ・ラ・ン・ド。聞こえた?」
「あ、はい。聞こえました。ゆっくり楽しんでくださいね」
電話を切り、ぼくは落とさないようにスマホをにぎりしめた。
「エンジン、スタートぉぉぉぉ!」
駆けだした。全力疾走だ。
間に合うか。いや、間に合ってみせる。
白いワンピースを着た志保さんが、メリーゴーランドに乗る。これを見ずして、なにを見る!
駆けた。メリーゴーランドはどこだ!
ならんだ人の列が見えた。全力で走って近づく。
ちがった。機関車トーマスのSLだ。
次にむかって走る。人がならんでいた。「おさんぽぞうさん」という空飛ぶ象の乗り物だった。
また次にむかって走る。見えたのは、おなじみ「ティーカップ」だった。これもちがう。
息が苦しくなってきた。でも見たい。メリーゴーランドで髪を風になびかせる美人が見たい!
「ぼくのパワーボタン、オン!」
気合いを入れるために言ってみた。なんだか走る足も速くなった気がする。
見えてきた。見えてきた。メリーゴーランド、回転木馬!
メリーゴーランドの周囲にある柵までたどり着いた。ならぶ列を見る。志保さんとコウちゃんの姿はない。乗っているのか、もう乗り終わったのか!
「それでは、メリーゴーランド出発しま~す♪」
アルバイトの女の子の明るすぎる声が聞こえた。ブザーの音とともにメリーゴーランドがまわりだす。
見えた。外側の白い馬に志保さん。内側の黒い馬にコウちゃんが乗っている。
「あっ、マキトくぅ~ん」
……志保さんが……ぼくに……手を……ふった。
この現実を飲みこむまでに、すこし時間がかかった。
女性と遊園地にきたこともないぼくが、志保さんみたいなきれいな人ときて、メリーゴーランドから手をふってくれた。
「マーボー!」
コウちゃんの声が聞こえた。二周目だ。
ごめん、コウちゃん。ぼくは心のなかで反省した。志保さんに見とれてコウちゃんの存在を忘れていた!
手にしているスマホをかまえ、ふたりを撮る。
あわてて撮ったので失敗した。でも三周目に見えたときは、バッチリ撮れた。そして四周目は動画だ。
夢のような時間はすぐに終わった。
「はぁ~い、ありがとうございました~。完全に止まるまで、動いちゃダメだぞ~♪」
明るすぎるバイトお姉さんの声とともに、回転木馬は止まる。
ふたりは、ぼくから見えないむこう側で止まった。メリーゴーランドに乗っていた人たちが、馬からおりて出口へとむかう。
しばらく待っていると、声が聞こえた。
「マーボー!」
麻婆豆腐の「マーボー」の発音で飛びついてきたのはコウちゃんだ。今日のコウちゃんは重かった。背中にリュックがあるから。
「お昼にする?」
うしろから志保さんもきた。
「そうですね。のどもかわきましたし」
全力疾走して、のどが、からっからだ。
「じゃあ、ジュースだけ買おうか。レストランのなかでもお弁当食べていいって、案内には書いてあったけど」
「いまなんて!」
「なに、びっくりした!」
「す、すいません、お弁当と聞こえたもんで!」
志保さんが、にっと笑ってぼくの顔をのぞきこんできた。
「もしかして、彼女にお弁当作ってもらったこと、なかったりして」
ぼくは思った。前略、レイコさん。ご相談したいことがございます。あなたは言いました。「彼女は言わば
「そんなに時間なかったから。おむすびのほかは、唐揚げと卵焼き、あともうひとつ、なんだ?」
志保さんが笑って聞いてきた。ぼくは考えた。彼女は年上。しかも小さな男の子の母親。つまり、男の子の好みはわかっている。
「タコさんウインナー、ですか?」
「正解!」
前略レイコさん、玄人の女性が作るお弁当は完璧です!
ぼくらはレストランではなく、外にあるジュースやフランクフルトといった軽食を売るお店にいった。
カップのジュースを買い、近くのパラソルがついたテーブル席へ座る。
ぼくはコーラ。コウちゃんはオレンジジュース。そして志保さんはアイスティーだった。
志保さんは背負ったリュックから、三つのお弁当箱をだした。テーブルの上にならべてフタを取った。
ひとつがおむすび、ひとつがおかず、もうひとつはフルーツだ。
わりばしと紙皿をもらい、ぼくは唐揚げをひとつ取った。
ひとくちかじって思った。お弁当の唐揚げって、なんでこんなにおいしいんだろう。
「ぼく、タコさん!」
コウちゃんがタコさんウインナーを取った。しまった。レア度でいくとそっちだ。
子どもだったころを過ぎると、タコさんウインナーを食べる機会なんてない。
そっとタコさんウインナーを取ると、それを見ていたのか、コウちゃんが二個目のウインナーを取った。
「取り合いしないの!」
志保さんから冷静なツッコミが入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます