第9話

採寸が終わり店内に戻るとエリオットに彼の座っている場所の隣に来るよう言われた。

「こっちにおいで」

なんでそう軽々と距離を縮めて来るのか……。

「……来てくれないの?」

だめだ、私はあの捨てられた子犬みたいな顔をされるとだめになってしまう。

私は無言で彼の隣に少し間を空けて座る。

そしたら当たり前のように目の前にティーカップが置かれた。

「この紅茶凄く美味しいから飲んでみてよ」

あ、これは私用なんですねそうですか……。

私が飲むまでずっと見つめてるつもりなのかなこの人は。その視線の圧に負けて出してもらった紅茶を飲むと彼はまた満足げに笑うし、実際味もすごい美味しかった。

街で商売をしてると色んな人が来るからそのときに何度かこういった紅茶や遠い国の茶葉を持ってきて並べている人がいて、母さんといくつか買って飲んだことがある。

でもそれよりもずっと美味しい。

流石貴族の飲む紅茶………………格が違う。

「あはは、そんなに美味しかった?」

そんな感想が顔に出ていたのか彼はそう言って笑いながら尋ねてくる。

「美味しいです。これまで飲んだのと全然違う」

素直に感想を伝えると彼はなにか愛しいものを見つめるような目で見てくる。

「そっか、それはよかった」

なんとなくその視線が落ち着かなくて私は視線を逸らしまた紅茶に口をつける。

「ララ、出来たからこちらにいらっしゃい」

「あ、はい!」

救世主!いや違うか………エリオットの謎の視線に耐えられなかったから思わず。

「いってらっしゃいララ」

「あ、えと、いってきます」

さっきと同じように手を振って見送ってくれるので返事をしないのも変かと思い一応する。

それを聞いた彼はとても嬉しそうだった。

「うん、いいわね。ララは綺麗だからなんでも似合うわ」

鏡の前に立つとさっき選んだドレスを着せられる。サイズを合わせてもらったからかさっきより着やすくなった気がする。

「折角だから髪とメイクも整えましょ。元がいいから腕が鳴るわ〜!さぁさぁ、こちらにいらっしゃい」

エリステラさんはすごくテンションが上がっているようで私にドレスを着せると今度は隣の部屋に私を連れていき可愛らしい装飾のされた鏡台の前に座らせた。

周りにはさっきとは違う女性達が並んでいる。

「さぁ張り切って行くわよ!」

「はい!」

エリステラさんの声にそれこそ張り切った返事をして女性達は私の髪を纏め上げ、顔に綺麗な色をのせていく。次々と飾りが増えていきドレスの煌びやかさと馴染んでいく。

「うん、やっぱり綺麗ね」

女性達が引き上げるとエリステラさんが私の後ろに立ち、鏡越しに私を見てそう言う。

「そうですかね………」

「ええ、本当に。自信持ってちょうだい!」

エリステラさんは私の背中を押すように私の肩に手を置く。

そしてまた店内に戻った。

彼も私が色々されている間に着替えていたようでさっきよりもキラキラ感の増した格好をしていた。これが貴族か…………。

着飾った私を見た彼は固まった。

え、そんなに酷いかな……まあ似合うとは思ってないけどね。エリステラさんはすごい褒めてくれたけどお世辞だよ多分。

「ちょっとエリー、なんとかいいなさいよ」

後ろに立つエリステラさんがエリオットにそう声をかけてやっと彼は動き出す。

「ああ、うん、凄い………いやちょっと待って…………綺麗すぎない………?」

彼は口元を隠すように手で覆い視線、というか顔ごと逸らしている。髪の隙間から見える耳がとても赤い。

彼の言葉に浮き足立つ自分がいた。

彼に釣られて私も顔に熱が集まる感覚がした。

「あらあらなに〜?2人して可愛いじゃない。ほら、さっさと行ってきなさい」

そんな私達の様子を見てエリステラさんが呆れたようにそう言って店から半ば追い出すように私達の背を押して連れ出す。

「じゃ、じゃあ、行こうか」

「あ、うん、はい」

差し出された手にまた自分の手を重ねる。

促されるままにさっきと同じ馬車に乗り彼と対面して座る。

なんだか照れてしまって顔が見られないけど、彼が乗ってきたときにちらっと見えた耳はまだ赤かった。多分私も同じだろうなぁ。

「全く、普段あれだけ大人ぶってるエリーがねぇ………ちゃんと子供らしいとこもあるんじゃないの」

「うるさいな………」

エリステラさんが言った言葉にそれこそ子供っぽく言い返す様はやっぱり可愛いと思ったり。

思わず笑うと彼は少し不満気にしつつも照れたままの表情をしていた。

「次はどこに行くんですか?」

「次は………僕のお気に入りの場所」

そう言って彼はまた少し寂しそうな笑顔を見せた。こっちに視線が向かないのはなにか訳があるのだろうか。

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