第7話
次の日。
なんであんなこと言っちゃったんだろう……。
帰り道の段階ですでに後悔してたし帰ってからもすごいうわの空になっちゃったし恥ずかしくてあんまり寝られなかったし!!!
思い出すたび恥ずかしすぎてどうにかなりそうだ。なんなのもう…………。
そんなだから今日の商売は少し憂鬱ではあったけど、それでも母さんだけだとまた腰を悪くしかねないし……やっぱり行くしかない。
そう、なんでもないふりをすればいいんだよ。うん、だいじょぶだいじょぶ。
そう自分に言い聞かせて母さんと街に行く。
門の前からすでにエリオットの姿が見えて思わず溜め息が出た。
いや、別に嫌いなわけじゃないんだけど………こう、なんか、ね?
昨日のこともあってとても複雑な私の心境など母さんは知る由もないので、そのまま通りの方に向かって行き彼と話し始めた。
母さんは商売人だからか人と打ち解けるのがとても早い。相手も乗り気であればそれはもう盛り上がるわけで。
「母さん………場所取りしないと」
2人で盛り上がっているのに水を差すのは悪い気もしたけど、こればっかりは生活もかかっているし大事なことだ。
「ああ、そうね。それじゃあ良かったらあとでいらして下さい」
「はい、勿論です」
ものすごく和やかな会話……そしてエリオット様、よりにっこりとこっちを見ないでもらってもいいですか……。
母さんを連れて彼から離れ場所を探す。
「それじゃあ場所は……あそこがいいかね」
「はーい」
今日母さんが選んだ場所は珍しく誰もいない場所だった。いつも隣人がいる場所を選ぶのに。
「値札書き終わったよ」
「じゃあ始めようかね」
そう言って母さんがベルを鳴らす。
今日は父さんの作った工芸品と私が作った装飾品、母さんが作ったキリピとリェスのレク漬けが並んでいる。時折ある種類が豊富な日だ。
キリピは瑞々しくシャキシャキとした食感で黄色く細長い形。リェスはサクサクとしていて柔らかめ、赤色をしていてキリピよりは太めだけど、野菜の中では細めだ。レクというのは調味料の名前で適度な量でほどよいしょっぱさになる。母さんが作ったみたいに水にレクを混ぜて野菜を漬け込むことで出来る漬け物は料理に使うよりはしょっぱさの強い味になるけど、これはこれでとても美味しくてついつい食べすぎてしまう。それで母さんに怒られることもしばしば。気をつけないとね。
「やあ」
やあ、じゃないんですよエリオットさん。
その毎回話しかけるときに「やあ」って言うのなんなんでしょう本当に………変な人だ……。
「あら来てくださったんですねレイスター様」
「母さん?」
「ええ、折角このような素敵な方にお誘い頂いたのですから紳士として来ないわけにはいかないでしょう?」
「あらあら、口がお上手ねレイスター様は」
母さん………結託でもしたの?
2人ともすっごく笑顔なんだけど………。
「それで、ララが作ったのはどれですか?」
彼は私の方を見て尋ねて来る。
「………この装飾品が私が作ったやつです」
「へぇ〜どれも綺麗だね。王都の職人にも引けを取らない完成度じゃないかな、これ」
後半はほとんど何を言っているのか分からなかったけど、熱心に私の作ったアクセサリーを見ている。鑑定でもされてるみたいだ。別にそんないいものじゃないのに。
それにこうも観察されると落ち着かなくなる。
「あの、どれかお気に召すものはありましたか……?」
「ああ、そうだね、うん…………これがいいかな。普段から違和感なく付けられそうだ」
彼が選んだのは小さめの石にそれぞれ穴を開けて紐に通しただけの腕輪。白と灰色がかった白、黒に青緑。決して豊かとは言えない色数で作ったものだけど、男の人がつけるならこのぐらい落ち着いた雰囲気の方がいいのかもしれない。父さんもあまり派手なのは好まないし。
「それは2コインです」
「5コイン、いや10コイン出すよ」
彼は真面目な顔で言う。
「いやそんなに貰えないです……せめて、せめて5コイン」
「じゃあはい、5コインね」
言い終わらないうちに、私は彼に5コインを握らされる。
「あ………」
やられた。
商売人がよくやる心理利用だ。
仮にも商売をやる家で育っているのにこんな簡単な手に引っかかるなんて………悔しい。
「悔しそうだね?」
「それは……だって、悔しいですよ。私だって一応商売人なのに」
そんな私を彼はまたニコニコと眺めている。
一体何がそんなに楽しいのだろう。
「ねぇララ」
「なんですか」
「僕とデートしない?」
「は?」
この人は本当に何を言っているんだろう。
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