予定していた爆破実験を終え、車に戻ってくると間もなく車内電話が鳴った。

 ジェロームが受話器を取り、一言何か言うとリーダーに取り次いだ。「ボス。市警本部長からです」

 リーダーは、パイプを外してからおもむろに話し始めた。

 小声で会話の内容がほとんどわからないが、やがて鋭く言った。

「……脱走者?」

 確かにそう聞こえた。


 そのあとは、リーダーは「はい」と繰り返すばかりで、それも途切れると、そのまま受話器を置いた。

 ミステールの伺うような様子に、リーダーは肩をすくめて言った。

「あの爆弾、明日さっそく本番で使うことになった」

 ビンスが指先を弾くと、口笛を鳴らした。

「よお、新入り。良かったなあ。実戦に勝る訓練はなしって言うしよ♪」

 俺が「そんなこと、誰が言ったんだ?」ときいたら、彼は涼しい顔で鼻歌混じりに言った。

「みーんな言ってるぜ。……もとは競馬用語だけどさ♪」


 ここにいる人間は皆、人を人と思っていないことは薄々勘づいていたが、まさか馬扱いされるとは思ってもみなかった。

 ならば、さしずめ俺は新馬といったところか。

 それなりに調教されてはいるがゲートを出たら、どんな走りをするかまだわからない、リスキーな馬券のようなものである。


「馬かよ……」


 俺は、流れる道路沿いの景色を見つめながら、口の中だけでそうつぶやいた。


 

  翌朝。

 リーダーは、ブリーディングで指令内容を明かした。

 それは刑務所からの脱走犯の制圧、確保。あるいは、それが叶わなければ殺害。それが今回の任務だという。

 犯人の潜伏先が判明したのを受けて、市警よりドギーウルフに依頼が入ったとのことだった。


 犯人の名は、カマール・ベルディ。

 詳しい素性はわからないが、元は、幼少期に親と共に異国からの移住してきた男とされている。

 数あまたの被害者を出した凶暴犯として収監されていて、そのバックにも犯罪組織がいる可能性が囁かれただけに、警官隊では手に負えないと市警本部長が判断したらしい。


 犯人の潜伏先とされた街の地図が、机上に広げられる。

 ここからおよそ24キロ先、小高い丘にある戸建住宅が目標だという。

 周りには、他の住宅がないため、犯人が説得に応じず投降してこない、もしくは銃器等で反撃してくるならば住宅もろとも爆殺を試みることとなった。

 それが、犯罪組織にたいする州ひいては国の厳然たる覚悟のパフォーマンスになると踏んでいるらしい。



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