…
俺は、宿舎をあてがわれた翌日から部隊に加わった。
ドワイ市警舎の裏手にある倉庫のような小さな建造物が、ドギーウルフの秘密拠点だという。
小さい窓がついているだけで、扉には何も書かれていないため、何のための施設か外観ではわからないようにしてあった。
ノックをして名乗ると、鍵を解く固い音がした。
ノブを引くと、俺とそう歳の変わらない様子の、額が広く目のまん丸い青年がいた。日焼けして、黒光りしている肌が印象的だ。
「よう、新入り♪」
彼は甘ったるい香りのガムを噛んで、にやけていた。
が、特に感想はない。
俺は眉を浮かせるしかなかった。
埃っぽい部屋には、薄く陽の光が差し込んでいた。
事務机が一個あるきりで、あとはまばらにパイプ椅子が置かれていた。
机の奥にパイプを加えた初老の男がいる。黒革の椅子に深く腰掛けていた。彼は、チームリーダーのハウンゼンだと名乗った。
さっきの陽気そうな肌黒男が、ビンスと名乗った。
さらに、束ねた長髪とバンダナがトレードマークの若者ジェローム、そしてその奥に、中年に差し掛かっているが繊細そうにぼそぼそ話す顔の青白いミステールという名の男がいた。
今日はこれから、近くにある砂漠地帯まで軍の車で移動して、爆弾操作の実験をするのだという。
ビンスに言われるまま、所定の機械工のような作業着に着替える。
ジェロームが車のキーを手にすると、ミステールが無言でそろそろと立ち上がった。
二人が外へ出ると、ハウンゼンが机の一番上の引き出しからサングラスを取り出した。
春先の心地良い明るい空の下、軍用車が砂を蹴り滑り出す。
通りの向こうに、国境線を決めている青いウララ山脈が見えた。
荷台に積まれた、おそらくは爆弾物と思われるものが、振動に合わせてゴトゴトと音を立てていた。
後部席の隣り合わせたビンスが、鼻歌を始める。
助手席のミステールが振り向いた。
その眉間には、神経質そうな深いしわが刻まれている。
「その、音痴な歌、やめてくれないか?」
ビンスは「は?」と言ってにらみ返した。かと言って不機嫌そうでもない。
「今は、こういう音楽が流行ってんだよ♪」
「いや、その音程は、絶対におかしい」
「ブルースノート使ってんのよ。クラシックしか知らないから、ミッシーにはそう聴こえるだけさ♪」
ミステールは、さらに嫌そうにした。
「頼むから、僕をミッシーと呼ぶのはやめてくれないか」
ビンスは短く口笛を吹いた。
「あれやこれや要求が多いねえ♪ そう思わねえか、新入り?」
俺は、息をついた。「……聞いてなかった。いったい何の話をしている?」
するとビンスは一瞬目を剥いたが「かったるいねえ♪」と言ったきり黙った。
リーダーはその間、ずっと濃いサングラスで目線を隠しながら、顎先を車外に向け、身じろぎもせず無言で車に揺られていた。
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