【 First Attack ── 初めての戦闘  】

  支局長は、満足気に頷いた。


「君は絶対に来てくれると信じていたよ」

 彼は笑みを浮かべ、あの日と同じように俺の手を握ると、上下に振った。

「あとは、担当官に聞いて研修を受けてくれたらいい。そのあとは、オン・ザ・ジョブ・トレーニング、実地で経験を積んで一人前になることを目指してもらうことになる」


 ふと目を上げると、支局長の後ろの壁の高い位置に国旗が掲げてあり、その隣にスローガンのようなものが張られていた。


『すべては国民のために』


 そう書かれている。確か、先々代の大統領の言葉だ。

 が、あのような警官らが跋扈するこの街では、掛け声倒れといったところである。

 それを改めるために、自分がここへ呼ばれたのだとしたら、己の使命だとして意気に感じるべきなのだとは思う。

 亡き妻・ケイトだったら、やはり俺を誇りに思い喜んでくれたことだろう。


 俺は、支局長室を出ると、自然と胸のペンダントトップに手が伸びた。

 ケイトが生前、俺にくれたものだ。

 そのトップは、ごく小さな黄色いドライフラワーが埋め込まれたガラス細工でできており、純銀で縁取られていた。

 交際を始めてから、いつかの誕生日にもらったものだ。


 「この花は……?」

 そうきくとケイトは、優しく微笑んだ。「エーデルワイスよ」

「これが、そうか」

 その名は耳にしたことがある。

「花言葉は、知ってる?」

 俺がかぶりを振ると、彼女はやはり涼しげな声でいった。

「“勇気”よ。あなたにぴったりと思って……」


 エーデルワイスは高山に咲く花で、そこに赴く登山者にはやはり相当な勇気が必要とされたのだという。

 そのような高みを目指すことこそが、俺の生きざまではないのかという問いかけだったと、今となっては思っている。


 が、のちに、もう一つ、別の花言葉があることを俺は知った。

 それは“大切な思い出”である。

 彼女は、それを知っていたのだろうか。


 今や、思い出の人となり果てたケイトを思うと、俺はそのような勇気のことを忘れて、つい感傷的になってしまう。

 もしかしたら、それがそのまま、彼女が亡くなって今に至る俺の姿だったかもしれない。

 希望の灯を失って、何とかその日暮らしで生きているだけになった俺を、彼女はその腹に宿していた子とともに、どのような気持ちで天から眺めていただろうか。

 それで、今度のことをきっかけに生まれ変わったように生きていきたい。そういう強い願いがあり、この特殊部隊への加入を決意したのだった。 


(ずっと、そこで見ていてくれ、ケイト)


 俺は、静かに意気込んだ。

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