ノウ・フェイク
和泉茉樹
第1話 ノウ・フェイク
◆
宮越葉月は一人暮らしをしているワンルームのアパートにほど近いコンビニへやってきた。
時刻は日付も変わる頃で客はいない。店員が一人きりでレジに立っていて、葉月に「いらっしゃいませー」と律儀に声をかけてきた。
雑誌の棚に向かい、並んでいる週刊誌を手に取る。最近ではコンビニでも週刊誌の取り扱い量は減り、さらに立ち読みを防ぐためにあれこれと対策が取られているが、この店舗はそれがないので都合が良かった。
パラパラと捲り、すぐに棚に戻して次を手に取る。
そうしているうちに、一つの記事が目に止まった。
『いじめ自慢がトレンドか? ネット上の闇動画投稿サイトの存在に迫る!』
そんな見出しの記事だ。
一通りの記事を読んでから、その雑誌も棚に戻した。
用は済んだが、食料品の買い出しのついでに雑誌を読んだという体裁を整えるために、弁当のコーナーへ向かう。そこではレジに立っていたのとは別の店員が品出しの最中だった。
売れ残っていたらしい五十円引きの親子丼を買い、レジで電子決済で会計した。
外へ出るとまだ空気が生ぬるいことが店内の冷えた空気との差で意識される。温暖化は進むばかりで、かつては梅雨と呼ばれた時期は豪雨の季節で、夏は夏で死者が出るほど暑いのが普通になった。
街灯が並ぶ通りを進みながら、葉月は頭の中で計算した。
投稿した動画の効果はまだ見込めるだろうか。
思考にのめり込んでいると、ジーンズのポケットに押し込んであるスマートフォンが小さく震えた。足を止めて道端で確認する。
『この前の件、仕上がった。明日にでも取りに来い』
その短いメッセージはほとんど利用者がいないアプリで送られてきていた。利用者がいないのはまだ広く認知されていないだけで、その機能は数年前の闇バイト事件で大勢が知るところとなった秘匿性の高いメッセージアプリに引けをとらない。
葉月はすぐに返事を返した。
『明日の昼に行く』
返信は数秒であった。
『何か飯でも頼むよ』
葉月は思わず失笑してしまい、周囲に人がいないか、とっさに視線を巡らせた。
深夜のベッドタウンでは、もう起きているものはいないようだ。
葉月はスマホをポケットに戻し、先ほどとは別のことを考えながら歩みを再開した。
自分の仕事は後回しだ。
今は本来の仕事のことを考えなくては。
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