第3話 祠の主

「やーい、やーい」

「まてー」

 洞窟の中に、駆け回る二匹の子狸の声がこだまする。

「スケちゃんの鬼ー! 」

「フミ! 大人しく捕まれ!」

 赤色の羽織を身につけた子狸・ふみと、同じく緑色の羽織を身につけた子狸・すけがはしゃぎながら駆け回っている。どうやら、二匹して鬼ごっこをしているようだ。暫く駆け回っているうちに文は小石に躓いて転んでしまう。その上から亮に飛び込まれ、文は捕えられてしまった。

「ギブギブ!」

「まったく、いつもいつもお前は! 今日は許さんぞ……」

 そうしているうちに、二匹の元に段々と足音が聞こえてくる。亮は近くの物陰に隠れるが、文はその正体を待ち受けようとしている。亮は必死に隠れろと言わんばかりにジェスチャーするが、文は笑顔に満ちていた。

「今日も人間どもを追い返すぞ! 」

「そんなことばかりしてるから、物好きな人間ばかり来るんだど!」

「人間には僕たちの姿は見えないんだから」

 文はそう言って相方から振り切ると、近くにあった玩具のパチンコを手に取って、また別の物陰に隠れる。そして、その正体を今か今かと待ち構えていた。


 しばらくすると、二人の人の姿があった。直と健の姿であった。直は辺りを見渡すが何もなかった。

「えーっと……、何もなさそうだけど」

「あの向こうに見える柱みたいなやつ。あれが本尊です」

 そう言って健は、少し離れた柱みたいな物体を指差した。その周りは大きな石で囲まれており、少し神聖さを帯びたような感じがした。二人はそのまま本尊といわれるものに向かっていく。二匹の狸たちは、姿を隠しながらも二人の行方を見守った。

「これで大丈夫です。加護は受けられるかと」

「さいですか」

 拝み終わった二人はそう言いながら、来た道を辿って戻る。二匹が隠れている物陰の前を、二人が通り過ぎたのを確認した赤狸は、背後でシシシッと笑う。

「えいやっ! 」

 文が二人の頭上を目掛けてパチンコを撃った。それは上から滴る氷柱に命中し、二人の頭上を目掛けて落ちてくる。

「あの馬鹿!」

亮が両手を伸ばし力を込めると、氷柱が緑色の覇気を帯びながら静止した。二人が気づかずにその下を通り過ぎると、亮はその力を弱めて、氷柱の落下運動を再開させた。

ーーガチャンッ‼︎

「うわっ!」

「びっくりした……」

 思わず振り向いた二人。背後には、落ちてきた氷柱が粉々に砕け散っていた。胸を思わず撫で下ろすものの、健が見上げた途端、青褪めてしまった。

「どうしました?」

健は無言で上方を指差した。直が目を向けると同じように血の気が引いていた。

「やーい、やーい! 人間のバーカ!」

 文はそんな二人の様子を見て、喜んで揶揄った。人間には彼の姿が見えないので、向かう所敵なしだ。そう思っていた。

「なんだこの狸……」

「本当にいたんだ……」

 いつの間にか二人の視線が自身に集まっていたことに気づいた文は、思わず手からパチンコを落としてしまった。少し涙を浮かべながら、文は助けを求める。

「スケちゃん、どうしよう……。こいつら、オラたちのこと見えるみたいだよ」

 亮も物陰から飛び出して文の手を引っ張りながら、人間たちから遠ざかる。

「だから人間に構うなって言っただろうに。いくらオイラたちが見えようが……」

亮の身体がピタッと止まった。

「えっ……見えてる……?」

文と亮の二匹は思わず顔を見合わせる。それも束の間、おそるおそる振り向いて二人と目を合わせてしまった。

「これは喋ってますかね」

「喋ってますね。まさか本当にいたとは思いませんでしたが……」

すると健は突然ハッとして、直の手を引きながら一目散に駆け出す。

「ここから逃げましょう。このままだと……」

「それは一体……」

「スケちゃん、逃げちゃう!」

「まずい! とりあえず捕まえねば……」

亮は再び腕を伸ばすと、逃げる二人に向けて力を入れた。文はパチンコを二発撃ち、直と健を目掛けて撃った。すなわち直と健は、身動きが取れない状態で襲われることになった。文が撃ったパチンコの衝撃のあまり、二人は倒れ込み意識を手放す。

「まさか見つかっちゃうなんて……」

「これはどうしたものか……」

二匹は腕を組んで苦い顔をしながら、倒れた二人を見つめていた。

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