凡人ノージスはチーレム主人公になりたい〜凡人転生者が人外努力で全てを覆す〜

あおぞら@『無限再生』9月13日頃発売!

第1章 精霊術とツンデレエルフ

第1話 チーレム主人公に憧れる男

「———お願いします! 俺を弟子にしてください!! マジ将来絶対でっかくなるんで、どうか未来への投資だと思って! または哀れな子供を救うと思って、何卒よろしくお願いします!」


 晴れ渡る青空。爽やかな風。リラックス効果のありそうな草木が奏でる心地良い音色。

 そしてそれらの中に混じる———切実な声と美しい土下座を披露する子供。


 つまりは俺、ノージス・トハーだ。


 物凄く似合わない組み合わせだが……そんな俺の前には弓を下ろした青年がいる。これで異質な光景の完成だ。


「もう一文なしなんです! ここに来るために金を全部使ったんです! 本当にお願いします!」

「駄目だ。人間を入れることは出来ない」


 子供の頼みをにべもなく拒否する青年。

 そんな彼の耳は、人間とは違って長かった。

 

 まぁ俗に言うエルフだ。

 ほぼ百パー美形でありながら、排他的で引き篭もり気質な臆病……もとい慎重な種族。その種族柄のせいで、こうして俺は絶賛大苦戦しているというわけだ。


「そこをなんとか! 俺、その土地の風土に従うのはマジで大得意なんですよ。何せ俺の座右の銘は『郷に入っては郷に従え』ですから」

「ドヤ顔で言っているところ悪いが、『郷に入っては郷に従え』とはどう言う意味かが全く分からない」

「簡単に言えば『その土地の環境や集団に入った時、そこにある風習に従え』って意味です。肉を食うなと言われれば食いませんし、耳を伸ばせと言われれば毎日引っ張って伸ばします」

「誰もそこまでしろとは言ってない! そもそも入れないと言っているだろう!?」


 強情だなこのアベレージでヘタレ野郎。これ以上俺に出来ることはないんだよ。


「良いじゃん入れても! 俺の何処が駄目なんですか!」

「人間だから駄目だと」

「俺を人間という種族で括らないでください! この世界にエルフへの差別があるのかは知らないですけど、俺は転生者なので、寧ろ人間なんかより500倍はエルフが大好きです」


 さっきは臆病だのヘタレだの言ったが、別に非難しているわけじゃない。

 寧ろ彼らの背景を考えれば当然の結果だ。この世界のエルフがどうかは知らんけど。


 なんて考えていたのも束の間。何処からともなく現れた、息を呑むほどの美人エルフに食い入るように見つめられていることに気付く。

 何か言うのかな……と思って待ってみるも、ちっとも話し掛けてくれないので、仕方なく俺は口を開いた。


「えっと……こんにちは」

「こんにちは。ところで君、って言ったかしら?」

「言いましたよ、転生者って」

「なら凄い力を持ってるの?」

「……やっぱりそう思うんですね」


 まぁ仕方ない。転生者といえばこのイメージなのだから。

 だからこそ……。



 ———チーレム主人公になりたい。



 このファンタジーな異世界に転生して、俺も最初に思ったのだ。

 というか転生する前から思っていた節はある。もちろん当時は軽く夢見るだけで本気で思っちゃいないが。


 しかし、俺はさっきも言った通り転生したのだ。魔法とかモンスターとかが蔓延る異世界に。

 そうなればチーレム主人公になりたくなるのも必然と言えよう。


 ん? チーレム主人公になりたいとかほざいてるくせになんで土下座なんてみっともないことしているのかって?

 それはこれを聞いて貰えば分かると思う。

 

 これは、俺が5歳の時の話だ。


『君の子供の属性適正は……全てEのようだ。平民の平均値より僅かに下、といったところだな』

『そう、ですか……』

『まぁだが、魔力量はBだ! 貴族の平均値と同等だぞ! 剣士になれば王国騎士団に入れるかもしれない逸材だ!』

『ですが、無属性魔法の適正もEなんですよね……? 魔力があっても、満足に魔法が使えないんじゃ危なくて送り出せません……』

『う、うむ……ま、まぁ……』



 俺は———凡人だった。



 魔力だって、赤子の時から主人公あるあるの魔力切れ特訓をやりまくったからに過ぎない。8歳になった今となっては殆ど伸びていない。

 数値で言えばAにギリ届くか届かないレベル。


 いや死ぬ気で頑張った俺が、なんの努力もしてない貴族のボンボン共の天性の魔力量とほぼ同じってマ? 舐めてんちゃうぞ現実ワレェ


 ただ、まだ転生者にはあるじゃないか、と思う人もいるだろう。


 

 そう———チート能力だ。


 

 これがあれば他の才能がなくても、この世でチーレムを形成できる。というかチートがないと始まらない。

 本当になんて素晴らしい力だろうか。ゲームではウザいが、人生では欲しい物ランキング堂々の1位だろ。


 そんな人生を一気にイージーモードにするチート能力。



 結論から言おう———俺にはない。



 またまた〜と思うかもしれないが、本当に何もないのだ。この数年間考え付くモノを試してみたものの、うんともすんともいわない。  

 唯一のチートと言えるのは……0歳から意識がちゃんとしていたことくらい。でもそれも赤子の欲には敵わず、初めの頃は1日数時間しか起きていなかった程度のモンだ。


 そこで気付いた。




「———あれ、俺の転生って渋い? ……とね」




 俺の転生物語愚痴を美人なお姉さんエルフとイケメン青年エルフに話し終えると、一区切り置くように小さく息を吐く。

 今まで誰にも言えなかったからスッキリした。ホント聞いてくれてありがとうございます。


「そういう経緯で、俺は今エルフの方々に土下座をしているってわけです。お願いします、弟子にしてください」

「幾らそんな話を聞かされようと、駄目なものは駄目———」


 仁王立ちで首を横に振る青年。が、その青年の言葉を遮るように、お姉さんがニマニマ顔で言う。


「うーん……別に良いんじゃない? 転生者なら大長老様も面白くお思いになって許してくれるかも?」

「フレデリカ様!?」

「マジですか!? ありがとうございます!!」


 驚き仰け反る青年と、喜びに顔を上げる俺。

 そんな俺達の様子を眺めながら、フレデリカと呼ばれたお姉さんが俺に手を差し伸べてきた。


「ほら、行こっか」

「本当にありがとうございます。人生の恩人です」

「あははっ、大袈裟だな〜。因みになんで私達エルフに弟子入りを?」


 そんなの決まっている。




「———人間がエルフの精霊術を使うのって、最高に格好いいじゃないですか!」




 ドヤ顔の俺に、2人は呆れたような視線を向けるのだった。

 解せぬ。


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 新作です。

 凡人だけどちょっとおかしい主人公がチーレムに憧れて強くなろうとする物語です。

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