28

 お客が来ず、書類仕事も終わらせてしまい暇を持て余していたユイとギン。


「暇すぎる。もう店閉めて出かけようか」

「俺は寝る」

「つれないなぁ」


 書類を挟んだクリアファイルを片付けて店じまいのためにボードでも書くかと立ち上がる。


「あのー、ウッドさんからここで能力を預けられるって聞いたんですけど……」

 

 そんな矢先、1人の青年がひょっこり現れた。


「ウッドさんからの紹介!?」

「あ、はい。俺、あんまり人前で能力使うの好きじゃなくて……でも能力自体は使いたい人が多いんですよね。せっかくだから預けてお小遣いくらいにでもなればなぁと」


 眼鏡をかけており、落ち着いた雰囲気の青年。

 少し前にウッドの店で一人暮らし用のアパートの紹介をしてもらっていた。

 その時に、能力はあるが能力の仕事はしたくないとぼやいていたことでウッドが模倣屋を勧めていたのだ。

 

「そうでしたか。ありがとうございます! ウッドさんに渡していた書類には全て目を通してるんですかね?」

「はい! 多すぎて目が滑りましたけど、なんとか! ウッドさんのお墨付きですし、すぐにでも預けたいと思ってます」

「わかりました。ですが、念のため簡単に説明をさせていただきますね」


 書類を手渡し説明をし、相槌を打つ青年に時々クイズ形式で質問してみたりしたユイ。

 楽しそうにそれに回答する青年は、契約を終わらせた時にはスッキリとした表情となっていた。


「ウッドさんの言う通り、すごく丁寧で安心感抜群ですね! 俺の能力が借りられる日が楽しみだなぁ」

「ありがとうございます。お金を振り込んだ際に明細書をお送りしております。振り込み金額や借りられた日付など書いてますので、ぜひ確認してくださいね」


 控えの契約書を渡すと、青年は嬉しそうに書類を抱きしめた。

 

「はい! せっかくなので友達にも俺の能力が模倣屋で借りられるようになったこと宣伝します!」

「ぜひぜひ。もしよかったら能力登録についても、お願いしますね」


 和気あいあいと話していた2人。

 それをユイの隣で黙ってみていたギンは、青年に声をかける。


「せっかくだしミックスジュースも飲まないか?」

「おお、これがあの夫婦を虜にしたジュースなんですね! ぜひ」

「まいど」


 お金を受け取り、ギンは慣れた手つきでジュースを注ぎ青年へと手渡した。

 青年は液体のカラフルさに驚いていたが、躊躇いもせず一気に飲み干した。

 そして目を瞬かせた後、大きな声で言う。


「美味い! フルーツの香りがいいですね。これはまた飲みたくなる」


 近くを歩いていた人は青年の声に反応し、青年の持っているカップに視線を向けている。

 青年はその視線を気にせず、また来ますと言って颯爽と行ってしまった。


「……ギン、タイミング良いね」

「模倣屋が厳しいんならこっちしかないだろ」


 ギンはニヤリとした笑みでユイを見たのだった。



 ◇



「ミックスジュースがなくなる〜」


 模倣屋としてではなく、ジュース屋として繁盛してしまっている模倣屋。

 嬉しい悲鳴かと言われると、ユイにとってはただただ複雑な心境。

 どんどん売れていくミックスジュースに、機械も悲鳴をあげそうだ。


「完売でーす。また明日来てください」


 「えー」とか「そんなぁ」と言う声と共に散り散りとなっていく人々。

 誰も借りることも預けることもなかった。

 ユイは模倣屋を利用する人だけに飲ませたらいいのでは? と考えた。

 しかし、そんな商売にしないと売れないと国に知れたら、きっと模倣屋ではなくジュース屋にでもなれと言われてしまうだろう。


「これは資金集めこれは資金集め……」

「繁盛してんだから喜べよ……」


 ユイは火を見るよりも明らかな売り上げ状況に、酷く落ち込みを見せた。

 もとより、ジュースは模倣屋のおまけだと言っていたものだ。

 そして、少し前にやっと波に乗れていた状況だったこともあり、過去一落ち込んでいた。


「うう……早く犯人見つかってあんな噂無くなれば良いのに」

「能力が解けるまで最長で1週間だろ? 犯人わかるかもしれないし、もう少しの辛抱さ」

「だと良いんだけどなぁ」


 ジュースもなくなり誰も寄りつかなくなった模倣屋。


「こんな状況でも利用してくれた人には思いっきりサービスしたいよ〜」

「と言っても何するんだよ。お金渡したり勝手に安く借りれるようにしたりとか、そういう金銭面は国から怒られるんだろ?」

「やれることは、ジュース奢るくらいかなぁ」

「1ケースサービスとか?」

「ちょっと……それは、負担が大きい。けど、それくらいはしたいね〜」


 明日用のミックスジュース作らないと……。ユイは少し早いが店を閉めた。

 そして、籠を持ち裏庭へ。

 意図的に視界を遮っており、陽の光があまり入らない裏庭。

 だが、それがレインボーノフルーツの甘さの秘訣なのだ。

 必要個数のレインボーノフルーツを摘む。

 冷蔵庫から複数個のフルーツを取り出して、皮を剥き種を抜き適度なサイズにカットしてミキサーへと放り込む。


「いつ見ても鮮やかな手捌きだなぁ」

「いつかギンもできるようになるよ〜」


 私が病気とか怪我した時はよろしくね。と笑いながらユイはミックスジュースをたくさん作ったのだった。

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