20

 親子が帰った後、2人は暇となった。

 と言っても、オープンしてから暇な時間の方が多い店なので、日常に戻ったというのが適切な言葉だろう。

 

 今は集まった本契約を偉い人達に確認してもらうため、書類を整理している。

 書類の承認が行われれば、やっとリカの作った機械に移す作業ができるのだ。


「これ使えるようになったら、警察の人たちの負担も減りそうだな〜」

「何があるんだ?」

「えっと、まず身体強化の能力でしょ」


 書類の内容をかいつまんで読み上げる。


 読んで字の如く、身体の強化ができるものだ。

 スピードやパワーなどの向上が期待できる。

 ただし模倣屋で取り扱えるのは、少し力が抑えられている状態。

 ジャンプは街中の木に引っかかってしまった風船を取れる程度。

 スピードは使用者の足の速さによって左右される。

 パワーもスピードと同様に、使用者本人の力によって変わってくる。


「誰が使うんだこれ」

「屋根を見たい時とか登りたい時によく使われるらしいよ」

「梯子がいらなくなる程度じゃないのか? そんなに必要か?」

「引っ掛けにくいとことかは重宝するんだって〜」

「痒いとこに手が届くタイプか」


 納得したギンは他にも興味があるようでユイを見た。

 ユイはもう1枚紙を捲る。


「次に、ユウキと一緒にいた男の人が使ってた能力。能力透視だね」


 能力透視は一般の人に貸し出す予定は今のところない。

 仕事上使いたい人は警察に相談に行くか、事前に模倣屋に予約を入れる必要がある。

 予約といっても、しっかりとした理由がない限りは予約自体取れないものとなっている。

 プライバシー保護とか悪用とかを避けるためと説明されている。


「他には――」

「ユイったらおしゃべりばっかり。儲かってんのぉ?」

「げ」


 2人の前に立ったのはアイコだ。

 相変わらず男を複数人連れている。

 だが、今日は男達とは距離がある。


「……能力、借りますか? 預けますか?」

「どっちもなし〜」

「冷やかしなの?」

「別に暇してるんだし、いいじゃん」


 ユイを無視してギンの座っている窓口側へ。

 そこに出しているお客様用の椅子に座り、可愛いを売りつけるように上目遣い。

 ギンは仏頂面のままアイコを見据えた。


 アイコから少し離れた場所で待機していた男達は、「アイちゃんのあの顔で落ちないなんて!」とか「あいつだけずるい!」とかかなり怒っている。

 だが、アイに止められているのか、こちらに近寄ってきたりギンに掴みかかる様子はない。ただ少し離れた場所でぐちぐち言っているだけ。

 

 アイコはギンの頬を撫でようと手を伸ばしたが、見えない壁に弾かれる。

 手をさすりながら恨めしそうな顔をするアイコ。

 ギンは気にする様子もなく、アイコではなく取り巻き達の様子を見ていた。


「本当にアイの魅了が効かないんだね。ムカツク」

「好みのところがひとつもないからなぁ」

「じゃあ、どんな子がタイプなの?」

「お前以外」


 その瞬間、アイコはあり得ないとでも言いたげな表情で「は?」と低めの声を漏らす。

 可愛いを置いてきた顔と声に、取り巻き達は動揺と共に目が覚めた魅了が解けた

 だが、アイコに笑顔を向けられてすぐに「アイちゃん最高!」とアイコ可愛がりに戻った。

 その様子を目の当たりにしたギンは何度か目を瞬かせた後、ユイに耳打ちする。


「魅了ってあんな簡単に解けるのか?」

「あの人達は浅めにしかアイコにハマってないんだよ」


 魅了は少しでも好きだなと思えば成功するが、解けてしまう確率も高い。

 その都度掛け直しはできるが、掛ける際に想いがすでに冷めてしまっていれば、もう一度かかることはない。

 ここに来た取り巻き達は、まだどこかしらアイコのことが好きなのだ。だからまた魅了されてしまっている。

 

「浅いってなによぉ! アイはまだ上手く扱えないだけだもん」


 小声で話していたが、アイコには聞こえていたようで、頬を膨らませ「ぷんぷん」と高めの声で言う。

 「可愛い〜」と喜ぶ男達を無視してアイコはユイを見た。


「それより、ハルマくん帰って来るって噂知ってる?」

「知らないし興味ないよ……」

「やっぱり知らないんだ! ユイは友達いないからしょうがないねぇ」


 勝ち誇ったかのように笑う姿に、ユイは嫌そうな表情を浮かべた。


「ハルマの相手よろしくね」

「いいのぉ? ハルマくん、取っちゃうよ?」

「良いも何も私のものじゃなーい」


 ハルマのことが嫌いなのであろう言動に、ギンは首を傾げた。


「ハルマって誰だ? ユイは好きじゃないのか」

「前に話したアイコのお気に入りであり、私のことを好きな男」

「ああ、そんなこと言ってたな……」

「ハルマくん、超イケメンで女の子にモテモテなの。でも、"オレになびかない女、おもしれー"とかでユイを口説いてるのよね」


 ムカツク〜。と笑顔のまま言うアイコ。まだ可愛く言っていることもあり、取り巻き達は怒っている顔も可愛いと褒めている。


「今日はそれを伝えにきただけ。もしここに来たらアイが会いたがってること言ってね」


 絶対、絶対だよ! 言った後、アイコは男達とどこかに行ってしまった。


「会いたくないなぁ」

「あいつに押し付けたらいい」

「すぐ行ってくれると良いけどね」


 疲れた顔をするユイを見て、ギンはユイの周りはキャラが濃い奴ばっかりだなと思ったりしていたのだった。

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