10

 ウッドから連絡がきて戻ってみると、立派な建物が2人の前に建っていた。

 想像していたよりも遥かに上等で、2人揃って思わず感嘆の声をあげる。


「外観だけでかなり良いな」

「ほんと、かなり良いね!」

「お、お気に召していただけたようでよかったです」

「はい! ありがとうございます。ウッドさ……ん?」

「は、はい。ウッドですが……。どうかしましたか?」


 ウッドと名乗る男を見て硬直するユイ。それに気づいたギンもウッドに目を向け、上から下までウッドを眺めた。


「別人じゃねぇか」


 あのぽっちゃり体型はどこへやら。目の前にいるウッドは、かなりスレンダーだった。100kgから60kgぐらいになっているのではないかと疑うほどだ。

 

 能力の効果なのだろうが、ここまで痩せるものかとユイとギン、2人は瞬きを何度も繰り返す。


「これさぁ、痩せたい人にどうにか使えないかな」

「さすがにその使い方は良くないと思うぞ」


 2人の会話を聞き、ウッドは苦笑しつつ口を開いた。


「ぼ、僕の能力は、体内エネルギーを膨大に消費します。今の体型だと……えっと、犬小屋が限界ですね」

「膨大なエネルギーを使うのは体型見たらすぐわかるが……その体型で犬小屋作ったらどうなるんだ?」

「もっと細くなりますね〜」

「なんでそんなに冷静に答えるんですか!? というかいきなりそこまで細くなって、身体は大丈夫なんですか?」


 呑気に答えるウッドに思わずユイはツッコミを入れる。

 しかし、ウッドは「大丈夫ですよ」と気にも留めず、持ってきていたリュックサックから1冊のノートを取り出す。

 そのノートには、過去ウッドと同じ能力を持っていた人々の記録が載っていた。


「この能力を持っている人は、負担がないようにできてます。ただ、模倣で使用したことはないので、お役に立てるかどうかわかりません」

 

 ユイはウッドからそのノートを借りる。

 パラパラとページをめくるが、注意事項や能力の詳しい説明のみ。一度も模倣での使用は行われたことがないようだった。

 だが、ユイは何か閃いた様子で「これなら……」と一言呟いた後、お礼を言ってウッドへ返した。


「父の能力を使えばどうにかなると思います。あ、強制ではないので気にしないでください。……でももし模倣屋に預けても良いと思ったら、お店に来てくださいね」

「お、お気遣いありがとうございます。オープンしたら絶対伺います」

 

 爽やかに笑うウッドに、外野の黄色い声が聞こえてきた。

 3人とも気にしていなかったが、建築が始まった時点でそこそこ見物人が増えていた。

 完成してから人が減ったかと思えば、今度はウッドを見に女性の見物人が増えているのだ。

 

 その黄色い声が聞こえているだろうが、ウッドはそれを無視してドアに手をうかける。

 

「な、中もしっかりと不備がないかご確認を。不備があっては大変なので、隅々まで確認をお願いしますね」


 早く見て欲しいと目を輝かせながら中へと誘導するウッド。その様子を2人は微笑ましく思いながら中へと入る。


 

 基本、模倣屋は受付窓で契約手続きを行うため、部屋に入れる予定はない。

 理由としては、契約書や貸し出し用のロボットなど、膨大に荷物が増える可能性のあることや、持ち去り防止などを考えてのことだ。

 

 ただ、例外として、外部に漏れないよう部屋で対応する場合も考えている。

 そのため、広めの空間、2人で住むには少し多いテーブルやイスの数を用意した。

 

 他にも、使うかわからないまま買ったパーテーションや大きな本棚。映え目的の観葉植物や壁飾り。

 それらの配置はウッドにお任せしていたが、ユイが想像するよりも遥かに綺麗に整っていた。


「本当に私が選んだ家具なの……?」


 ユイは自分好みを抑え、店のためと地味目なものを選んだ。そのはずが、配置や空間のおかげでかなりおしゃれになっている。

 奥へと進むユイを見送りながら、ギンはウッドに言う。

 

「ウッド、お前センスあるな」

「か、家具の配置は妻が考えてくれたんですよ」


 ギンに褒められたウッドは、照れ臭そうに頬をかきながら目線を逸らした。


「なんでそんなに照れるんだ? 褒められ慣れてそうなもんだが」

「……そ、それが、結構褒められないものなんですよ。歴や実績が多いとできて当たり前なので」


 それを聞いてギンは腑に落ちた。

 ウッドの能力は希少であるが故に高額だ。そして高い金を払えるのは、最高のサービスを受け慣れているであろう裕福層。

 

 人間とは不思議なもので、一度でも富を手にして相手を下とみればバカにし始める。

 金をふんだんに使えば最高のサービスが受けられるのだと勘違いを始める。

 もちろん全員が全員というわけではないことを、ギンも知ってはいるのだが、少数であることに変わりはないだろうとも思っている。


「お前はもっと褒められるべき男だよ……」

「え、えっと……ありがとうございます?」


 肩をポンポンと叩かれウッドは困惑の色を浮かべる。

 そんな様子をお構い無しに、ギンはユイに「俺は2階にあがるぞ〜」と声をかけ階段を登り始めるのだった。

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