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 外には男が複数人。それはすべてギンに叩きのめされた男たちだった。もちろん金の装飾をふんだんに身につけている金の男リーダーもいる。

 ウッドは深呼吸をした後に、「何か用ですか」と自身でも驚くほど情けない声で男たちに問いかけた。


「アイツはどこだよ」

「……アイツ?」

「何とぼけてやがんだ! 俺らの能力奪った男を出せって言ってんだよ!」


 金の男は相当イライラしているのだろう。ウッドの近くにいるだろうと辺りを見渡すが、見つからず歯軋りまで始めた。


「それって俺のことか? ま、お前らの能力については知らねーけどなぁ」


 店から悠々と出てきたギン。せせら笑う様子を見て、金の男は大股でギンに近づき胸ぐらを掴む。

 

「お前にやられた後から能力が使えねぇんだわ」

「へぇ〜。そりゃ可哀想に」


 動揺せずに真っ直ぐと金の男を見るギン。怯えずに見据えてくることに、金の男は怒りが込み上げてくる。


「あ、警察」


 その言葉を聞いて金の男は咄嗟に強く突き飛ばし距離を取る。警察のお世話にはなりたくない様子だ。

 ギンは少しよろけただけで、すぐに持ち直し、警察の服を身に纏った男女を見た。

 

「誰が呼びやがった! ……いや、ちょうどいいか。この街では能力者本人に許可なく能力を奪ったら重罪だからな」


 金の男は嬉しそうにギンに自分と部下の能力を奪われたのだと説明した。もちろん自分がウッドを襲おうとしたことは隠して。

 警察は「お前たちを捕まえにきたんだが……」と険しい顔をしつつもギンに目を向ける。


「この者たちの能力を奪ったのは本当か?」


 女警察官は睨みつけるようにギンを見たが、ギンは表情を崩さず言う。

 

「無実だ。調べてみりゃわかるだろ」


 警察には能力の透視をできる人間や道具が潤沢にある。そのため、大概その場で透視が使える。

 だが、その能力を常備していることは公にしていない。ギンが当たり前のように知っていることに眉を顰めると、ギンは「おっと」とわざとらしく口を押さえた。


「……別に隠してないだろ? それよりもほら、早く見てくれよ」

「……今度話を聞かせてもらうとしよう」


 女警察官は男警察官を見た。男警察官は頷きギンへと目を向け一度目を閉じ瞳の色を変えた。


「…………? 能力は確かにない、みたいですね」

「歯切れが悪いな。何か不明点でも?」

「えっと、能力無しの人って、頭上に何も出ないんですけど、この方はなんとなくモヤモヤしたものがあるんですよね」

「ああ、お前は初めてか。能力に目覚めてない者はそうなるんだ。覚醒するかは本人次第だが」


 女警察官は念の為か、所持していた能力透視の道具を使いギンの頭上を眺める。その様子を気にも止めず男警察官は嬉しそうな声で言う。

 

「へぇ! そうだったんですね。珍しいですよね? 俺、初めて見ました」

「珍しいだろうな。生まれつき使える者が多い中、後からとなると意識的に使おうと思わなければ、覚醒は難しいと聞く」


 道具を片付け裸眼でギンを見る女警察官。身なりはなんとなく整えているが、どことなく街中に溶け込んでいない。右目を隠しており時々見え隠れする目元に違和感を覚えていた。

 ギンに睨まれ目を逸らした後、女警察官は帰ったら調べようと、いつも胸ポケットに入れているメモ帳に特長を記載してすぐに戻した。

 

「先輩、先輩! 聞いてますか? ……どんな能力かさえわかれば目覚めやすくなるってことですか?」


 女警察官が少し意識を逸らしていただけと言うのに、男警察官はムッとした顔で遠慮なく質問する。

 

「それはそうだが……簡単に言うなよ。私たちには覚醒前の能力はわからないのだから」

「わかる人いないんですか?」

「昔はいたそうだが、今は存在しないと聞いている」

「……そんなこと良いから、業務妨害であいつら引き取ってくれねぇか?」


 ギンが能力持ちでないことがわかった男たちは、分が悪いと判断したのだろう。走って逃げている最中だった。


「……感謝する。もう少しで捉え忘れるところだった」


 女警察官は、どこからともなく拘束具を取り出し地面へと叩きつける。すると、手元から拘束具は消え、逃げていたはずの男たちが悲鳴をあげなら空から降ってきた。

 先ほどの拘束具が体にまとわりついており、逃げ出すのは至難の業だろう。


「近くにパトカーを停めている。そこまでしっかりと自分の足で歩け」

「はぁ!? 拘束具が足まで絡んできているってのにか!?」

「最低限、歩けるように配慮しているはずだが?」


 ドスの効いた声で言うその姿に、男たちは震え上がり、なんとか立ちあがろうともがく。

 その様子を楽しそうに眺める姿に、周りはドン引き。ただ一人、男警察官は慣れた様子で呆れ顔を浮かべている。


「終わったみたいだね。いつもありがとうユウキさん」


 いつの間にか店から出てきて女警察官ユウキに駆け寄るユイ。男警察官に男どもを任せ、ユウキはユイに笑顔を向ける。先ほどとは別人のように笑顔が輝いている。


「ユイ! お前もいたんだな」

「ウッドさんに頼んで、店兼家を建ててもらうことになったんだよ〜」

「ということは、目標額に達したのだな。凄いぞ!」


 豪快に頭を撫でるユウキに「髪が乱れちゃうよ〜」と言いつつも嬉しそうに笑うユイ。

 

 何もわかっていないウッドとギンは、その様子をただただ静かに眺めていた。

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