残り10
プライベートジェットが静かに雲の上を進んでいる。
上質な革張りのシートに腰掛け、紅茶のカップを静かに傾けるのは、レイカ・ウララカ。
黒髪のロングヘア、きちんと整えられた制服風のシンプルな服装が、彼女のクールな雰囲気を引き立てている。
その隣で、スマホを片手に寝そべっているのがピリパだ。
ピンクのウェーブがかったツインテール、露出度高めのギャル風ファッション。
短めのトップスとショートパンツから伸びる脚にはラメ入りのストッキングが映えている。
ノリが軽く、常にどこか浮ついた雰囲気を醸し出しているが、どことなく周囲への気遣いも感じられる。
「レイカちゃ〜ん! ヴァレンティナ嬢の写真ないのぉ?」
「……ない」
「え〜!? 幼馴染なのに!? 昔の写真とかないの?」
「昔は、あまり好きではなかったからな」
「マジ!? え、どんな感じだったの?」
「傲慢でワガママ、ついでに自信過剰。周りを従わせることが当然だと思っていた」
「ふぇぇぇ、さすがお嬢様キャラって感じ?」
二人の会話を聞きながら、静かにお茶を啜るのは、ジイ・セルフ。
白髪に老眼鏡をかけ、しわがれた声で時折相槌を打つ。
彼の着ているのは、昔ながらのクラシックなスーツ。
アンドロイドでありながら、その動作はどこまでも人間らしく、ゆったりとした所作には長年の風格すら漂っている。
彼は、にこやかに二人を見渡し、静かに言った。
「……レイカ様、ヴァレンティナ様とは久方ぶりの再会なのでは?」
「そうだな」
「再会が楽しみでございますな」
レイカは、目を伏せて紅茶を置く。
「……私は、彼女が“変わった”ということを、確かめに行く」
「ほぉ〜?」
ピリパがニヤリと笑う。
「やだ〜、レイカちゃんったら、ツンデレ? ほんとはヴァレンティナ嬢に会うの、楽しみだったりして?」
「違う」
「え〜、ツンツンしてるぅ〜!」
「私は、ヴァレンティナの“変化”に違和感を覚えただけだ」
そう言いながら、レイカは数日前の通話を思い出していた。
久しぶりに話したヴァレンティナは、確かに以前と比べると随分と柔らかい雰囲気になっていた。
だが――それ以上に、どこか“不自然”だった。
言葉遣いや口調、表情……
一瞬、違和感を覚えたものの、すぐにそれを振り払った。
(まさか、とは思うが……)
レイカは、ヴァレンティナを信じたい気持ちと、自らの直感の間で揺れていた。
「まぁまぁ、とにかく再会を楽しみましょ!」
ピリパが能天気に笑う。
「じーじもさぁ、ヴァレンティナ嬢にご挨拶するんでしょ?」
「ええ、もちろん」
ジイ・セルフは穏やかに微笑む。
「ですが、レイカ様のお気持ちは大切にすべきでしょう」
「ふ〜ん、つまりツンデレの時間ね!」
「だから、違うと言っている」
「はいはい、違う違う!」
ーーーーー
「お待ちしておりましたわよ、レイカ!」
ヴァレンティナ・ヴァレンティンは、豪奢な屋敷の玄関で扇子を広げ、優雅に微笑んでいた。
「久しぶりね、ヴァレンティナ」
レイカ・ウララカは肩をすくめながら、その姿を見つめる。
「ふふっ、相変わらずクールですわね。もう少し感動していただいてもよろしくてよ?」
「いや、別にそこまで感動するようなことじゃ……」
「わーーー!!!マジでおっどろきー!!めっちゃすごくない!?!?」
レイカの言葉を遮って、ピリパがテンションMAXで飛び出してきた。
「えっ!? 何これ!? お姫様のおうち!? あっ、ヴァレンティナお嬢様ってマジでガチのお嬢様だったんすね!!」
「ええ、もちろんですわ。これが本物のセレブの館でしてよ?」
「うっひょーーー! ピリパ、貴族文化に触れるの、人生初だわーー!!」
ピリパは大理石の床をペタペタ触ったり、金色のシャンデリアを見上げたりして、完全に観光客状態である。
「レイカちゃん、住もう!!ここに住もう!!」
「おい、落ち着け」
レイカはピリパの襟を掴んで引き戻した。
「せっかくのご招待ですもの。どうぞ、ごゆっくりなさって」
そんなレイカたちのやり取りを、ジイ・セルフは穏やかに見守っていた。
「それにしても、久しぶりに会ったら、ずいぶん丸くなったな、君は」
「まぁ、レディたるもの、品位を持たねばなりませんもの」
ヴァレンティナは、ふわりと微笑みながら言った。
「昔のクソ生意気だったヴァレンティナは、どこに行ったんだ?」
「なんですの!? わたくしは元から優雅でしたわ!!」
「まぁまぁ、落ち着け」
「ヴァレンティナ嬢ーご飯って出るの?」
「お任せあそばせ! 今日はヴァレンティナ・ヴァレンティン邸、最上級のディナーをご用意しておりますわ!」
「やった!メシだー!」
ピリパが両手を挙げる。
「しかし!」
ヴァレンティナが扇子を開き、ニッコリと微笑んだ。
「クーポンがあるので、ファミレスですわ!」
「なんで!?!?」
ーーーーー
「さぁ、ご覧なさい! 庶民の社交場ですわ!!」
「いや、ただのファミレスよね」とレイカ。
「えー!? これがヴァレンティナ嬢の言う“最上級のディナー”!?」とピリパ。
「お食事ができるのであれば、場所は問題ではありませんよ」とジイ・セルフ。
そんな彼らの背後で、エルとエムも静かに店を見上げていた。
「クーポン適用可能、予算内です」とエム。
「問題はありません」とエル。
ヴァレンティナは、颯爽と店内へ。
「店員さん、ごきげんよう!」
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「こちらのクーポンをお使いになれますわよね?」
「……ええ、大丈夫ですけど」
ヴァレンティナは満足げに頷く。
「では! 最上級のお料理をお願い致しますわ!!」
「最上級って……クーポンの範囲内で選ぶんですよね?」
「ええ、もちろんですわ」
「いや、じゃあ普通のメニューですよね?」
しかしヴァレンティナは、まったく意に介さず優雅にメニューを開く。
「……この『ファミレスプレートDX』が最高級っぽいですわね」
「それ、チキンとハンバーグとエビフライのセットなだけじゃん!」とピリパ。
「それが重要なのですわ!!」
レイカはため息をつきながら、適当にハンバーグを選び、ジイ・セルフも「では、和風定食を」と控えめに注文。
エムは静かに「一番コストパフォーマンスの良いメニューをお願いします」と真面目に言い、
エルは「ご主人様と同じものを」とあくまで従者の立場を貫いていた。
そして、ピリパは――
「ピリパ、デザートも頼む! スイーツパフェ!! でっかいやつ!!」
ーーーーー
「……まさか、本当にファミレスで終わるとはな」
「えっ、むしろレイカちゃん、期待してたの?」とピリパ。
「いや、さすがにもう少しまともなものが出てくると思ってた」
「でもピリパ、ファミレス楽しかったけどな~! だってエムくんの『コストパフォーマンス最適化理論』とかエルちゃんの無表情ながらの真剣さとか、めっちゃウケたし!」
「ヴァレンティナ嬢は食後に優雅にソフトクリームを召し上がっていましたな」とジイ・セルフが穏やかに微笑む。
「……昔はそんな庶民的なことしなかったのにな」
レイカは、目を伏せながら呟いた。
「やっぱり変わったんだな、ヴァレンティナ」
「いいことじゃん! てかさぁ、そもそもレイカちゃん、なんでそんなにヴァレンティナ嬢の変化が気になるの?」
ピリパがソファに寝転がりながら、スマホをいじりつつ言う。
レイカは、窓の外の夜景を見つめながら答えた。
「……なんとなく、違和感がある」
「違和感?」
「ただ、性格が丸くなったとかそういうレベルじゃない。話し方とか、表情とか……何かが根本的に違うような気がする」
「ふぇぇ……それってつまり?」
「……まだ、確証はない」
レイカは、紅茶を一口飲みながら続けた。
「ただ、彼女の変化があまりにも不自然すぎる。人が成長するのは普通のことだが、あそこまで完璧に“変われる”ものなのか?」
「うーん? まぁ、確かに性格がガラッと変わるのって簡単じゃないよねぇ?」
ピリパは軽い調子で言うが、その言葉の裏に、レイカの疑念が根強く残っていることを察していた。
「ジイはどう思う?」
レイカが尋ねると、ジイ・セルフは静かに目を細めた。
「ヴァレンティナ様は、たしかに以前とは異なっておりました。しかし、それが何によるものなのかは、まだ分かりません」
「……だよな」
レイカは腕を組んで、ベッドに背を預けた。
「……まぁ、せっかく来たんだ。しばらく様子を見るさ」
「そうそう! 旅行気分で楽しもうよー! 明日どこ行く? 買い物? スパ? それとも……夜のネオン街!?」
「ピリパ、お前はまず落ち着け」
「えぇ~、ノリ悪いなぁ~」
ピリパがふてくされるのを、ジイ・セルフは静かに微笑みながら見守っていた。
「……では、明日はヴァレンティナ様の案内に従いましょう」
「まぁ、そうするしかないな」
レイカはため息をつきながら、窓の外を眺める。
夜の街は静かで、どこか落ち着かない気持ちが胸に残る。
(ヴァレンティナ……お前は、本当に変わっただけなのか?)
そんな疑問を抱えながら、レイカは静かに目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます