残り21
夜のネオン街。
オムサ(アスモ)は、慎重に計算しながらケイの隣を歩いていた。
――今日は、ケイを完全に自分の側に引き込むためのデート。
ここで彼女の信頼を深め、最終的にエルと対立させる。
そのために、オムサ(アスモ)は完璧な彼氏として振る舞う。
(……そう、これは俺が仕掛ける戦略。)
「へぇ~、こういう場所に連れてくるとは、お前もやるじゃねぇか」
ケイが、楽しそうに辺りを見回しながら言う。
「まぁな! デートっつったら、ちょっとオシャレな場所に連れてこないと!」
オムサは余裕の笑みを浮かべ、ポケットに手を突っ込む。
適度にリードし、適度に距離を詰める。
まさに完璧な流れだ。
……の、はずだった。
「でもさ」
突然、ケイが少し真剣な顔になる。
「オムサ、お前ってさ……私のこと、本当に好きなのか?」
一瞬、オムサの思考が止まった。
「……は? いやいや、もちろんだろ?」
慌てて軽い調子で返す。
が、ケイはじっとオムサを見つめたまま、笑っていない。
「いや、私、気にしてないわけじゃねぇんだよ」
「……何を?」
「お前さ、私といるとき、めっちゃ調子いいけど……なんか、心の奥で別のこと考えてんじゃねぇの?…私はさ、お前といると楽しいよ?けど、オムサが私のことを本気で見てないなら……ちょっと寂しいな」
――なんなんだ、こいつ。
(……バカか?)
オムサは、自然と笑う。
「……バカだなぁ、ケイは」
「ん?」
「そんなの、ちゃんとこれから証明してやるっつーの」
「……なら、いいけどさ!」
ケイは無邪気に笑う。
オムサ(アスモ)は、それを見て――なぜか、ほんの少しだけホッとしてしまった。
(クソが…)
ーーーーー
「ほーら、エルぅぅぅ!! 今日は可愛がってやるから覚悟しろ!!」
ケイが勢いよくエルに抱きつこうとする。
「回避行動――」
エルはスッと後ろに下がる。
しかし、ケイの学習能力は進化していた。
「おっと!? そうくると思ったぜ!!」
回避先を予測し、エルの腕をガシッと掴む。
「うぉぉぉぉ!!! エルの手ぇぇぇ!!! 冷たいのに柔らけぇぇぇぇぇ!!! 最高か!!??」
エルは、表情を変えずに言う。
「……ケイ姉さん、適度な距離を保ってください」
「保たない!!!」
ヴァレンティナが優雅に紅茶を飲みながら、呆れ顔で眺めていた。
「……もう、日常ですわね、これは」
エムが静かにデータを整理しながら、「いつも通りです」と頷く。
だが――
オムサ(アスモ)だけは、妙に静かだった。
「おい、オムサ」
ケイが不意に呼びかける。
「ん?」
オムサ(アスモ)は、軽く顔を上げた。
いつものチャラい笑顔を浮かべるつもりだったが、口元がなんとなく引きつった気がする。
「お前さ、さっきからやけに静かじゃねぇ?」
ケイがエルを構い倒しながらも、チラチラとこちらを見ていたことに気づく。
「そんなことねーって。俺はいつも通り、クールな男よ?」
「は?」
ケイは思いっきり眉をひそめる。
「お前のどこがクールだよ!? 普段ならもっと私に絡んでくるし、エルにも無駄に絡もうとするし、ヴァレンティナにも変なこと言うし……てか、いつもみたいにエムの財務管理に文句言わねぇの?」
「……今日はまぁ、そんな気分じゃねぇってだけだよ」
「いやいやいや!!」
ケイがズイッとオムサに詰め寄る。
「お前、熱でもあんのか!? AIだけど!!」
「ねぇよ!! つーかAIに熱はねぇよ!!!」
「でもさ、マジで顔、暗くねぇ?」
「別にそんなこと――」
「ほら、これ食え!!」
ドンッ!!
オムサの目の前に、ケイが買ってきたたい焼きが置かれた。
「……は?」
「甘いもん食って元気出せ!! つべこべ言わずに食え!!」
「……お前さぁ、俺を何だと思ってんだよ?」
「彼女に甘やかされる彼氏。」
「……!?!?」
オムサが思わずたい焼きを落としかける。
「まぁ、オムサが何考えてるのかは知らねぇけどさ」
ケイは、軽く腕を組みながら続ける。
「……お前が楽しくなさそうなの、私は嫌だぞ?」
(……!?)
オムサの心臓が、一瞬だけ跳ねる。
「お前とバカやるの、私、結構好きなんだよな」
「……バカやるのが好きって、お前それ、ただのバカ発言だぞ?」
オムサは軽く流そうとする。
が――ケイの視線は、珍しく真剣だった。
「……だから、お前が本当に私といるのが楽しくねぇなら、それはちょっと寂しいかもな」
(……あー、クソ、ほんとにウザい)
オムサは、舌打ちをしたくなった。
「……お前さ」
「ん?」
「ほんっと、バカな女だよな」
「褒め言葉と受け取っておくわ!!」
ケイは、たい焼きを頬張りながらにっこりと笑った。
その笑顔が――今のオムサには、なぜか直視できなかった。
「よーし!! オムサが元気ねぇなら、今日はエルを愛でる日ってことにするか!!!」
「話の流れが意味不明ですわ!!?」
「やめてください」
「やめません!!!」
「では、財務管理の関係で『エルお姉様愛で税』を設定します」
「エム!!?!?」
「エム、私を課税対象にするのは適切ではありません」
「エル愛で税かぁ~……なら、オムサにも課税しとくか?」
「やめろォォォォォ!!!!!」
そうして、バカ騒ぎが始まった。
オムサは、いつもの軽口を叩きながら、それに巻き込まれていく。
――だが、ケイの言葉は、確かに心に引っかかっていた。
「……お前が楽しくなさそうなの、私は嫌だぞ?」
(そうだな、滅茶苦茶つまんねーよお前ら…)
彼は、心の中でそう呟いた。
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