始祖と神と悪魔と俺③
始祖の目は自分の姉のような目だと思った。
自身が強者であることを疑わない反面、生きる理由を探し、他者の意見に耳を傾け正解を出そうとするそれは正しく自分にはない力だと思った。
♢
小さい頃から闘争心のかかる子供だと言われてきた。
俺の親はゲームについての理解が浅く、小さい時は運動をするべきだとゲームを与えられてこなかった。そんな親の勧めもあって俺はサッカーを始めた。
サッカーをプレイしていて嫌だと思ったことなんて一つもない。だが今一つ何かが足りない感覚に中学で襲われ、高校ではサッカーを続けなかった。そんな頃見つけたのが当時流行っていたVRゲームだった。
今のようなフルダイブゲームではなくVRゴーグルを付け現実でコントローラーを握りプレイした格闘ゲーム、あの充実感は今でも忘れられない。
大学生になる頃にはフルダイブゲームが発売されていた。最初このゲーム機は危険だなんて話も出たが俺はフルダイブゲームをプレイし続けた。正直世間の話なんてどうでも良かった。自分が満足できるかどうかそれだけが俺の全てだった。
大学卒業間近というところで2年早く大学を卒業し就職していた姉から相談が来た。
それまで生きてきた中で姉が自分に相談したいことがあると言っていくるのは初めてだった。
その相談の内容は、自分が今の会社に所属することで貢献できることという内容だった。
俺は自分を貫けるなら他なんてどうでもいいと思ってばかりだった。
しかし姉は今なお自分と向き合い新たな価値を見出そうとしていた。
俺は自分にない力を持つ姉を尊敬している。しかし姉を目指そうと思ったことは一度もない、その理由を始祖に告げるのがこの場の正解だと俺は漠然とそう感じた。
♢
「貴様はどう考える?ワシの役目とはなんだったのだ?」
「………俺は他者を導くことにあなたの生きる意味があったと思います」
「他者を導くことだと?」
「俺には2つ上の姉がいるんです。そいつは周りから尊敬されてすごいと思われているのに、まだ次の成長に向かおうとしている奴でした。
そんな時自分の所属する組織での役目を更に増やしたいと俺に言ってきたんです。既に役目なんて無数にあった、そんな姉が完璧だと思っていた姉が俺にアドバイスを求めたんです」
「貴様はなんと答えた?」
「俺は他者を導くべきだと言ったんです」
始祖は静かに俺の話を聞いていた
「自分をあれ以上完璧にすることは姉には難しかった。強くて気の利く人だったので俺はそう思いました。だからこそ自分に追いつけるような人材を自分で育成する。それに意味があるんじゃないかと本人に言ったんです。そしたら自分1人じゃもう更に上は目指せないのか?なんて聞かれちゃって、思い切って「無理」って言ってやりました」
「………我も1人で生きる意味を探すのは無理だと思うか?」
「その時は姉を納得させたくてそういいましたけど、俺がいいたかったことは、もっと周りを見ろよってことなんですよ」
「周りを見て、困ってる人がいないかとか誰か助けが必要じゃないのかなとかそれを考えるだけでもっと組織に必要とされる思うなんて言ったら、それは妥協じゃないのかなんて言われました。自分がこれ以上強くなれないなら意味ないって姉は言うんです」
始祖は納得するような、どこか姉に同意するような姿勢だった。
「貴様の姉も、自身の価値を見つけられなかったのではないか?」
「そうですね。正確には|他者からの姉への理解が足りないんだと俺は思います《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」
「他者からの理解?」
「姉は確かにすごい、正しく天才とかそっちの類いの人間だと思います。だからこそ天才の苦悩や努力なんて、凡人には理解できない」
始祖は何も言わずに真剣な顔で話を聞いていた。
「だから周りのレベルを上げることで自身の苦労を他者に理解してもらう。そうすれば周りが勝手に価値を見出すと思うって言ったんです」
「………ワシはどうすれば良かったと思う?」
始祖が俺に尋ねる。
「単純ですよ」
「あなたの神様とか、貴方の仲間とかに理想を、夢を聞けば良かったんです。そうやって他者に寄り添うことが貴方が世界を変えることのできる可能性だと思います」
「………しかし」
「敵である人間とも仲良くなれたんでしょあなたは、それなら貴方は戦争を終わらせることだってできたかもしれません」
「それは我が神の願いを踏み躙る」
「その神の願いは本当に、貴方の思うようなものでしたか?」
始祖が思い出したのは、自分が生まれ一刻もたたないときの神の言葉
[私がお前を生み出すのは、戦争の引き金なるのかもしれない。お前には重い願いを託すが頼むぞ。他者を救い続けてくれ]
なぜ自分はその願いを忘れ、勘違いを起こしたのか。否忘れたわけではない。不可能だと思ったのだろう。人間たちの醜悪な様子を見たことでその願いは自分から消え失せたのだろう。それらの存在との同意や協調それこそが目の前の男が言う他者からの願いだったのだろう。それは酷く人間らしい醜悪な願いだと思った。そしてあのとき自分が連れ歩いた、人間のようだと思った。
「貴様の姉は強いな」
「俺もそう思います。それと同時に貴方にもその道があったと思います」
始祖のそのときの顔は俺がこの話をした時の姉と似ていた。
あとがき
一話分丸ごと主人公と始祖の語りだけで終わりました。個人的にはこういう話を書いてみたいという想いはあったので満足していますが、戦闘シーンがなくて退屈してしまう人もいるかと思います。そんな人、ここからエンジンかけていく予定です。お楽しみに
設定語り
シフの姉、こいつ死ぬほどオーバースペックです。そのくせ他者を見下してるわけでもないのがタチ悪いです。格ゲー初心者相手に即死コンとか決めてくるタイプ。
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