第45話 最終試練01

しずくは、瞳を潤ませ、少し照れくさそうに、けれどもどこか真剣な表情でゆうくんを見つめながら言葉を続けた。


「ねぇ、ゆうくん…私、もう…ゆうくんのいちご牛乳なしじゃ生きられない体になっちゃったみたい。もう、ほかの食べ物なんて全然食べてないの。でも、栄養的には…いちご牛乳で補えてるから、大丈夫だけど。」


その言葉にゆうくんは目を大きく見開き、しずくをしばらく見つめる。しずくの口元には、ほんのりとした幸せそうな微笑みが浮かんでいて、普段のしずくには見られない、満ち足りた表情をしていた。


しずくは少し顔を赤らめながらも、説明を加えるように続ける。


「だって、ゆうくんのいちご牛乳って…他のものには絶対に替えられないんだ。匂いも、味も、飲み心地も…全部、私の心にぴったりで…」

しずくは恥ずかしそうに目を伏せ、少し照れたように唇を噛んだ。


「だから、もういちご牛乳を飲まないと、体が落ち着かない感じがして…どうしようもないんだよ。」

その声には、確かな愛情と、それを感じることに満足している様子が込められていて、まるでいちご牛乳がしずくの心を支えているかのようだった。


しずくの言葉をじっと聞きながら、ゆうくんは心の中で何かが変わったことに気づく。


しずくの目を見つめてしばらく沈黙が流れた後、ゆうくんは静かに、けれども確信を持った口調で言った。


「しずく、君がそんなにまで僕のいちご牛乳に依存してくれるなんて、正直、嬉しいよ。でもさ、君が本当にそのレベルにまで達していることを証明するためには…最終試験を受ける時が来たかもしれない。」


しずくが驚いたように目を大きく見開くと、ゆうくんは微笑みながら続ける。


「しずく、大好きだよ。」

その言葉が、優しく、けれども確かな響きでしずくに届く。


「だから…試験を受けよう。これまで誰も到達したことがない試練だよ。『エターナル』って言うんだ。」


しずくの心に、何かが震えるように響く。


エターナル級――それは、まさに最終的な試練だった。これまで誰もたどり着くことができなかったし、何が待ち受けているのか、彼女には想像もできなかった。


しずくはゆうくんを見つめ、少しの間、心の中で自分を整理するように静かに考えた。そして、しっかりと答える。


「…私、やる。ゆうくんがそこまで言うなら、私は絶対に試験を受けるよ。」


しずくは自信に満ちた表情で頷くと、少し照れたように微笑みを浮かべた。「だって、私はもう…ゆうくんのいちご牛乳がなければ、もう生きていけないもん。」


ゆうくんはその決意を見て、しずくの成長に心から感動し、静かに頷いた。試験がどんなに厳しくても、しずくならきっと乗り越えられるだろうと、彼の心は確信に満ちていた。



ゆうくんは真剣な表情を浮かべながら続けた。


「でね、この世界一のいちご牛乳は、『極限いちご牛乳』っていうんだ。」


しずくは、ゆうくんの言葉をじっと聞きながら、心の中で何かがざわめくのを感じていた。


「極限いちご牛乳は、これまでのものとは比べものにならないくらい濃縮されてる。普通の人間が飲んだら、体も心も耐えられない。最悪、命を落とすこともあるんだよ。」


その事実を淡々と語るゆうくんの声に、しずくは一瞬、息を呑んだ。心臓が少し早く鼓動を打つ。


「ほら、適量じゃないと死んじゃう食べ物があるでしょ?あれと同じだよ。でも――」


ゆうくんは、ふっと微笑みながら言った。


「しずくはこれまで頑張ってここまで成長してきた。だから、そんなの、問題にすらならない。」


彼の目は、まっすぐにしずくを見つめ、深い信頼と確信に満ちていた。


「しずくなら、絶対に大丈夫だと僕は信じてる。」


その言葉に、しずくは胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。自分がここまで努力してきたこと、その成長をゆうくんが見守ってくれていること――そして何より、ゆうくんが信じてくれていることが、しずくにとって何よりも嬉しくて、力強い支えだった。


「……うん。」しずくは、深く息を吸い込み、目を閉じた後、ゆっくりとその目を開けた。


「私も、そう思うよ。」


ゆうくんが作った、極限いちご牛乳。どれほど強烈で、どれほど危険であったとしても、しずくならきっと乗り越えられる――だって、これはただのいちご牛乳じゃない、ゆうくんが自分にかけてくれた想いが詰まったものだから。


「私は、ゆうくんのいちご牛乳が好きだから。」

しずくはその言葉を、力強く、そして純粋な気持ちを込めて伝えた。


ゆうくんはしずくの言葉に静かに微笑み、心からの安心と誇りを感じていた。


しずくは少し震えた手を静かに握りしめながら、ゆうくんの言葉をじっと聞いていた。心の中で、何かがふつふつと湧き上がるのを感じる。ゆうくんの思いを受け止める覚悟が、だんだんと固まっていくのを実感していた。


ゆうくんは少し照れくさそうに笑っていたが、その目は真剣そのものだった。彼がしずくを見つめるその視線には、彼の思いが込められているのがよく分かった。


「さっきのは、極限いちご牛乳そのものに耐えられたらの話だったよね。でもね、それだけじゃないんだ。」


しずくは無意識に息を呑んだ。ゆうくんの次の言葉を待つ心のざわめきが、胸を締めつける。


「極限いちご牛乳を飲んで、もししずくの体が耐えられたら――今度は、僕の“思い”がしずくの中に流れ込んでいくんだ。」


ゆうくんの声は穏やかで、どこか包み込むような優しさがあった。しかしその背後には、計り知れないほどの熱がこもっていて、しずくはその温かさに胸を打たれる。


「それに耐えられなければ……しずくは死んじゃう。」


その言葉に、しずくは少し震えた。けれど、ゆうくんのその声には、心からしずくを案じる深い愛情が滲んでいるのが伝わってきた。しずくの命を守りたいという、ゆうくんの強い想いが。


「でもね、しずくはここまで来れたんだ。僕のいちご牛乳をずっと飲み続けて、ちゃんと僕の味を受け入れて、そして――好きになってくれた。だから、しずくならきっと大丈夫だと思う。」


ゆうくんはそう言って、少し息をついた。目をそらし、微かな笑みを浮かべるその姿が、しずくにはどこか切なく見えた。彼がこんなにも自分のことを考えてくれている、その思いが胸に迫る。


「でもさ……僕もしずくのことが、言葉にできないくらい好きなんだ。」


その瞬間、しずくの胸が高鳴った。思わず心の中で、その言葉を繰り返す。


ゆうくんが、こんなにも自分を大切に思ってくれていること。小さなころからずっと、彼が側にいてくれたこと。それが、今もなお変わらずに続いていること。


しずくの目には、懐かしい記憶が蘇り、胸が温かくなる。


「だから……僕の思いが、しずくにとっては重すぎるかもしれない。それが怖いんだ。」


ゆうくんが自嘲するように微笑み、目を伏せる。その表情を見たとき、しずくは胸の奥で何かが崩れるのを感じた。


「それが問題なんだよ。僕の思いが強すぎるせいで、しずくの体も心も、耐えられなくなるかもしれない。」


しずくはじっとその言葉を受け止め、目を閉じる。


でも、心の中で揺るがない決意が芽生えていた。


そんなこと、怖いわけがない。


ゆうくんがくれた、あの温かくて、特別な味。それが今、私の中に深く染み込んでいる。それを、こんなにも愛おしく感じている自分がいる。


「私は、大丈夫だよ。」


ゆうくんの驚いた顔が、すぐに目に浮かんだ。


「だって、私も……ゆうくんのことが、言葉にならないくらい大好きだから。」


その言葉を、しずくは力強く口にした。ゆうくんが伝えたかった思いを、しずくもまた伝えたかった。


その瞬間、ゆうくんの目がわずかに揺れ、何かを感じ取ったようだった。


「だから、受け止めるよ。ゆうくんの全部を。」


しずくはその言葉を、しっかりと伝えるように深呼吸しながら言った。まるで、自分の心の中にある迷いをすべて捨ててしまうかのように。


ゆうくんは少し驚きながらも、しずくの目をじっと見つめた。その目に、深い思いが込められているのを感じ取ったしずくは、さらに決意を新たにした。


これから先、どんな試練が待っていようとも――私は、ゆうくんと共にそれを乗り越える覚悟ができている。


ゆうくんは、その言葉に少しだけ息を呑んでから、静かに頷いた。


「ありがとう、しずく。」

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