俺は勝つまで死ねなかった
@oshioenbun
序章
「ヘンリー、そなたの手にあるその紋様こそが勇者である証に他ならない」
豪奢な装飾がなされた城内の中でも一等豪華な玉座の間。その玉座に堂々と座るはこの国――アイナラート王国――の国王は目の前に片膝を付き、剣に翼のようなものが巻き付いている紋様が薄赤く浮かび上がる右の手の甲を差し出すヘンリーと呼ばれた耳が長く尖ったエルフ族の男に告げる。
彼は緑青色の短く切りそろえられた髪に、目は暗めの金色、戦うために鍛えられたその身体は長身が多いエルフ族の中でも平均的だが、魔法が得意な者が多いエルフ族とは思えないほど筋肉質だ。背中にはその筋肉に見合うような使い込まれた大剣、鎧は動きやすさを重視しており膝下までのマントを身に着けている。
国王の左右には立派な鎧を身に着けた衛兵たち。見ただけでも相当な手練れだとわかる雰囲気を醸し出す彼らは国王の言葉にわずかに息を飲んだ。次の200年の平和が彼にかかったのだ。
世界は今、レウィペロゼと呼ばれる地域に居座る魔王とその配下の魔物たちによって平和が脅かされている。この世界は約200年の周期で絶大な力を誇る魔王と唯一その魔王を倒すことができる勇者が現れる。どちらが勝つかは歴史上勇者側の方が勝利数としては多いが、稀に勇者の失踪により魔王軍が勝利しそこからの次の勇者が現れるまでの200年は暗黒の時代となった。
「前回の勇者は魔王を倒せたが今回はどうなのだろうか……」
玉座の間の壁際に固まっている人間族、エルフ族、妖精族と様々な種族の学者たちがざわめく。彼らの言う通り前回は勇者側の勝利で平和な200年が過ぎたがその前の勇者は失踪していた。
国王は静寂を取り戻すために持っていた杖で床を強くたたく。カツン――と音が鳴ると玉座の間に居る全員が口を閉じた。
「ヘンリーよ、そなたに我ら二つ目の平和がかかっておる。分かっているな?」
二つ目とは先ほど出た種族のほかにもドワーフ、獣人、竜、獣等々ヒト型であるかに関わらず二つの目を持つ種族を総称して言う。対して魔王を含む魔物はすべて三つ目である。
「はい。このヘンリーが魔王を討伐しましょう」
重たい運命を背負ったのが彼の声色に乗ったのがわかると国王は神妙にうなずいた。国王が二度手を叩くと入り口の傍に控えていた人間族の男、妖精族と獣人族の女がヘンリーの前に並んだ。
「我が王国随一の剣士、オーランド」
国王に紹介された人間族の男が半歩前に出る。騎士風の出で立ちの彼は銀色の鎧にレイピアを腰に下げている。低い位置で一つに結わえられた薄茶色に真っすぐヘンリーを見る青い目が彼の真面目そうな性格を表していた。
「攻撃・回復魔法に関して右に出る者はいない、イーダ」
同じように半歩前に出る薄い青色の衣を三重にしたようなフード付きのローブを羽織っている妖精族の女。美しい黄金色の髪は右肩辺りで緩くまとめられ、透き通るような薄紫の瞳は自信に満ち溢れている。
「多くの補助魔法や五感の鋭さは旅の助けになるだろう、コウエン」
極東出身の者特有の濡羽色のショートボブの頭には犬耳があり、その色に反して眉は灰色の丸こい形をしている獣人族の女。興味津々に瞳孔が開いた瞳もまた黒色で、人間族やエルフ族とは異なり全体的に毛深く、マズルも存在する。尻尾は白と黒でくるりんと丸まって緩く左右に振っている。
「この三名をそなたに就けよう。必ずや力を合わせて二つ目に勝利を」
「「「はっ」」」
場所は変わりアイナラート王国城下町の真ん中にある噴水広場。国民たちは勇者が現れたことを知るも誰なのかまでは情報が出回っていないのか、どんな二つ目なのかの話題で持ちきりだ。ヘンリーもまた勇者の紋様を見せびらかすつもりもなく玉座の間を出てすぐに手袋を身に着けていた。
「まずは近くの洞窟に居座る三つ目ゴブリンを倒そう。俺たちの仲も深めていかなければならないし、皆の実力も知りたい」
「そーそー。アタシ結構サポートが得意なんだけど皆のことが知らないと良いサポートもできないし」
ヘンリーの言葉にうなずくコウエン。イーダとオーランドも異論は無いとばかりにうなずく。ちなみにゴブリンも三つ目と二つ目に分かれており、ゴブリンは薬草の知識が豊富で二つ目ゴブリンはその道で商売をしている者が多い。
一行は城下町で国王から与えられた支度金を元に装備や体力・魔力回復用ポーションなどの消費アイテム類を整え、アイナラート王国から南東にある洞窟に向かっていった。道中にも三つ目魔物が出現したもののオーランドの華麗な剣術、イーダの強力な魔法の数々、コウエンの攻撃力や回避能力が上がる魔法による補助、そしてヘンリーの臨機応変に剣術と魔法を使い分け時には同時に使う戦闘技術に難なく倒す。各々個人の戦闘能力もさながら獣人族の特徴である広い視野と鋭い嗅覚聴覚から出されるコウエンからの的確な指示と補助により共闘も問題なくこなせる。
――これならきっと大丈夫だ。王国の兵士でも簡単に倒せる三つ目ゴブリンの群れなんて簡単に殲滅できるだろう――
言葉にせずとも四人ともそう思った。それは、慢心だった。
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