50話 メスガキ、第二保管庫の“封蝋箱”を開けて扇動マニュアルをぶっこ抜く
『次回審問:市民代表を含む“評決”形式』
『争点:鍵守の“居住資格”』
居住資格。
「……引っ越し手続きかよ」
私がぼそっと言うと、レイナが真顔で返す。
「追放の言い換えです」
「知ってる。ムカつく」
リリアが欠伸しながら言った。
「めんどい。人気投票で人を消すタイプ」
「人気投票って言うな!」
笑えない。
評議会は正面で勝てない。だから“市民”を使ってくる。
でも市民を敵にしたくない。助けたい。
「……先に種を潰す」
私は返刃を握り直す。
「第二保管庫。封蝋の箱。配布の根。
あそこに“扇動の説明書”があるはず」
---
### 公開で行く。密室にしない
夜。
王城の裏手へ向かう道に、数人だけ連れて行った。
物流ギルド長、救助班の代表、書記局の別部署の監督官。
ミーナの母も「証人になる」と言って付いてきた。
「……無理すんな」
「無理じゃないです」
母親は包帯の腕を押さえながら、まっすぐ言う。
「“鍵守が危険”って言葉で、また誰かが見殺しになるのは嫌です」
……強い。
強いのは、こういう人だ。
レイナが小さく囁いた。
「証人がいるだけで、相手の“後出し条文”が通りにくくなります」
リリアがぼそっと。
「めんどいけど、見られるのがいちばん効く」
私は頷いて、王城書記局の第二保管庫の扉の前に立つ。
重い鉄扉。封印紋。
そして、警備の書記官が青い顔で待ち構えていた。
「鍵守様……ここは保管庫です。
勝手に開ければ文化財の――」
「文化財の前に人命だ」
私は短く切る。
「台帳に記録してある。
第二保管庫は監査対象に追加済み。
封蝋文書の流通経路の追跡も開始済み。
――公開検証として開ける」
返刃を掲げる。
「宣言。
第二保管庫の封印解錠は、公共安全と扇動防止のため。
証人立会い。記録板同期。署名三重」
小型記録板が光った。
『公開検証:開始』
『場所:書記局 第二保管庫』
『立会い:市民証人/ギルド代表/救助代表/書記局監督官』
『記録:台帳へ』
警備の書記官が、唇を噛んだ。
「……分かりました。ですが、内部には“自壊封印”が――」
「知ってる」
リリアが眠そうに言った。
「証拠隠滅用の、めんどい仕掛け」
「言い方ァ!!」
---
### 封蝋箱は“燃える”前提
扉が開く。冷たい空気。
棚、棚、棚。
古文書の匂いの奥に、妙に新しい紙の匂いが混ざってる。
「……ここだけ新築かよ」
私は棚の陰を覗き込む。
あった。
木箱が十数箱。すべて黒い封蝋。天秤の紋章。
“旧王家系文書”に見せかけた、評議会の配布物。
ギルド長が顔をしかめる。
「こんな量……街に撒いたってことか」
レイナが、箱の角の印章を読む。
「発送印……“評議会配送課”ではなく、書記局経由。
迂回経路で責任を薄めています」
その瞬間。
箱の封蝋が、じわっと赤く光った。
「……来た」
リリアが一歩前に出る。眠そうな声で、容赦なく言う。
「自壊封印、解除。
発火条件:開封/照合/不正閲覧――全部。めんどいね」
証人たちが息を呑む。
ミーナの母が小さく震える。
「燃えるの……?」
「燃やさせない」
私は返刃を掲げ、言葉を狭く刺した。
「宣言。
公開検証中の証拠自壊は、証拠隠滅=敵対行為。
よって封印の自壊は停止。停止ログを台帳へ」
記録板が眩しく光る。
『敵対兆候:検知(自壊封印)』
『停止要求:照合中……』
継承司の声が、背後から冷たく落ちた。
『停止を承認する。
公開検証での自壊は手続き逸脱』
箱の赤い光が、ピタッと止まった。
「よし」
私が息を吐くと、リリアが淡々と言う。
「今のうちに開ける。
めんどいけど、燃える前提の箱はスピード勝負」
「急にプロみたいなこと言うな」
「プロだよ」
「それも怖い!」
---
### 出てきたのは“市民評決の台本”
箱の中は、紙束。整然と揃えられた配布物。
まず目に入ったのは、薄い冊子。
『市民評決運用指針(配布用)』
『題:居住資格審査――安全のための一時退去提案』
「……一時退去」
レイナの声が低くなる。
「追放の言い換えです」
次のページ。
『質問例』
* 鍵守はどこから来たか?(不明=危険)
* 王家血統ではない者が権限を持つのは不適切では?
* 事故が増えたのは鍵守の更新のせいでは?(可能性を強調)
* “安全のため”退去を求めることに同意しますか?
「うわ、誘導のテンプレ」
私が吐き捨てると、ギルド長が歯を食いしばった。
「これで市民を煽って……票を作る気か」
リリアが別の紙を拾って、眠そうに読み上げる。
「……『扇動メモ』。めんどいの本丸」
そこには、もっと露骨な文章があった。
『推奨フレーズ:
“鍵守は善意でも危険”
“事故の責任は誰が取る?”
“外来は制御不能”
“退去は差別ではなく安全”』
「差別じゃなく安全、ね」
レイナが冷たく言う。
「最悪の言い換えです」
私は記録板に向けて短く言った。
「記録。
評議会封蝋文書:市民評決誘導マニュアル。
目的:鍵守の一時退去=追放。
分類:扇動/情報操作/人命危険(公共機能停止の示唆含む)」
記録板が光る。
『証拠:記録(署名三重:準備)』
『分類:暫定』
証人たちの顔色が変わる。
“暫定”でも、文面の毒は誰にでも分かる。
ミーナの母が震える声で言った。
「……これ、私たちを使うんだ」
「使わせない」
私は即答した。
---
### さらにヤバい「偽装計画」が出てくる
リリアが、箱の底から封筒を引っ張り出した。
黒い封蝋。天秤。
でも印が違う。内側に小さく“セレクタ”の署名。
「これ、めんどい。直送」
封筒の中身は、一枚の“運用命令”。
『実施案:鍵守偽装事故』
『目的:居住資格評決前に“恐怖の実例”を作る』
『方法:返刃に似せた模造鍵を用い、復興ゴーレムを一時暴走させる』
『結論:鍵守の更新は危険、退去が妥当』
空気が凍った。
救助班の代表が、低く唸る。
「……事故を作る気か。人が死ぬ」
ギルド長が拳を握る。
「俺たちの荷車も“事故”の材料にされる……!」
レイナの声が、刃みたいに冷える。
「評議会が“偽装事故”を計画。
これは監査ではなく――犯罪です」
私は返刃を握り、掌の痛みを無視して言った。
「……やっぱり来たな。
台帳を腐らせるだけじゃない。
“現実”を汚して、ログに見せかける」
リリアがぼそっと。
「めんどい。次は死人が出るやつ」
---
### 公開の次段階:市民へ“先に知らせる”
私は証人たちを見回す。
逃げる人はいない。皆、怒っている。
「よし。これ、全部台帳に上げる」
レイナが即座に補足する。
「ただし、個人名は最小化。
“偽装事故計画”の実行手順だけは、止めるために必要な範囲で公開」
リリアが頷く。
「めんどいけど、実行条件を潰す。
模造鍵の形状ログ、材料、工房の発注経路――追跡できる」
私は記録板に向けて宣言した。
「宣言。
第二保管庫から発見された封蝋文書一式を、公開台帳に登録。
“居住資格評決の誘導”と“偽装事故計画”を市民へ周知。
そして――偽装事故の実行兆候を検知した場合、防衛プロトコルを公共保護として発動」
記録板が眩しく光った。
『登録:受理』
『周知:準備(掲示板/ギルド/救助局/市民掲示)』
『監視:偽装鍵/暴走兆候――追跡開始』
倉庫の外で、鐘が一度鳴った。
王都の掲示板に通知が走る音。
“評決”の前に、市民が知る。
これは相手が一番嫌がるやつ。
---
### そして、時間を潰される
その瞬間、記録板が冷たく点滅した。
『新規通知:監査評議会』
『評決:前倒し』
『開始:本日深夜(第三鐘)』
『市民代表:既に選定済み』
「は?」
レイナが紙を奪うように読んで、目を細めた。
「前倒し……証拠が周知される前に、投票箱を閉じるつもりです」
リリアがぼそっと。
「めんどい。時間で殴るやつ」
ギルド長が焦った声で言う。
「深夜に評決? 市民は寝てるぞ!」
「寝てる人は投票できない」
私は低く言った。
「つまり――“来るように仕込んだ人”だけで決める気だ」
ミーナの母が、震える声で言う。
「……じゃあ、私たちの声は……」
「奪わせない」
私は返刃を掲げる。
「評決が深夜なら、深夜に市民を集める。
そしてその場で――この箱の中身を、口で説明する。紙で示す。台帳で示す」
レイナが頷いた。
「公開演説ですね。
“誘導の台本”を先に晒す」
リリアが欠伸しながらも、目は鋭い。
「めんどいけど、偽装事故の実行も今夜かも。
評決前に恐怖を作るって書いてある」
……そうだ。
今夜、動く可能性が高い。
私は一歩、外へ踏み出した。
「行くぞ。
評決会場へ――その前に、模造鍵の工房を止める」
「場所は?」
リリアが紙束をぱらっとめくり、眠そうに言った。
「……書いてある。
『発注先:白池区・裏路地の鍛冶工房(仮)』」
白池区。
胸の奥が冷える。
あそこは――事件が起きやすい、治安が落ちた地区。
私は笑った。笑うしかない。
「……よりによって、嫌なとこ選ぶなよ評議会」
返刃を握り締め、言う。
「今夜は二本立てだ。
“偽装事故”を止めて、深夜の“評決”をひっくり返す」
記録板が、最後に一度だけ強く光った。
『公開台帳:周知開始』
『市民評決:深夜(第三鐘)』
『警告:偽装事故兆候――中(上昇)』
レイナが短く言う。
「時間がありません」
リリアがぼそっと。
「めんどいけど、間に合う。
……たぶん」
「たぶん言うな!!」
私は走り出した。
王都の夜が、また戦場になる。
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