38話 メスガキ、王家宝物庫で“継承”とかいう地雷ワードを踏む

王城までの道は、もう道じゃなかった。

崩れた石畳、折れた柱、半分だけ残った門。復興ゴーレムが慎重運転で瓦礫をどかしてるせいで、進むたびに「お、お先にどうぞ……」みたいな空気が流れる。


「……これ、王城っていうより廃墟アスレチックじゃん」


私がぼやくと、ヴァルド(監督局のドヤ顔代理)が、気取った調子で言う。


「王都は、秩序が崩れると“形”から壊れる。ここは象徴だ。正統が戻れば――」


「はいはい、“正統”ね。耳タコ」


レイナが横から冷たく刺す。


「話は後です。先を急いでください。あなたの美辞麗句は修復を早めません」


ヴァルドの口角が一瞬だけ引きつった。

ざまぁ。


リリアは酒瓶を抱えたまま欠伸してる。


「めんどい…城って、階段多いんだよね…」


「今その“めんどい”の権化が必要なんだよ!寝るな!」




王城の中央塔の足元に、地下へ降りる扉があった。

扉というより、巨大な“蓋”。分厚い金属板に、王家の紋章――そして、その周囲にびっしり刻まれた古い文。


ヴァルドが胸のバッジを見せると、紋章が淡く光る。


『継承監督局:代理権限を確認』

『宝物庫区画:入場許可(制限)』


「制限って言われてるけど?」


私が言うと、ヴァルドは余裕の笑みで返す。


「代理でも十分だ。ここは“監督局の仕事場”でもあるからね」


レイナの目が細くなる。


「……代理で“十分”と言い切る者は、だいたい隠し事があります」


「口悪いな、受付嬢」


「私は元社長です」


「……え?」


ヴァルドが一瞬だけ固まった。

その隙に私はニヤッとした。


(レイナ、ここでその情報出すの強すぎ)




蓋が開くと、冷気じゃない。乾いた熱気が上がってきた。

地下なのに、炉の匂いがする。


「うわ、暑……。地下って寒いもんじゃないの?」


リリアがぼそっと言う。


「ここ、鍵炉だから。都市の“鍵”を焼く場所。熱いのが正常」


階段を降りると、通路の壁が普通じゃない。

結晶でも石でもなく、黒い金属。しかも格子模様じゃない。もっと古い、呪文みたいな刻印。


レイナが小声で言った。


「グリッド以前の管理式……王都の“初期層”です。ここは辞書の再定義の外にある可能性が高い」


「つまり?」


「あなたが修復した“人間排除禁止”が、ここでは未適用の可能性があります」


背筋がぞわっとした。


「え、最悪じゃん。さっき頑張った意味!」


リリアが眠そうに肩をすくめる。


「初期層は“王家の絶対”だからね。めんどい」


ヴァルドが振り返り、楽しそうに言った。


「だからこそ“正統”が必要なのさ」


……ほんとムカつく。




通路の先、巨大な円形の扉。

中央に炉の紋章、両脇に三つの鍵穴――いや、鍵穴っぽい“溝”がある。


『鍵炉区画:認証要求』

『血・印・誓い』


「血!? 出た! 王家の血統ゲー!!」


ヴァルドが当然のように手を差し出す。


「私がやる。監督局は王家の印章を預かっている」


彼は指輪を外し、紋章に押し当てた。

金の光が走り、扉が少しだけ開く。


『印:確認』

『血:未確認』

『誓い:未確認』


ヴァルドの笑みが濃くなる。


「見ろ。印は通った。次は血だが――君たちの誰か、王家の血はいるか?」


「いるわけないだろ!!」


私が即答すると、ヴァルドが肩をすくめた。


「なら“代替”だ。血の代わりに、王都の“鍵の破片”を使う。失効ログが残っているなら、初期層は反応するはずだ」


……は?

それ、私が折った鍵の破片のことじゃん。


レイナが一歩前に出た。


「あなた、なぜそんなことを知っているのですか」


ヴァルドはさらっと言った。


「監督局は、王都の設計資料を持っている。知らない方が不自然だろう?」


リリアがぼそっと。


「設計資料って言い方が、もう監査っぽい」


私の掌の破片が、ピリ、と痛んだ。

さっきからずっと、嫌なタイミングで。


「……なぁヴァルド。これさ、私が差し出したらどうなる?」


「扉が開く。種鍵へ辿り着ける。鍵が再発行できる。復興が加速する」


「メリットしか言わねぇな」


ヴァルドは笑った。


「メリットしかないからね」


その言い方が、逆に怖い。




私は一歩前に出て、破片を握り直した。

“言葉”を間違えたら、ここは死ぬ。

初期層は冗談を冗談として扱わない。


だから私は、短く、正確に言った。


「根本条項の適用範囲を拡張。

この鍵炉区画でも、“排除”を人間に適用するな。

そして私は――鍵の破片を“血の代替”として提供する」


扉が低く唸った。


『根本条項:範囲外――』

……と表示されかけて、


『臨時統治者:宣言を検知』

『誓い:照合を要求』


「誓い?」


レイナが私を見た。


「今です。“誓い”を言いなさい。王家の条項に似た形で」


私は息を吸った。

胸が熱い。怖い。

でも、ここまで来て逃げない。


「誓う。

私はこの王都を、人間が生きる場所として守る。

秩序は人命の上に立たない。

復興は虐殺の準備にしない」


扉の光が強くなった。


『誓い:仮承認』

『血:代替入力を要求』


私は破片を溝に差し込んだ。


――カチン。


その瞬間、痛みが走った。掌じゃない。胸の奥。

“登録”される感覚。タグを貼られる感覚。


『監査ログ:接続』

『監督局代理:同席確認』

『継承監査:起動準備』


「……なに、継承監査って」


ヴァルドの笑顔が、完璧に戻る。


「さあ? “正統”を確認するだけだろう」


嘘つけ。




扉が開いた。

中は広間だった。炉がある。巨大な炉。

火はないのに、空気が熱い。炉の上に、ガラスみたいなドーム。

その中央に、白い金属の台座――そこに、一本の“鍵”が寝ていた。


小さくない。

剣みたいに長い。

表面に、王都の紋章と……見たことない文字列。


「あれが種鍵……」


レイナが息を呑む。


リリアが、珍しく真面目な顔をした。


「……初期鍵。王都の“鋳型”。あれがあれば再発行できる。ほんとに」


ヴァルドがゆっくり前へ出る。


「では、回収しよう」


「待て」


私が止めると、ヴァルドが振り返る。


「何だ」


私は短く言った。


「“回収”って言うな。嫌な単語だ」


ヴァルドは笑った。


「言葉狩りか。臨時統治者らしい」


その瞬間――炉のドームが淡く光った。


『継承監査:起動』

『候補者を選定』

『正統性・責務・危険度を評価』


空気が一段冷える。

炉の上から、白い光が降りてきて――ヴァルドの足元を照らした。


『候補者:ヴァルド・グレイン(代理)』

『正統性:低』

『責務:不明』

『危険度:高』


「……は?」


ヴァルドの笑顔が固まった。


次に、光がレイナへ。


『候補者:レイナ(外部)』

『正統性:なし』

『責務:高』

『危険度:低』


そして、リリアへ。


『候補者:リリス・カーディナル(旧管理者)』

『正統性:特例』

『責務:不明』

『危険度:中』


最後に――私へ。


『候補者:臨時統治者(異常)』

『正統性:なし』

『責務:高』

『危険度:測定不能』


測定不能!?

おいそれ褒めてんのか貶してんのかどっちだ!!


レイナが小さく呟く。


「……継承監査は“監査官”とは別系統。古い仕組みです」


リリアが笑った。


「めんどいの第三ラウンド、来たね」


ヴァルドが低く言う。


「ふざけるな。代理権限は“正統”だ。監督局が低評価など――」


炉が冷たく返した。


『危険度:高の候補者は排除――』


「排除!?」


私が叫んだ瞬間、炉の刻印が光り、白い鎖みたいな光がヴァルドに絡みついた。


ヴァルドの顔が引きつる。


「待て! 私は監督局だ! 秩序だ! 王都の――」


「秩序とか言うな!! またそれかよ!!」


私は反射的に前へ出た。

ここが初期層でも、誓いは通った。

なら、今なら――“言葉”で止められる。


私は炉に向かって、正確に叩き込んだ。


「命令じゃない。誓いの追記だ。

“排除”は人間に適用しない――この鍵炉でも。

代替処理:拘束、追放、権限剥奪」


炉が一瞬、沈黙した。


『誓い:矛盾を検知』

『しかし誓いは――候補者の責務を優先』


光の鎖が、ヴァルドから少しだけ緩んだ。


「……効いた?」


レイナが即答する。


「効いています。ですが完全ではありません。早く種鍵を――!」


リリアがぼそっと言う。


「種鍵、誰が触る? ここ、選ばれた候補じゃないと弾かれるよ」


私は台座の鍵を見た。

あれは鋳型。王都の未来。


そして、ヴァルドは鎖を引きちぎろうと必死で――その目が、私の掌の破片を見て笑った。


「なるほど。

血の代替を入れたのは君か。

なら、継承監査は君を“候補”として固定する」


「固定?」


ヴァルドが囁く。


「君がここで“誓い”を折ればいい。

責務が高い君が壊れれば、王都は次の候補を求める。

その時、監督局は“正統”として――」


「黙れ」


私の声が低くなった。


「今その口動かすな。炉が拘束を“排除”に切り替えるぞ」


ヴァルドが笑った。


「切り替えてみろ。初期層の排除が起きれば、市民にも波及する。

君が拡張した誓いなど、まだ不完全だ」


……こいつ、分かってて踏みに来てる。

監査官の匂いどころか、本人並みに“秩序で人を殺す”タイプ。


炉の表示が更新される。


『継承監査:次の手順』

『候補者は種鍵を掴み、再発行の責務を宣言せよ』

『宣言できない場合――候補者を再選定する』


そして、最後の一文。


『再選定時、危険度:測定不能の候補者は“隔離”する』


隔離。

またその単語。


レイナが私の隣で、静かに言った。


「統治者様。あなたが掴むべきです。

あなたの言葉でここまで来ました。ここも、あなたの言葉で通します」


リリアが眠そうに付け足す。


「めんどいけど、正しい。

掴んで。誓いを“固めて”。

そうすれば、ヴァルドの立場は消える」


私は種鍵を見た。

手を伸ばせば、届く距離。


でも――掌の破片が、またピリッと痛む。

“監査ログ”が繋がったままだ。

掴んだ瞬間、私が隔離される可能性もある。


それでも。


私は笑った。


「上等。隔離? 望むところだ。

でも、隔離する前に――鍵は貰う」


私は一歩、台座へ――


その瞬間、炉のドームの奥に、もう一つの影が映った。

白い光の奥で、誰かがこちらを見ている。


『継承監査:追加監査者を確認』

『監督局ではない権限――』


……誰だよ、まだ出てくんの!?


ヴァルドが、初めて焦った声を出した。


「……その権限は、なぜここに――」


影が、静かに言った。


『異常候補者。

あなたの誓いは、秩序を壊す。

――よって、継承は許可できない』


空気が凍った。


レイナが刃を握る。

リリアが目を細める。

私の背中に冷汗が流れた。


でも、私は止まらない。


「うるせぇ。

秩序が人を殺すなら、壊して正解だろ」


私は手を伸ばした。

種鍵へ。


――掴む。


その瞬間、炉が眩しく光った。


『候補者:固定』

『隔離プロトコル:準備』


「来いよ。固定でも隔離でも。

鍵はもう、私の手の中だ」


(38話・つづく)





王城までの道は、もう道じゃなかった。

崩れた石畳、折れた柱、半分だけ残った門。復興ゴーレムが慎重運転で瓦礫をどかしてるせいで、進むたびに「お、お先にどうぞ……」みたいな空気が流れる。


「……これ、王城っていうより廃墟アスレチックじゃん」


私がぼやくと、ヴァルド(監督局のドヤ顔代理)が、気取った調子で言う。


「王都は、秩序が崩れると“形”から壊れる。ここは象徴だ。正統が戻れば――」


「はいはい、“正統”ね。耳タコ」


レイナが横から冷たく刺す。


「話は後です。先を急いでください。あなたの美辞麗句は修復を早めません」


ヴァルドの口角が一瞬だけ引きつった。

ざまぁ。


リリアは酒瓶を抱えたまま欠伸してる。


「めんどい…城って、階段多いんだよね…」


「今その“めんどい”の権化が必要なんだよ!寝るな!」




王城の中央塔の足元に、地下へ降りる扉があった。

扉というより、巨大な“蓋”。分厚い金属板に、王家の紋章――そして、その周囲にびっしり刻まれた古い文。


ヴァルドが胸のバッジを見せると、紋章が淡く光る。


『継承監督局:代理権限を確認』

『宝物庫区画:入場許可(制限)』


「制限って言われてるけど?」


私が言うと、ヴァルドは余裕の笑みで返す。


「代理でも十分だ。ここは“監督局の仕事場”でもあるからね」


レイナの目が細くなる。


「……代理で“十分”と言い切る者は、だいたい隠し事があります」


「口悪いな、受付嬢」


「私は元社長です」


「……え?」


ヴァルドが一瞬だけ固まった。

その隙に私はニヤッとした。


(レイナ、ここでその情報出すの強すぎ)




蓋が開くと、冷気じゃない。乾いた熱気が上がってきた。

地下なのに、炉の匂いがする。


「うわ、暑……。地下って寒いもんじゃないの?」


リリアがぼそっと言う。


「ここ、鍵炉だから。都市の“鍵”を焼く場所。熱いのが正常」


階段を降りると、通路の壁が普通じゃない。

結晶でも石でもなく、黒い金属。しかも格子模様じゃない。もっと古い、呪文みたいな刻印。


レイナが小声で言った。


「グリッド以前の管理式……王都の“初期層”です。ここは辞書の再定義の外にある可能性が高い」


「つまり?」


「あなたが修復した“人間排除禁止”が、ここでは未適用の可能性があります」


背筋がぞわっとした。


「え、最悪じゃん。さっき頑張った意味!」


リリアが眠そうに肩をすくめる。


「初期層は“王家の絶対”だからね。めんどい」


ヴァルドが振り返り、楽しそうに言った。


「だからこそ“正統”が必要なのさ」


……ほんとムカつく。




通路の先、巨大な円形の扉。

中央に炉の紋章、両脇に三つの鍵穴――いや、鍵穴っぽい“溝”がある。


『鍵炉区画:認証要求』

『血・印・誓い』


「血!? 出た! 王家の血統ゲー!!」


ヴァルドが当然のように手を差し出す。


「私がやる。監督局は王家の印章を預かっている」


彼は指輪を外し、紋章に押し当てた。

金の光が走り、扉が少しだけ開く。


『印:確認』

『血:未確認』

『誓い:未確認』


ヴァルドの笑みが濃くなる。


「見ろ。印は通った。次は血だが――君たちの誰か、王家の血はいるか?」


「いるわけないだろ!!」


私が即答すると、ヴァルドが肩をすくめた。


「なら“代替”だ。血の代わりに、王都の“鍵の破片”を使う。失効ログが残っているなら、初期層は反応するはずだ」


……は?

それ、私が折った鍵の破片のことじゃん。


レイナが一歩前に出た。


「あなた、なぜそんなことを知っているのですか」


ヴァルドはさらっと言った。


「監督局は、王都の設計資料を持っている。知らない方が不自然だろう?」


リリアがぼそっと。


「設計資料って言い方が、もう監査っぽい」


私の掌の破片が、ピリ、と痛んだ。

さっきからずっと、嫌なタイミングで。


「……なぁヴァルド。これさ、私が差し出したらどうなる?」


「扉が開く。種鍵へ辿り着ける。鍵が再発行できる。復興が加速する」


「メリットしか言わねぇな」


ヴァルドは笑った。


「メリットしかないからね」


その言い方が、逆に怖い。




私は一歩前に出て、破片を握り直した。

“言葉”を間違えたら、ここは死ぬ。

初期層は冗談を冗談として扱わない。


だから私は、短く、正確に言った。


「根本条項の適用範囲を拡張。

この鍵炉区画でも、“排除”を人間に適用するな。

そして私は――鍵の破片を“血の代替”として提供する」


扉が低く唸った。


『根本条項:範囲外――』

……と表示されかけて、


『臨時統治者:宣言を検知』

『誓い:照合を要求』


「誓い?」


レイナが私を見た。


「今です。“誓い”を言いなさい。王家の条項に似た形で」


私は息を吸った。

胸が熱い。怖い。

でも、ここまで来て逃げない。


「誓う。

私はこの王都を、人間が生きる場所として守る。

秩序は人命の上に立たない。

復興は虐殺の準備にしない」


扉の光が強くなった。


『誓い:仮承認』

『血:代替入力を要求』


私は破片を溝に差し込んだ。


――カチン。


その瞬間、痛みが走った。掌じゃない。胸の奥。

“登録”される感覚。タグを貼られる感覚。


『監査ログ:接続』

『監督局代理:同席確認』

『継承監査:起動準備』


「……なに、継承監査って」


ヴァルドの笑顔が、完璧に戻る。


「さあ? “正統”を確認するだけだろう」


嘘つけ。




扉が開いた。

中は広間だった。炉がある。巨大な炉。

火はないのに、空気が熱い。炉の上に、ガラスみたいなドーム。

その中央に、白い金属の台座――そこに、一本の“鍵”が寝ていた。


小さくない。

剣みたいに長い。

表面に、王都の紋章と……見たことない文字列。


「あれが種鍵……」


レイナが息を呑む。


リリアが、珍しく真面目な顔をした。


「……初期鍵。王都の“鋳型”。あれがあれば再発行できる。ほんとに」


ヴァルドがゆっくり前へ出る。


「では、回収しよう」


「待て」


私が止めると、ヴァルドが振り返る。


「何だ」


私は短く言った。


「“回収”って言うな。嫌な単語だ」


ヴァルドは笑った。


「言葉狩りか。臨時統治者らしい」


その瞬間――炉のドームが淡く光った。


『継承監査:起動』

『候補者を選定』

『正統性・責務・危険度を評価』


空気が一段冷える。

炉の上から、白い光が降りてきて――ヴァルドの足元を照らした。


『候補者:ヴァルド・グレイン(代理)』

『正統性:低』

『責務:不明』

『危険度:高』


「……は?」


ヴァルドの笑顔が固まった。


次に、光がレイナへ。


『候補者:レイナ(外部)』

『正統性:なし』

『責務:高』

『危険度:低』


そして、リリアへ。


『候補者:リリス・カーディナル(旧管理者)』

『正統性:特例』

『責務:不明』

『危険度:中』


最後に――私へ。


『候補者:臨時統治者(異常)』

『正統性:なし』

『責務:高』

『危険度:測定不能』


測定不能!?

おいそれ褒めてんのか貶してんのかどっちだ!!


レイナが小さく呟く。


「……継承監査は“監査官”とは別系統。古い仕組みです」


リリアが笑った。


「めんどいの第三ラウンド、来たね」


ヴァルドが低く言う。


「ふざけるな。代理権限は“正統”だ。監督局が低評価など――」


炉が冷たく返した。


『危険度:高の候補者は排除――』


「排除!?」


私が叫んだ瞬間、炉の刻印が光り、白い鎖みたいな光がヴァルドに絡みついた。


ヴァルドの顔が引きつる。


「待て! 私は監督局だ! 秩序だ! 王都の――」


「秩序とか言うな!! またそれかよ!!」


私は反射的に前へ出た。

ここが初期層でも、誓いは通った。

なら、今なら――“言葉”で止められる。


私は炉に向かって、正確に叩き込んだ。


「命令じゃない。誓いの追記だ。

“排除”は人間に適用しない――この鍵炉でも。

代替処理:拘束、追放、権限剥奪」


炉が一瞬、沈黙した。


『誓い:矛盾を検知』

『しかし誓いは――候補者の責務を優先』


光の鎖が、ヴァルドから少しだけ緩んだ。


「……効いた?」


レイナが即答する。


「効いています。ですが完全ではありません。早く種鍵を――!」


リリアがぼそっと言う。


「種鍵、誰が触る? ここ、選ばれた候補じゃないと弾かれるよ」


私は台座の鍵を見た。

あれは鋳型。王都の未来。


そして、ヴァルドは鎖を引きちぎろうと必死で――その目が、私の掌の破片を見て笑った。


「なるほど。

血の代替を入れたのは君か。

なら、継承監査は君を“候補”として固定する」


「固定?」


ヴァルドが囁く。


「君がここで“誓い”を折ればいい。

責務が高い君が壊れれば、王都は次の候補を求める。

その時、監督局は“正統”として――」


「黙れ」


私の声が低くなった。


「今その口動かすな。炉が拘束を“排除”に切り替えるぞ」


ヴァルドが笑った。


「切り替えてみろ。初期層の排除が起きれば、市民にも波及する。

君が拡張した誓いなど、まだ不完全だ」


……こいつ、分かってて踏みに来てる。

監査官の匂いどころか、本人並みに“秩序で人を殺す”タイプ。


炉の表示が更新される。


『継承監査:次の手順』

『候補者は種鍵を掴み、再発行の責務を宣言せよ』

『宣言できない場合――候補者を再選定する』


そして、最後の一文。


『再選定時、危険度:測定不能の候補者は“隔離”する』


隔離。

またその単語。


レイナが私の隣で、静かに言った。


「統治者様。あなたが掴むべきです。

あなたの言葉でここまで来ました。ここも、あなたの言葉で通します」


リリアが眠そうに付け足す。


「めんどいけど、正しい。

掴んで。誓いを“固めて”。

そうすれば、ヴァルドの立場は消える」


私は種鍵を見た。

手を伸ばせば、届く距離。


でも――掌の破片が、またピリッと痛む。

“監査ログ”が繋がったままだ。

掴んだ瞬間、私が隔離される可能性もある。


それでも。


私は笑った。


「上等。隔離? 望むところだ。

でも、隔離する前に――鍵は貰う」


私は一歩、台座へ――


その瞬間、炉のドームの奥に、もう一つの影が映った。

白い光の奥で、誰かがこちらを見ている。


『継承監査:追加監査者を確認』

『監督局ではない権限――』


……誰だよ、まだ出てくんの!?


ヴァルドが、初めて焦った声を出した。


「……その権限は、なぜここに――」


影が、静かに言った。


『異常候補者。

あなたの誓いは、秩序を壊す。

――よって、継承は許可できない』


空気が凍った。


レイナが刃を握る。

リリアが目を細める。

私の背中に冷汗が流れた。


でも、私は止まらない。


「うるせぇ。

秩序が人を殺すなら、壊して正解だろ」


私は手を伸ばした。

種鍵へ。


――掴む。


その瞬間、炉が眩しく光った。


『候補者:固定』

『隔離プロトコル:準備』


「来いよ。固定でも隔離でも。

鍵はもう、私の手の中だ」

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