第2話 山ガール? 森ガール?

 オリエンテーリング?


 入学式、校長先生のありがたいお言葉を聞き流しながら、考えていた。聞いたことはある。小学五年生の時に移動教室で八ヶ岳へ行った。たぶんその時にやったのだ。山の中でやるスタンプラリーみたいなものだ。たしか。


 ……いいんじゃね? そんなことを思う。いやいや、都合のいいことを言っているのはわかっている。ついさっきまで『山』『田舎』と馬鹿にしていたのに何を言ってるんだと、自分でも思う。陽光降り注ぐ木々の中を、木村先輩と歩く。「この花、何て言うんでしょう?」なんて話しかけてみる。うん、いい……すごくいい。なんていうんだろう? スローライフ的な? 山ガール? 森ガール? まぁ何でもいいか。


 そう、何でもいいのだ。どうせ他にやりたいこともない。元から帰宅部のつもりだった。帰宅を極めるつもりだった。大阪人はオチがない話をするといじめられたりハブられたりすると聞く。おそろしい。かかわらない方がいい。


 体育館から教室へ戻る。廊下の両サイドには様々な部活の二三年生がひしめき、各々の部の宣伝・勧誘活動をしている。正直やかましい。バスケ部やバレー部が背の高い一年生にちょっかいを出す。サッカー部がナンパする。吹奏楽部が謎の勧誘ソングを歌う。


 教室に戻ると、出席番号順で自己紹介をさせられた。出身小学校、中学で入ろうと思っている部活、そんなことを適当に話す。大阪人も、みんながみんな面白いことを言うわけではないんだな、なんて当たり前のことを確認しながら聞き流す。


「山川天です。東京から引っ越してきました。部活は……えーと、オリエンテーリングとかいいかなーと思ってます。そんな感じでーす」


 起立してから五秒後には着席。「へぇー、東京から来たんかー」「おりえん……? そんな部あったっけ?」などと多少波紋が広がるがすぐに収束する。


「山川さん?」


 なんやかんやとチュートリアルがあり、仮入部は明日からですよということで、あとは帰るだけ。そんなタイミングで、とあるクラスメイト男子に話しかけられた。


「僕、なわて大地だいちです。新聞部に入ろうと思ってるって自己紹介してんけど、覚えてる?」


 少し癖のある黒髪。くっきりした目鼻立ち。ピカピカの一年生と思えないくらいに制服の学ランがよく体になじんでいる。


「あ、あー、覚えてるような……」


 正直覚えていなかったので少し目をそらす。しかし新聞部志望の彼は特に気にした様子もない。


「まさか同じクラスにオリエンティアがいるとはなぁ」

「ん? 何?」

「ん? あ、もしかしてオリエン経験者ちゃうん? ごめんごめん、早とちりやったわ」


 ハハハと快活に笑う彼。意外とヤバい人なのでは……? なんとなくオタクっぽいし。


「うん。あんまり知らないんだけど」

「オリエン競技者のことを、オリエンティアっていうねん。僕はちっこい時から父さんに連れられてたまにやっとってな……」


 見ると、目立つほどではないけれど、彼の足腰は結構しっかりしている。学ランを着ているからかもしれないが、肩幅もまぁまぁがっしりしているように見える。山の中を歩いて健康的に楽しくダイエット。それもまたよし。


「ちゃんとオリエン部がある中学が、このへんでは楠木中しかなくてなー。新聞部に正式入部したあかつきには、ぜひ取材させてほしいわ」

「ふーん」


 畷大地は一人で興奮気味に話す。一方のあたしは木村先輩とのアウトドアライフに想いを馳せてニヤニヤする。微妙にコミュニケーションできていない。


「じゃ、また話そなー」


 畷くんは去って行った。

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