102警戒心
「もう春よ。未だ帰ってこないのかしら。」
「サーシャ様、毎日同じことを言っていますよ。
今回は、アーネス様も一緒だと言っていましたので大丈夫です。」
暖かくなってきてから、サーシャは毎日の様にマリー同じことを言っている。
拓から借りている、緑の髪をした少年の冒険小説を読んでから
サーシャはユンクと共に、ヘルガの下で魔導士としての訓練を受けている。
サーシャは魔導士ではないが、緑の髪の子が魔力を見ることが出来ると小説には書いてあったので自分でも出来るようになれないかと・・・
今日もヘルガの訓練から帰ってきた所だった。
貴族としての勉強とヘルガの訓練で忙しい毎日を過ごしている。
丁度着替えが終わった所で、扉がノックされ拓が帰ってきてヘンデリック侯爵と話が終わった事を伝えられた。
「やっと帰ってきたのね。本当に遅いんだから。
でも、先に私に挨拶が有っても良いと思わない。」
「拓様も旦那様と仕事の話も有るでしょうから。」
マリーに言われてみれば、サーシャも当然の事だとは思うが・・・
「マリー、私の髪可笑しくないかしら。
そうだ、トウ、バン、ジャンにも連絡しないと。
ヘルガとユンクには明日伝えれば良いわね。」
拓を迎えたのは、警備をしていたトウで、バン、ジャンには伝わっているとの事。
マリーに髪をとかしてもらうと、急いで部屋を飛び出していった。
居間では、ヘンデリック侯爵の前に拓とアーネスが座り、後ろにガラが控えていた。
仕事の話を終えて、雑談をしている所に
「拓、やっと帰ってきたのね。」
扉を勢い良く開いて声を掛けるサーシャに
「サーシャ、客が来ているのに、その態度は問題だな。」
ヘンデリック侯爵が注意をしていた。
改めて、拓、アーネス、ガラと挨拶をし、ヘンデリック侯爵の横に座った。
「久しぶり、サーシャ。元気そうで・・・周りに迷惑を掛けてない?」
「何よその言い方は。拓って変わらないわよね。」
その後は、サーシャの拓への質問が続いていたのだが
長旅で疲れているだろうとヘンデリック侯爵が気を使って拓達を解放した。
アーネスとゴンは宿に戻り、拓とガラは自分達の小屋へと帰った。
「サーシャ、ルドルフに伝えておくから
明日の朝は朝食を持っていってあげるといい。」
嬉しそうなサーシャが出ていくのを見送ると、
直ぐにセバスを呼び、先ほど受け取ったポーションを市場へ回すように指示を出す。
春先で魔獣の活動も活発になり、怪我をする冒険者も多いだろうと普段の倍の量を納品してくれた。
これだけの量であっても、高い品質は維持されている。
セバスがポーションを受け取り部屋を出ていくと、ヘンデリック侯爵は1人で拓の事を考えていた。
春になり魔獣が活動を始め、冒険者達が拓の作る高品質のポーションを求めていた。
ポーションを作る薬剤師は多いが、拓の作る物は既にブランド品として広まっている。
何時販売されるのかという問い合わせも多く、いつもの倍だろうと直ぐに売り切れるだろう。
ヘンデリック侯爵はアルバート侯爵から手紙をもらい、拓が孤児で、育てたのがフォスター大魔道師と知り
先ほど、拓に問いかけてみると
「そうです。もしかしてアルバート侯爵から連絡が有りましたか。」
特に隠すわけでもなく、答えてくれた。
拓の知識や技術は、フォスター大魔導士から受け継いだのだろう。
フォスター大魔導士は、王宮での貴族間の派閥争いに嫌気を差し宮廷魔導士を止めたと聞いている。
もしかすると、拓も貴族に対して思う所が有るのかも知れない。
以前は話を逸らされた事を考えると、我々に対する警戒心も少しは無くなったとみて良いだろう。
おまけに、サーシャの髪の事も調べてくれていた。
出来れば専任の薬剤師として囲い込みたいが、拓とは今の関係が丁度良いと考え直していた。
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