新米配達員、がんばります 1



 一ヶ月の研修期間が終わり、スバルは今日から配達員として各星々を回ることになる。

 いよいよだ。子供の頃から憧れていた竜便局員の仕事が本格的に始まる。

 竜便局員の鞄には魔法がかけられていて、竜と同じくらいの大きさの荷物もしまうことができる。どんな大きさの荷物もしまえるように、かぱっと開くがま口仕様だ。

 手紙の配達と小包の配達は日によって担当者が変わるので、出勤して一番に当番表を確認する。

「ええと、今日は小包担当で。配達先は…青の星の水の国か」

 虹のトンネルの先の七つの星々は、赤の星の火山の国、橙の星の学問の国、黄の星の砂漠の国、緑の星の森の国、青の星の水の国、藍の星の布の国、紫の星の魔法の国という七つの国になっていて、それぞれに星竜とひとと、たくさんのいきものたちが住んでいる。

「お、スバルは今日からか。頑張れよ」

 研修期間中スバルの指導係だったコウヤが声をかけてくれたので、スバルは元気に返事をする。

「はい!」

「へぇ。りゅうパック担当で配達先は水の国か」

 竜便配達の小包はりゅうパックの通称で親しまれている。

 ひとつ頷いたコウヤの目がきらんと光った。

「りゅうパックの配達で大切なことは?」

 コウヤの問いに、スバルはぴっと姿勢を正し、研修中に暗記した心得を澱みなく答える。

「荷物の扱いは丁寧に。受け取り手と伝票の住所氏名に相違がないかを確認して、受領のサインか印鑑をもらうこと」

「あともうひとつ」

「えっ!?」

 スバルは慌てて記憶をたぐる。

「…あ! 竜便局からお届けものです、と最初にはっきり伝えること!」

「正解」

 なんとか答えたスバルは胸を撫で下ろす。

「よしよし。俺の指導の賜物だな」

 満足そうに頷くコウヤの後ろを、たまたまなのかわざわざなのか、局長のテンカがすいっと通り過ぎながら口を開いた。

「お前も新米のときはあれこれ抜けたよなぁ」 

 目を剥いたコウヤは首をめぐらせて語気を強めた。

「いまそれ言わなくてもいいだろおっさん!」

 テンカはにやっと笑う。

「あの粋がった荒くれ竜が本当に立派になって…」

 わざとらしく目元を拭う仕草をするテンカに、コウヤは半眼になる。

「もう黙れおっさん、いいから黙れ。あっちで仕事しろ」

「お前に言われなくても仕事はするよ〜」

 スバルは苦笑する。このふたりの気のおけない会話にはじめは驚いておろおろもしたが、いまでは慣れっこだ。

 テンカにだけちょっと口の悪いコウヤには、ふた親がないのだという。どこかの星でひとりで生きていた幼少の頃に、なにやら縁があったとかでテンカが身元引受役となり、星ヶ原にやってきてから猛勉強して試験を突破し竜便局に入ったそうだ。

 なぜ竜便局に入局したかをコウヤに直接尋ねたことはないが、テンカが竜便局員だったからなんだろうなと、スバルはこっそり思っている。


 

 各星の竜便支局から別の星に発送される手紙や小包は、この星ヶ原の中央竜便局に集まって、仕分けをされて、それぞれの星に送られる。これを星間便という。

 一方、それぞれの星の国内便は、支局に勤務するそれぞれの星の住民が取り扱い配達する。

 支局の星竜や宙ノ龍は支局間のコンテナ輸送担当だ。

 今日スバルが受け持つ水の国あての小包は、両手で抱えるくらいの大きさの箱がひとつだけ。

 発送元は緑の星の森の国。品名には「春」と書いてある。

 スバルは首をかしげた。

「春…?」

 箱はずいぶん軽い。

 宛先はマルガリタ海溝三番街の岸壁アパート。海の中だ。

 がま口鞄に小包をしゅるんと入れて、スバルは制帽を被り直す。

「では行ってきます」

「気をつけてな」

 コウヤに手を振って、スバルは虹のトンネルに飛び込み、翼を大きくはばたかせた。





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