第4話 幼馴染が作るお菓子が美味しすぎるんですけど?!

 日曜日。紗雪が私の家でご飯を食べて、お泊りをした次の日のこと。私と紗雪は午後のティータイムでも楽しもうと、行きつけの喫茶店に向かった。私達が住んでいる住宅街の近くにある、落ち着いた雰囲気の喫茶店。年月を重ねた雰囲気のある飴色の木材の建物は、大きなガラス窓から日の光を取り込んでいて開放感を感じさせる。テラス席では犬を連れたマダムたちが談笑していて、そのテーブルから甘い香りが流れてきた。


 扉を開けて中に入るとチリンと鈴の音が鳴った。その音に反応して、カウンター席に座っていた青いポニーテールがくるりと回る。


「いらっしゃいませー」


 落ち着いたBGMが流れる店内に似合ったゆるりとした声色は、自然と耳に入ってくる心地の良いものだ。青いポニーテールの彼女は白とブラウンの縦縞が入ったワイシャツ着ていて、首元には黒いスカーフネクタイが緩く巻かれている。そして、ブラウンのロングエプロンを腰に巻き、慣れた様子で人当たりのいい笑顔を作りだす。彼女の暖かい黄色の瞳は私達の姿をとらえると、ぱちんと瞬きして、さっきまでとは違う気が緩んだ表情を見せた。


「なんだ、風香と紗雪か。今日も楽しくデートかぁ?」

「でっ、でぇっと!? って、揶揄わないでよ!」

「うん。いつもの席に座っていい?」

「ははっ、相変わらずだな。こちらにどうぞー」


 彼女はケケッと悪戯っぽい笑顔を見せて、慣れた足取りで私たちをカウンター席の端に案内した。彼女の名前は森崎もりさきかえで。この喫茶店「Maple leaf《メープルリーフ》」の看板娘で、私達とは幼稚園のころからの付き合い。つまり、もう一人の幼馴染だ。


「ご注文は?」

「ミルクティーとメープルパンケーキで」

「私はメープルラテとチョコレートマフィン」

「かしこまりました。それじゃあちょっと待っててね」


 私達の注文を聞いた楓は厨房に入っていった。この端っこのカウンター席はテーブル席の方から遠く、カウンター席も埋まることは殆ど無いため、おしゃべりするにはちょうどいい場所なのだ。この席に座ってみんなでおしゃべりをすることが私たちのお決まりになっている。


「お待たせしました」


 お店にあるファッション誌を読んで時間を潰しているうちに注文の品が運ばれてきた。紗雪が注文したメープルパンケーキはこの喫茶店の看板メニュー。これでもかというほどメープルシロップがしみ込んだパンケーキで、中毒性のある甘味が味わえる逸品だ。


 私が注文したメープルラテはエスプレッソとミルクにメープルシロップを加えた、ほんのり甘いカフェラテ。すこし振ってあるシナモンの香りがキーポイントだ。そして、このチョコレートマフィンは私の誕生日に楓が作ってくれたものを商品化したもの。チョコレートが練り込まれた生地はしっとりとしていて、口当たりのいい甘さが私好みのマフィンになっている。


「あっ、楓ってば自分のも作ったの?」

「お母さんが二人と話しときなって作ってくれたやつだよ。まぁ、休みをくれるんならお言葉に甘えるけどさ」


 楓は私達が注文したものとは別にメープルパンケーキと紅茶をお盆にのせていた。楓のお母さんは私達が来たら、相当忙しくない限りは楓にこうして私達と話せるようにしてくれる。気を遣ってくれているのだろう。こんな優しいお母さんがいるから、楓も優しく育ったんだろうな。


「それじゃ、いただきまーす」


 マフィンの型を外してパクリとかぶりつく。チョコの甘味が一気に広がり、ふわふわな食感が私の胸を幸せで満たした。何回も食べているけど、楓のチョコマフィンは全く飽きが来ない。


「お味はどう?」

「おいしい」

「やっぱり楓が作るスイーツは美味しいね」

「へへっ、お褒めにあずかり光栄です」


 スイーツの感想を伝えると、楓は照れ臭そうに笑った。楓はさっぱりとした性格で、掴みどころがないように見えるけど、こうして褒めた時には素直な笑顔を見せてくれる。私たちが注文したものは必ず自分の手で作ってくれる楓の愛情は、いつも私達を笑顔にしてくれた。


 料理が得意な私だけど、お菓子作りに関しては楓の方が上手い。こんなにおいしいお菓子を作れて、優しく私たちを見守ってくれる友達がいる私たちはとても幸運だ。


「それで、そっちのクラスではうまくやれてる?」

「なんとかなりそうかな。委員長も優しい人みたいだし」


 楓は私達と同じ高校に通っているけど、違うクラスに居る。一緒になれなくて残念だねと言った時は「いちゃつく君らの面倒を見ずに済んでむしろ安心してるよ」と言っていた。でも、一緒になれたらなれたで喜んでくれていただろう。クヨクヨするのは時間の無駄。器用に楽しく生きることがモットーな楓は、どんな状況でもプラスに捉えてしまう。そんな強さを持つ楓だからこそ、互いの事ばっかり考えている不器用な私たちを気にかける余裕を持っているんだろう。


「昨日、紗雪がショッピングモールで偶然委員長に会ったらしいの。その時にお菓子をくれて、荷物も持ってくれたんだって」

「ずっと笑ってて変な人だった」

「へぇ、初見の紗雪にニコニコ対応できるんだ。人当たりの良さの鬼だね」

「どういうこと」

「そーゆー怖い目を向けてくるとこを言ってるんですー」


 紗雪を揶揄うような遠慮のない物言い。紗雪の表情に怯まずに笑顔で返す豪胆さ。長年付き添っている楓は、紗雪の扱いは慣れている。そして紗雪も、ずっと一緒に居る楓にはそこまで拒否反応は示さない。独占欲の強い紗雪は私が他の人と話しているだけで機嫌が悪くなるけど、楓に対しては二人で遊びに行くことも許してくれる。


「まぁでも、二人が上手くやれてるならよかったよ。こっちはこっちで面倒見なきゃいけない子がいるからね」

「あー、それってやっぱり」

「来たわよ! 楓!」


 噂をすればなんとやら。話題に出そうとした瞬間、勢いよく扉が開いて聞き慣れた元気のいい声が店内に響いた。

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