第168話◆その頃ノエルと王城は…
【事前のご案内】
◇ちょこっとシリアスな内容を含みます◇
今回から数話は、いつものスローライフとはちょっと違うお話になります。
それでも主人公の歩みの中で欠かせない時間となりますので、
どうぞ肩の力を抜いて、一緒に見守っていただければ幸いです。
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「万が一の時は、私が刺し違えてでもノエルちゃんを逃がすからね。ロニー、ケイト、後は頼んだよ」
審問室前で、涙をこらえきれないおばあちゃんが私をぎゅっと抱きしめる。
その細い腕は震えていて、だけど力強くて、胸の奥が熱くなった。
ロニーさんもケイトさんも、おばあちゃんの言葉に何かを決意したように、真剣に頷いている。
今朝のことも思い出す。
出発前、タリサが無言で私の耳にイヤーカフスを取り付け、エルディナさんが手首にブレスレットをはめてくれた。
尚、怖くてまだ鑑定はしていない。
二柱の精霊がくれるアクセサリーが普通のはずがないもの。
きっと、私を守るための切り札なのだ。
「もー、おばあちゃん。そんな物騒なこと言わないで。ね? たぶん、大丈夫だから」
“大丈夫”――そう言える根拠は、ちゃんとある。
召還の数日前、ブラッドベリ伯爵様を通じてリアムさんが届けてくれた王妃様からの手紙。
そこにはたった一言、こう書かれていた。
「私に任せなさい」
それだけで十分だった。
私の足元では、ガチャ丸たちが小さな輪を作って何やらヒソヒソ相談中。
すると突然――
「わわわっ!!なに?なにごと!?姫ちゃま!!」
胸元から、姫ちゃまがぐいぐい服の中に潜り込んできた。
どうやらそこから一歩も動く気はないらしい。
モゾモゾとした感触にくすぐったさと違和感を覚えつつも「これも心配してくれてる証拠だよね」と、なんだか泣き笑いになりそうだった。
(結局、みんなに、心配ばかりかけてるなぁ……)
そんな申し訳なさを胸に、私は王都中央薬師ギルド本部の中央審査室――“審判@gT室”と刻まれた重い扉をくぐった。
入った瞬間、空気が変わる。
部屋の奥に並ぶ長机、床を覆う重厚な赤い絨毯。
けれど、その場に満ちているのは温かさではなく、氷のような冷たさと薄い嘲笑だった。
「手を」
厳つい男が乱暴に私の手首と足首へ枷をはめる。
重く冷たい金属の感触に、思わず息をのむ。
(…こわい……)
足枷は鎖で繋がれ、歩くたびに鈍い音が響いた。
(…これじゃ、まるで本物の犯罪者だわ…)
重い鎖を引きずりながら、どうにか審問台へ辿り着く。
そこから見えるのは、私を囲むように配置された薬師ギルドの幹部たち。
一段高い席に、立派すぎる椅子。
見下ろす視線は、好奇と軽蔑が混ざった嫌な色をしている。
特に正面。
でっぷり太った、金ピカ装飾をじゃらじゃらと身につけた中年の男――まるで金貨を飲み込みすぎたカエルのような顔。
その口元に、ねっとりとした薄ら笑いを貼り付けたまま、じっと私を眺めている。
背筋を伝うのは冷気ではなく、ぞわりとした不快感。
カン、カン、カン――。
司会役の審問官が、裁判で使うような木槌を鳴らす。
その乾いた音が、部屋中の視線を私に集めた。
「発行番号:X7g-@Q-9L-r3Tz。受領者、ノエル――個人商号未登録。
通達内容:違反行為に関する正式警告および召還命令。
薬師ギルドの許可なく、ポーションに準ずる回復効果を持つ物品を違法販売した疑いを問う」
厳かというより、勝ち誇ったような声。
その一言一言が、周囲の幹部たちの口元を歪ませ、金ピカのカエル男の喉からは小さく笑うような音が漏れた。
私は鎖の重みを感じながら、唇を引き結んだ。
背後にいる家族の温かさを胸に……この冷たく濁った場所に立っていた。
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時は遡り、十数日前の王城――。
娘から手渡された手紙を読み終えた王妃リヴィアは、静かに息を吐いた。だがその瞳には普段の柔らかな光はなく、王妃としての厳しい決意が宿っていた。
「今すぐ王のもとへ参ります。調整をお願い」
呼びかけられた侍女リーズリィーは、一瞬でその変化を悟る。これは“王妃”の顔だ。彼女は無駄な言葉を挟まず、深々と一礼し、足音も静かに執務の準備へと走った。
リヴィアが王マルクスの執務室へと急ぐその頃――。
王はちょうど、ブラッドベリ伯爵との緊急謁見の最中だった。そこへ、影のように現れたゼロが、低く報告を始める。
「件のポーショングミ――製造者はノエルで間違いありません。薬師ギルドが召還命令を発しました」
「理由は何だ」
王の問いに、ゼロは迷いなく答えた。
「ノエルの社会的抹殺と技術の強奪。両方を狙っているようです」
王の眉間に深い皺が刻まれる。
「民の技術を盗み、あまつさえ命を救う者を潰そうとは……下劣の極み。許すわけにはいかん」
その言葉に、ブラッドベリ伯爵も鋭く頷き、握りしめた拳に力を込めた。
「もしこのことが超越者達の耳に入れば……国が落ちます」
「左様。なんとしても阻止せねばなるまい」
そこへ、先触れとして文官が駆け込み、緊急の要件を告げる。
「王妃様より、至急の謁見を」
こうして偶然にも、ノエルを救うための駒が三者揃った。やがて到着した王妃リヴィアも加わり、扉が閉ざされ、極秘会談が始まる。
王が問いかける。
「リヴィア、お前もこの件を聞きつけて来たのか」
「ええ。薬師ギルドの横暴は今に始まったことではありませんわ。民の命を救うためのポーションが、今や金と権威を誇示する道具になっている。この現状は、放置すべきではありません」
その声には、静かな怒りと深い憂いが混じっていた。かつてリヴィアは、ノエルの作った“蜂蜜”で命を救われた経験を持つ。
ポーションではなく「蜂蜜」である。
あの時の温かさと、心を込めて作られた甘い蜜の香りは、今も忘れていない。
(あの黄金芋だって……屋台で出せる味ではなかった。知識も技術も、あの子には民の生活を変える力がある)
だからこそ、彼女は確信している。
――ノエルは、この国の未来を切り拓く存在だと。
しかし、その道を塞ぐように、利権と欲にまみれた薬師ギルドが居座っている。
彼らは進歩を拒み、富を独占し、命を救うべき技術さえ握り潰す。
「腐った枝は、切り落とすべきですわ」
リヴィアは迷いなく告げた。
「これを機に、薬師ギルドの幹部を挿げ替えましょう」
その一言に、王の瞳が鋭く光る。ブラッドベリ伯爵も深く息を吸い、頷いた。
ゼロは無言のまま、しかし唇の端を僅かに吊り上げる――この場の全員が、同じ方向を見据えた証だった。
会談は短くも濃く、決意と計画だけを残して終わる。
それぞれが持つ役割は異なるが、目的はただ一つ。
――ノエルを救い、この国の未来を腐敗から守ること。
そして、王妃の胸には一つの誓いが刻まれていた。
(ノエル。あなたの灯す光を、絶対に消させはしません)
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≪週2回、金・土で更新予定≫
※出来上がり次第更新予定なので、頻度は上下する可能性があります。
お読みいただきありがとうございます。
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この物語があなたの癒しになれば幸いです。
では、また週末に。
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