第19話 私は月夜に心配されている

目覚めると知ってる天井……保健室?


カーテンで区切られた白い味気ないベットに彼女がいるだけでも雰囲気が変わっていた。


「あ、朝日!! 大丈夫?」


目の前には泣きはらした月夜がいた。


涙をポロポロ流していた、普段のクールな顔がしょうがない子。私は手を伸ばして、月夜の頬にふれていた。


「大丈夫よ。月夜……」


……あれ、どこかでこんな光景をみたことあるような……わからない……


「良かった……何かあるとどうしたかと」


そう……心配してくれて……

私も目を覚めない月夜を見ながら涙を流していた。


気持わかるよ……私も起きるまで月夜の手を握り話してたから……


そんなに、私のことを


「大切に」


「当たり前でしょ、朝日!」


私を心配する様子に安堵の息をつく。

ふと、冷静になる。


「……ごめん」


最近はドタバタしていたからな……だからかな……貧血とかと重なったんだろう。


「ううん。いいの。朝日むちゃしないでね」


月夜の言葉は温もりに溢れていた。

私はうれしくて、彼女の手を握る。


「うん」


そう、病室では逆だった。

月夜の伸ばした手を握って、涙を流したのは私……起きない月夜に……あれ、私はどうして……


記憶の中でごめんねと謝る自分の姿が思い出して、そして、儚く溶けていく。


何かの記憶が刺激する。


そんな時に扉がガラッと開く。


「朝日先輩!」


元気な子だな小春が保健室に入ってきた。


「大丈夫ですか!」


いきなり肩をつかみ、ゆらゆら揺らす。


ちょ、そんな激しくって……そんな意味じゃないから。


「お、落ち着いて……小春」


倒れた時、そばにいたような気がするけど、どうして今頃。


「そうだ!忘れてました!! 顧問とクラスの先生にはいっておきました」


元気に報告する。気を使える後輩で役に立つな。


そこに、ざわざわと剣道部員達が心配そうにゾロゾロと入ってきていた。


「だ、大丈夫香坂さん」

「倒れたって……聞いてさ」

「熱中症なの 。スポドリのんだか!」


うわっ。恥ずかしい。

ワイワイと私の周りに集まってきた。


さっきまで、月夜と二人の世界を返してよ!!


「鍛えたりないな。筋トレ追加だ!」


体育会系の宍戸先輩がパワハラみたいなこと平気で口にしている。


顔を青ざめてしまう。


「ちょ、ちょっと!」


私が周りを落ち着けようとするが変わらない。


「先輩方落ちついて」


小春が周り私の周りにできたかき分けてくれようとする。


できた後輩だ。けど収まらない。


もうすぐ授業なのに、こいつら、私を心配するつもりで、サボる口実にしたいのか!


「朝日もつかれているから。休み時間終わるよ」


月夜も止めてくれようとしていた。


ふと、垣根を見ると複雑な表情で私をみてる先輩がいた。


後藤先輩だ。


そっか、彼女は自分のせいで私が倒れたと思っているのかもしれない。


私が倒れたのはむしろ、昨日遅くきた小春のせいなのだから、私はおろおろして周りの騒動をみていた。


「あっ、後藤先輩のせいじゃないです。稽古でもよく見てくれてましたし」


私の言葉に後藤先輩は目を丸くする。


「懸かり稽古の時の相手が後藤ちゃんなの?」


先輩が口を開いた。


「本当に私の体力のなさが原因です。なので攻めないでください」


「私がちゃんとみてないから……」


少し、彼女を責める空気ができたが。


「仕方ないさ。体力ないのが悪い!」


と斜め上の慰め方をする宍戸先輩に、彼女の懸かり稽古でも、倒れた生徒が山程いた事を思いだす。


そして、後藤先輩はいつも気遣っていた。


「そのとおりですね……」


私も辛勝な態度でこの場を治めていた。


なんともなくて良かったけど、宍戸先輩なら、私は死んでいたかもしれないなと冷や汗が流れた。


そこに、チャイムが鳴る。


「朝日が寝れないから、授業に行こう」


軽く誘導する月夜。

目論見が外れたとばかりに生徒たちは保健室からでていく、そんな時、1人の部員が私に近づいて。


「あの……お願いをしていいですか?」


と言ってきた。えっ、なんだろうかと思い軽く頷く。


「小春から聞いたのですけど、私たちにもお弁当の作り方教えてくれませんか?」


なんだ、お弁当か……お弁当か……えっ?











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