鳥鳥(bird bird)
渡貫とゐち
#1 鳥鳥
「やっと死んだか」
隣にいた鳥――、
カラスがそう呟いた。
「いや、やっとって。酷いなお前」
「だって、やっと死んだかって感じじゃね?」
ま、確かにな。
色々とうるさかったし。
「色々と言われたなあ……、
あいつ、飛べよ飛べよって……無理だよ――だって俺、ペンギンなんだから」
「もしかして、あいつ知らなかったんじゃね? お前がペンギンだってこと」
「えー。マジか。俺のこの容姿で分からないって、どういうことなんだよ。
俺、何回も言ったぜ? ――俺、ペンギンっす、って」
何度も何度も言ったはずなんだけどなあ。
死んだあいつは、
「違う! お前はきっと飛べるはずだ!」って――いや、無理だろ。
「そもそも、飛ぶ必要なんてないんだから、別にいいじゃんって思うんだけど――お前はどう思う?」
「まあ、確かに飛ぶ必要なんてないと思うけど……、だってお前の生息地って海でしょ?
いや、オレは街中で飛んで移動する種類だから仕方ないにしてもさ。
でも、やっぱり進化していかないと。そういう時代なんだから」
そういうもんかなあ。
進化って。
俺、街で住む気なんてないんだけど。
「あれ? お前、こっちに引っ越してくるんじゃないの?」
「いやいや。誰がそんなこと言ったんだよ。
俺、だって南極にいるぜ?
たぶんこれからもずっと。
今日はたまたま、あいつの葬式にきただけだよ」
「でもさっき、お前の母ちゃんに会ったら――『近いうちにこっちにくるわよー、おほほほほ』とか言ってたけど?」
「あのババア、口から出まかせ言いやがって」
「で、お前自身はこっちにくる気はないのか?」
ないね。
と言いたいところだけど。
「最近、南極も危ないからなあ。
こっちら辺の海にはいきたいと思ってる。
なんだかんだ言って、都会ってのは憧れの場所だからな」
「なら、こいよ。オレが案内してやる」
「きたら、な」
それよりもだ。
あいつが死んでしまったら、たぶん、世界中の鳥たちが暴れるかもしれない。
いま、いちばん心配なのはそれだ。
「なんだかんだで、あいつは世界中の鳥たちのストッパーみたいなものだったし。
いなくなったらなったで、反乱が起きるぞ」
「カラス派閥があって、それが二つに分かれてるんだろ?
このまま、いままで通りに暮らすか、それとも変えるか。
あいつが残した制度も、どうするか、だしな」
意外にも大きな問題だ。
俺たちペンギンもそうだ。
二つの派閥に分かれていて、どうするか、大議論中である。
この前は一回、戦争にまで発展しそうだった。
まったく。
いきなり死にやがって、あいつめ。
「どうする?」
カラスが聞いてきた。
「どうするって」
「このまま黙って見てるわけじゃないんだろ?」
「まあ、な」
じゃあ、どうするって言うんだ?
「ふたつにも属さない、新しい派閥を作ってしまえばいい。
それなら、オッケーじゃねぇか?」
「……乗った」
「そうこなくっちゃ」
賛成でもない、反対でもない、どちらにも属さない、新しい派閥。
中立を作る。
それは――世界を整える、鍵になるかもしれない。
「なら、まずは仲間集めだな」
「じゃあ、誰のところにいく?」
「とりあえず」
俺は、同類を指名した。
その方が安心するし、そいつとは仲が良かったからな。
俺と同じで飛ぶことのできない――少しも飛べない、あいつ。
「ニワトリに声かけようぜ」
飛べないからって、なにもできないとは限らないんだからな。
…おわり
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