第15話 大魔王様、困惑

 激闘の末、オレ達は赤鱗王の『先祖返り』を治療した。

 膨大な魔力を宿した宝石『赫奕かくやくの心臓』を引き剥がし、先祖返りの原因となった高純度の魔力と呪いを除去。赤鱗王は元の姿へと戻った。


 作戦成功だ。

 赤鱗王を救助し、大魔王城の新たな動力源となる赫奕の心臓も確保した。大魔王としての初陣は完璧なものとなったと言ってもいいだろう。


 気がかりなのは、赤鱗王の容態。意識を失っていた彼を竜人族の村に運び込んだが、半日が経過しても目を覚ましていない。

 何年もいわゆる暴走状態だったのだから、数日寝込むくらいはありえることだが、やはり、彼が目覚めないのでは片手落ちだ。


 赫奕の心臓を城に運び込もうにも、この宝石は竜人族の宝でもあるそうなので、一応、族長でもある赤鱗王に許可を取ってからでなければ問題が起きかねない。

 その族長の娘であり、代理でもあるイーグレットはオレの騎士でもあるわけで、否とは言うまいが、ここは慎重にいくことにした。


 竜人族の村はこの世界における最初の征服地。我が大魔王軍団の根拠地ともなる場所だ。統治するにあたってはできるだけ穏当に、かつ住民の合意を得て権力を握りたい。何事も足元が揺らいでいてはままならないもの、ここは地固めをしっかりとやっておかねば、と思っていたのだが――、


「――申し訳ございませぬ!」


 翌朝、目を覚ました赤鱗王は開口一番そう叫んだ。

 昨日の今日だというのにすでに布団の上で土下座をしている。意識もはっきりとしているようだ。

 

 しかし、こうして改めて向き合うと、原作通りの巨漢っぷりに感心する。先祖返りの影響か、筋肉は落ちてやせ細ってはいるものの、身長は2メートル以上あり、肩幅も布団からはみ出すほどに広い。

 これならば我が大魔王軍団の巨漢高潔武人枠が十分に務まる。親子二代、それも前魔王も併せて二代に渡って仕えてくれるとなれば、二乗の熱さだ。胸が躍る。


 それに、赤鱗王はとても義理堅く信用できる。

 原作では人間側の将軍とも友誼をかわし、彼を倒した後も約束通りにその部下たちを人間界へと送り届けるというエピソードもあった。他の四天王や魔王から叱責されても、彼は亡き友との友情に殉じたのだ。


 オレもそういう実直さは好きだ。部下としては扱いずらいところもあるのだろうが、それを呑み込めない程度ではラスボスは務まらない。


「何を謝罪する。赤鱗王よ」


「陛下。わしは先王『カースレア』様の臣であり、我が一族は代々の魔王に仕えてまいりました。当然、今代の魔王であらせられる陛下の臣でもございます。お仕えし、お支えせねばならぬ身だというのに、このようにお手を煩わせ、あまつさえ、命を救っていただくことになるとは……面目次第もございませぬ!」


 赤鱗王が床に頭をこすりつけると、同席していたイーグレットやほかの村人たちもそれにならう。

 ……すごく、気まずい。いや、ラスボスとしてはここで優越感の一つも感じるべきなんだろうが、こちらも目的があって助けたわけだし、こうもかしこまられると逆にやりづらいぞ。


 しかし、代々の魔王に仕えてきた、か。

 原作の『魔王ガイセリウス』の配下に赤鱗王はいなかった。おそらくあの脳筋には巨竜となった赤鱗王を救えなかったのだろう。その点でも、やはりオレの方が遥かに優れている。


「許す。頭を上げよ、赤鱗王。他のものもだ。余が求むるのは負い目ではなく忠誠だ。とががあるというなら、働きで償うがよかろう」


「も、もったいなきお言葉……!」


 言葉を掛けると、頭こそ上げるがますますかしこまる竜人族たち。昨日まではこんなことはなかったのだが、赤鱗王が戻り、多少の余裕がでたことで今更ながらオレの凄さを認識しだしたらしい。

 ……まあ、威厳があるということでよしとするか! なにせ、大魔王だからな。恐れられ、敬われておいて損はない。


「して、赤鱗王よ。余は今、魔王軍の再建を、いや、新たなる大魔王軍の編成を行っている。この村に立ち寄ったのはその件についてそなたの協力を得るためだ。力を貸してくれるな?」


「もちろんでございます! この赤鱗王『ゴールウィン』、臣として粉骨砕身働かせていただきます!」


 すぐさま体を起こし、騎士として片膝を突いて礼を取ろうとする赤鱗王。しかし、途中でふらついて倒れそうになったのをイーグレットが支えた。

 ……どうやら精神的にはともかくとして肉体的にはまだ回復していないようだ。


「父上! 無理をしては……!」


「無理なものか! 騎士として礼を欠くなど許されん!」


 娘に支えられて、どうにか姿勢をとる赤鱗王。たったそれだけのことだが、息が上がっていた。

 これはどうしたものか。この状態では正直、即戦力としては期待できない。むしろ、無理をさせて彼という重鎮を失うほうが問題だ。


「赤鱗王よ。そなたの志は承知している。娘であるイーグレットを見ていれば、よくわかる」


「畏れ多いお言葉……! 娘はまだ未熟ですが、幼少の頃より騎士として鍛えてまいりました。かならずや陛下のお役に立つでしょう……!」


 娘であるイーグレットを褒めると、厳めしい赤鱗王の顔がわずかに緩む。

 実際、イーグレットの加入は嬉しい想定外だ。戦力としては大いに期待できる。今のところはそれで良しとすべきか。


「うむ。我が騎士として存分に働いてもらう予定だ。ゆえに、赤鱗王よ。我からそなたに命を下す」


「はっ! 騎士ゴールウィン、ここに!」


「そなたにはこの蒼炎山の守護を命じる。この地は我ら大魔王軍の根拠地。その守りをそなたに任せたい」


「……はっ! 拝命いたします……!」


 オレの意図を察してか、赤鱗王は一瞬苦い顔をするが、すぐに引っ込める。さすがは騎士の鑑だ。主の前では滅私奉公に徹している。

 

 しかし、不満を溜めればそれが蟻の一穴にもなりうる。きちんと、ケアしておくべきだろう

 

「そう案ずるな。いずれ我が軍は大きくなる。そうなった時、そなたのような重鎮は必ず必要になる。今は故郷を守り、傷を癒せ。その間はそなたの娘が我が盾となろう」


「……なんとも、ありがたきこと……! イーグレットよ、精進せねばならんぞ……!」


「はい、父上! すでに我が身命、みさおは陛下にお捧げしておりますれば……!」


 …………みさおだと貞操とかそんな意味になるからあらぬ誤解を招きそうだが、周囲は気にしてない様子だから大丈夫だろう、たぶん。

 

 ともかく、これでこの竜人族の村に来た目的の半分は果たせた。問題はもう一つの目的の方だが……、


「それと、赤鱗王。『赫奕の心臓』だが――」


「はい、陛下。娘からすでに聞き及んでおります。我ら竜人族の宝、ぜひとも征旅の糧としてくださいませ」


「お、おう。ありがたく使わせてもらうぞ」


 思ってもみないほどに、簡単に話がついてしまった。

 一族の宝ということで少しは渋られたり、揉めたりするのではと警戒していたが杞憂だったか。


「陛下。これまで竜人族は、歴代の魔王様に忠誠を誓ってまいりました。ですが、その代価としてこの赫奕の心臓を私有することを許されてまいりました。ですが――」


 そう思いかけたところで、イーグレットが口を開く。彼女の瞳には誇らしさと喜び、そして、オレへの尊敬が見て取れた。

 ふ、配下から慕われるのはいい気分だ。ラスボスはおおむね悪だが、悪だからといって人望がないということはない。いや、むしろ、悪だからこそ、真に人の心を魅了できるということもある。

 

 ちなみに、赤鱗王を含めて、竜人族の全員がオレに忠誠を捧げているが、特性は増えなかった。例の効果音こそ連続して鳴ったが、イーグレットから得た『赫奕の竜鱗』以外には見当たらなかった。

 どうやら、オレの特性『昏き底の冠アンラ・ズゥカル・ナイン』が習得できる臣下の特性は一種族につき一つとなっているようだ。まあ、確かに効果が重複するわけでもないのなら同じ特性を無数に習得してもステータスが見ずらくなるだけだから、構わない。


 むしろ、こういう制限があるほうが燃える。ゲームでもラスボスのステータスがごちゃごちゃしてるのと、シンプルなのでは後者の方が大物感でるしな。


「貴方様はこれまでの魔王とは違う。ただいたずらに力を振りかざすのではなく、この魔界のこと、魔族全体のことを憂い、我ら竜人族のことを救ってくださいました。貴方様こそ、我ら魔族が待ち望んだ真なる王だとわたくしも父も確信しております」


「うむ。余は魔王を越える魔王、大魔王であるが故な」


「はい、大魔王陛下。それゆえ、この『赫奕の心臓』をあなた様にお捧げします。かの心臓は、我ら一族、その祖先の魂を内包した、我らの命ともいえるもの! どうか、お役立てくださいませ……!」


 そうして、イーグレットがとんでもない爆弾を投下してくる。

 赫奕の心臓には、竜人族の祖先の魂が収められている……? つまり、 先祖代々のお墓のようなものってことか……? 託されたものが重すぎないか……? というか、アルセリアも誰もここに至るまでそんなこと教えてくれなかったんだが……!?


 い、いや、動揺するな、オレ……!

 これだけの信頼を得られたのはひとえにオレのラスボスとしての振る舞いが完璧であったからだ。むしろ、このプレッシャーをはねのけて、逆に自信へと転化するのだ。


「……そなたたち竜人族の覚悟。この大魔王がしかと受け取った。約束しよう、そなたたちの力で必ずや魔界は救われよう……!」


 ということで、最後にそう演説をぶっておく。

 期待通りに竜人族は歓声とともにこぶしを突き上げる。彼らの顔は喜びに満ち、瞳は希望を見ていた。


 これぞ、勝利だ。選挙戦の時は直後に死んでしまったせいで味わえなかったが、何度味わってもいいものだな。



 それから村を挙げての祝宴が催された。

 巨竜の出現により荒廃していた周囲の環境も急速に回復をはじめ、食糧確保のめども立った。


 しかし、そんな勝利の余韻に浸っている暇は我ら大魔王軍にはない。

 

 まず、竜人族から託された彼らの命『赫奕の心臓』の城への運び込みと動力炉とのマッチングテストの実施。

 これがかなり肝が冷えた。オレよりも事情に詳しいはずのアルセリアは赫奕の心臓が竜人族にとっての魂そのものだというのを全く意に介しておらず、すぐに「ここの角が邪魔ね」とか言って削ったりしようとするから、そのたびに止めなければならなかった。


 さすがは『悪のマッドサイエンティスト』。研究開発のためならば倫理観など全力で捨てている。彼女のような暴走列車が我が軍の幹部を務めてくれているというのは、実に喜ばしいことだ……!  これから何をやらかしてくれるのかと思うと心がぞわぞわする。制御不能な生物兵器とか、開発してくれても構わないぞ……!


 一方で、『赫奕の心臓』を使用しての起動実験は完璧に成功した。供給される高純度魔力は生命体には有害だが、城の動力源としては最適だったのだ。

 これにより、オレが玉座にいなくとも大魔王城は稼働が可能になった。依然、九割がたの機能は物損によって停止しているが、オレが自由に動けるようになったのは大きい。あとは、物資と人員を確保できれば城は順次復旧可能だ。


 これで、竜人族の村救援の目的はすべて果たした。

 赤鱗王という戦力は確保できなかったが、代わりにイーグレットを得た。戦力的には二倍、いや、十倍に増したと言ってもいい。


 次なる目標は、城を修繕するための物資の確保。

 攻略するのは蒼炎山の南にある『城塞都市・ヴィライア』。魔界有数の鉱山を有するこの都市こそはかつて魔王軍を破った『』の支配する街だ。


 

ーー

あとがき


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