#まどろみの中で 

「はい、おしまい」

ぱたんと絵本を閉じる音と共に暖炉の火がパチパチと音を立てた。

お母様の腕に抱かれていると段々と瞼が重たくなってくる。

「アントワーヌ」

お母様が優しい声で私の目を覗き込み名前を呼んだ。両手で挟まれた頬にじんわりと温かさが伝わっていく。

「このお話の鼠とはこれから貴方を取り巻く貴族や知人達ですよ」

「どうして?彼らはいつも私によくしてくれるわ」

「いいえ、それは上辺だけのこと。気を抜けば、あっという間に大群で襲ってきて忽ち食い尽くされてしまいます」

「でも困っている人には優しくしなさいと、お母様はいつもおっしゃいますわ」

「それはそうですが」

お母様は少し困ったような顔で笑い、私を抱きしめた。

「気を緩めてはなりません、アントワーヌ」

「中には味をしめて貴方を陥れようとする者もいます」

「あちこちに潜む鼠には気をつけて」

「大切な物は目に見えず、いつも貴方の心の中にあるのです」

「おやすみなさい、アントワーヌ。私の可愛い娘」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る