第256話 シリアスはジェスターを殺す

 まずい。

 ニシナの野郎……明らかにギャグ世界の住人じゃない。

 困ったぞ。

 ギャグ世界なら俺が生き残るのはほぼ確定なのだが。

 汗が流れてくる。

 どうしよう……このタイミングで下ネタ言いたくなった。

 嫁ちゃんとクレアにめっちゃ怒られるレベルの下ネタ言いたい。

 ニシナが槍を振るってきた。

 それ突き刺すやつじゃないの!!!

 そりゃそのサイズになるとぶん殴っても効果ありますよねえ!!!


「おっぱい!!!」


 下ネタの代わりに俺の口から出たのは素直な欲望であった。


「レオくんなに言ってんですか……」


 妖精さんの呆れた声が聞こえた。


「だってしかたないじゃん! みんなシリアスになっちゃってさー!!!」


「なんでレオくんは二枚目になりきれないんですか!!! シリアスが台無しですよ!!!」


 しらにゃい。

 全部俺のせいじゃなくて、ジェスターの超能力が悪い。

 場がほぐれたところで、上からランスが振り下ろされた。

 避ける。

 大丈夫だ。

 中島のハンマーより素直な軌道だ。

 避けられる……ピタッと止まった。

 やべ! フェイント!!!


「あびゃらばー!!!」


 避け損なって崩れたと思わせて……水面蹴り!!!

 しゃがみながらクルッとまわって下段蹴りで足を払う。


「ちッ!!!」


 ニシナがバックステップで距離をとった。

 コケてくれなかったか!


「剣術家だって聞いてたぞ」


「真の軍人は、なんでもできるんだよ!」


 嘘である。

 カトリ先生の稽古はみんなは得意な武器のときに。

 俺はすべてのコマで強制参加なだけだ。

 もはや弓だって射てるもんね!(当たるとは言ってない)


「はは、この嘘つきが!!!」


「あ、バレた」


 ランスの横薙ぎが襲ってきた。

 俺はランスの下をくぐりながら足を斬りつける。

 硬ッ!

 刃が滑りやがった!

 でもあきらめない。

 返す刃で胴体を斬りつける。

 返ってくる方は両手で握ると左手が邪魔。

 片手で……ってやっぱり刃が滑った。

 刃筋は立てたつもりだけど滑るってことはそういう素材か。

 くそ剣の威力じゃ足りねえぞ。


「はッ! 今まで戦ったどの帝国騎士とも違うじゃねえか!!! 本当に帝国剣術か!?」


「さあね!」


 そりゃ条件違う相手なんだから戦術は違うものになるっての!


「レオ!!!」


 イソノがなにかを投げてきた。

 俺は急いで後方に飛んでそれをキャッチしようとした。

 俺の動きを隙ととらえたニシナが突撃してきた。


「うおおおおおおおおおおおッ! 死ねい!!!」


 俺はニシナの顔めがけて剣をぶん投げる。

 ニシナは俺の投げた剣をランスで払った。

 その瞬間、隙が生まれた。

 俺はイソノの投げたもの、薙刀を手に取り空中からニシナめがけて斬りつけた。

 ザクッと刃が入る感触がした。

 ニシナ機の頭部装甲に刃が食い込んでいた。

 俺は着地すると膝を抜き全重量を薙刀に預けた。


「ぐううううううううううううううううッ!!!」


 ニシナはランスで薙刀を払おうとした。

 だけどもうニシナの体勢は崩れていた。

 俺の薙刀が地面まで振り下ろされた。

 ニシナの頭部が半分になった。


「お見事!!!」


 それでもニシナ機は動けるようだった。

 少なくとも頭部カメラは殺せたと思う。

 フロントカメラに切り替えて……甘かった。

 ニシナ機の半分になった頭部から触手が蠢いているのが見えた。


「嘘だろ……」


「片道切符と言っただろう。俺に人の部分は残ってない」


 共和国! そこまでやるか!!!

 でも手加減はしない。

 俺の嫁たちをこんなのにさせられるかよ!!!

 薙刀を持った手を滑らし刃のある方じゃない端っこ、石突きで下からニシナを打つ。

 振り上げた一撃は避けられた。

 でも長物はそれだけじゃない。

 本命は次の刃での突き。

 ドンッと手応えがあった。

 薙刀はニシナ機の中心に突き刺さっていた。

 だが……この一撃でニシナを止めることは叶わなかった。


「はははははは!」


 ニシナが笑いながら突進してきた。

 ズブズブと刃が刺さっていく。

 持ち上げ……ニシナは岩のように重かった。

 どうするよ俺!


「レオくん!!!」


 妖精さんが叫んだ。

 考えろ!

 考えろ俺……ってなんで考えてるんだ?

 違うだろ?

 思考を放棄しろ。

 死ぬほど稽古したんだから体で憶えてるだろが!!!

 俺は薙刀を手放した。

 そのまま半歩だけ入ってニシナの間合いを盗んだ。

 陣取りゲームってやつよ。

 そのまま腕を振り上げた。

 合気道の入り身投げともウエスタンラリアットとも言えるような状態でニシナの首を刈った。

 そのままフルスロットルで前に出る。

 殺戮の夜を構成する金属が悲鳴をあげた。

 後先なんか考えてられるかよ!!!

 俺は腕を振り抜いた。

 ニシナ機の首がちぎれた。


「危険です! 殺戮の夜機体が保ちません! 機能停止!!!」


 殺戮の夜が倒れた。

 俺は人生で一番急いで外に出る。

 その手にはカトリ先生からもらった刀が握られていた。

 ニシナ機の頭部が落ちていた。


「は、はは。あんたすげえな! 首を千切りやがった! レオ・カミシロ! 見事なり!!!」


 頭部には上半身だけのニシナが納められていた。

 相変わらず共和国は……帝国とは違うベクトルの外道を平然とやる。

 同じ愚かな人間だということだろうか?


「悪いな強敵ともよ。介錯を頼む」


 ニシナは俺を見て力なく笑った。

 生命維持装置もない。

 間もなく死ぬだろう。


「承知した」


 だから俺は承知した。

 俺はニシナを引きずり出して上半身を立てて置く。

 後ろに回り込んで首めがけて刃を振り下ろした。


「こちらエッジ! 卵の製造装置破壊しました!」


「こちらトマス! 放射能発生装置をダウンさせた!」


 勝利の報告にみんなが俺の方に駆け寄ってきた。

 俺がその辺に座りこむ。

 あー……息苦しい。

 ヘルメット脱ぎたい。

 するとケビンから通信が入る。


「レオくん! 敵から座標が送られてきたよ! もしかすると共和国の人たち、人質がいるかも!」


「よくやった婿殿!!! これで敵の勢いをそげるはずじゃ!!!」


 みんながはしゃいでいた。

 トマスすら自分たちがメインの作戦での勝利だ。

 とても喜んでる。

 そんな中、クレアが自機から降りて俺の方に駆け寄ってきた。


「レオ大丈夫!?」


「なにが?」


「今回は……悪人じゃなさそうだったから」


 それ言ったらカニちゃんだって悪人ではない。

 ただ何も考えられないってだけで。

 だが公爵会にサリエル! お前らはダメだ!


「供養代わりにニシナの領民を助けようかなと……あははははは」


 力なく笑うとクレアが俺の手を握った。


「うん、助けよう! 絶対に!」


 こうして拠点の一つは潰せた。

 今は素直に勝利を喜ぼう。

 ……真面目に考えるとろくなことないし。

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