chapter:15――ソルキン村へ行こう
作戦の概要を話した後、万全を期してしっかりと朝食を摂る、
出てきた朝食は食パンの様な物に、様々な野菜や肉を挟んだサンドイッチの様な物。
口にしてみると、はさんでいるパンみたいなのは此方の世界の食パンと違ったモチっとした食感、
中の食材は若干酸味が混じった辛味のある味で、野菜のシャキッとした食感と肉の噛み応えがいい塩梅に味わって美味。
異世界の食事ってどんなんだろうと思っていたが、思った以上に悪くない、いやむしろイケる味だ。
「やっぱり、良い場所に立ってる宿だから朝食もうめぇなぁ!」
「ああ、俺もどんな物かなと思ってたけど、こいつは美味しいや」
「
「……
「ああ、ソルキン村の人たちにも、まともな物を食べられる様にしよう」
サンドイッチの様な物の美味を味わっていた所で、セネルさんの一言でソルキン村が窮状に陥っている事を思い出し
俺とレイクはセネルさんを励ましつつ、
「あー、やっぱいい宿に泊まるってのは良いもんだな、部屋もきれいだしベッドもフカフカだし飯もうめぇ」
「レイク、其処まで言うって事はお前は今までどんな宿に泊まっていたんだよ……」
「路銀を節約して大体安宿に泊まってたな。隙間風は入るし虫はわくしベッドは固いし飯も不味い、何より風呂が無ぇ!」
「お風呂が無い事が一番の問題にするって事は、レイクさんって意外と奇麗好きなのですね……?」
そして宿をチェックアウトした俺とレイクとセネルさんは、取るに足らない事を話しながらソルキン村の方の門へ向かう
セネルさんが最初に来た時、彼女は言っていた。ソルキン村は『この場所から南街道を三日ほど歩いた先にある』と。
流石に公共交通機関や自動車などになれた現代人である俺に、三日間も歩いて旅をするのはかなりしんどい。
「しかし、俺は延々と道を三日も歩きたくないぞ……」
「だったらよ、公共馬車を使っていけばいいんじゃねえか?」
「私も、その公共馬車を使ってここまで来ましたので、お二方もそれに乗って行くと良いと思います」
俺のぼやきが二人に聞こえたらしく、公共馬車と言う乗り物を使ってソルキン村に行く事を提案してきた。
俺はレイクの意見に頷き、彼女の案内でその公共馬車の乗り場がある場所まで移動する事にした……のだが。
『公共馬車:ただいま全方面に渡って運休中』
「は……?」
公共馬車のある乗り場まで来た先に俺達を待っていたのは、そんな無情な立て看板だった。
え、どういう事? なんで公共馬車使えなくなってるの? こんなタイミングでそんなのありかよ?
余りの事態に呆然としている所で、尻尾を垂らしたレイクが恐らくこのヴァレンティの街の新聞を差し出して見せた。
『公共馬車の厩舎で火災、被害は厩舎と馬車四台が全焼、馬は逃亡し行方不明、死傷者は無し、原因は管理人の火の不始末による物か?』
見てみれば、恐らくは厩舎を兼ねた馬車の置き場であったであろう建物が、見るも無残に焼け焦げ、倒壊していた。
そして公共馬車のチケット売り場では、公共馬車を利用できない事に抗議の声を上げる冒険者や行商人にその他諸々の集団が居た。
「なんで公共馬車が使えないんだよ! 代わりの馬車を他の街から寄こせないのか?」
「あと三日以内にこの荷物を目的地に運ばないと違約金を取られるんだ、早く代わりの馬車かクルーガー鳥を用意してくれ!」
「お客様、大変申し訳ありませんが代わりの馬車の手配は後一週間かかる見込みです、それまでどうかお待ちを!」
唐突な火災によって足止めを食らった冒険者や行商人その他諸々に詰め寄られ、公共馬車を運営する係員は平謝りで対処する。
そのうち何人かは徒歩で行くのか諦めた様子で、がっくり項垂れたり溜息を洩らしながら全焼した公共馬車の置き場から離れていく。
彼らのその様子を見ていたレイクは、尻尾をくねらせながらある可能性について口にする。
「この火災、あまりにもタイミング良すぎねぇか? 原因は管理人の火の不始末ってあるけど、誰かの付け火の可能性もあると思うぞ」
「確かにその可能性は捨てきれないけど、今は犯人探しをするよりもソルキン村に行く事を先決しないといけないと俺は思う」
「私もヒサシさんの意見に賛成です。今は私の村に向かうのが先決だと思います」
「……まぁ、ヒサシとセネルさんがそう言うなら、オレはそれに従うまでだ」
レイクが渋々と言った様子で、俺とセネルさんの意見に同意する。
さて、公共馬車が使えないとなると別の手段で行く事になる訳だが……アレをセネルさんに見せて良いのだろうか?
俺はレイクに視線を向けると、レイクも俺の視線の意味を察してくれたようで「止むを得ない」と言う感じで頷いてくれた。
「結局徒歩で行くのですか? それにしては行く方向が違うのですが……」
「あー、ある物を使って馬車よりも早く行く事にしたんだよ、本当はセネルさんには見せたくなかったんだがな」
――あれから暫く経って場所は移り変わり。今、俺達がいるのはヴァレンティの街の東門から少し離れた位置。
俺の行動に対して不思議そうに首を傾げるセネルさんを他所に、俺とレイクは茂みに徹底的に隠していたある物を運び出す。
それはこの世界に転生した初めの頃、ヴァレンティの街に行く為に、箱で作った電動スクーターであった。
「何なんですかこれは……車輪が前後に二個だけって、走らせたら倒れそうに見えますけど?」
「ああ、オレも最初これを見た時はセネルさんと同じ事を考えたよ、でも走らせると慣性の法則とか何とかで倒れずに走れるんだって」
「レイク、今回はこの電動スクーターをこのまま使わないぞ、セネルさんも乗せなきゃならんからこいつを作り変えなきゃならん」
そうである、この電動スクーターは二人乗りが限度、俺とレイクだけなら兎も角、セネルさんまで乗せて走らせる事は危険すぎる。
更に言えば、荷物には超重量のアンツィオ20mm対物ライフルや『強化外骨格』もある、正直この電動スクーターの出力では不安だ。
そういう訳で、この電動スクーターを基に、箱を使ってまた新しい乗り物を作る事にした次第である。
俺は早速ネックレス状にしていた箱を元の形に戻すと、それを見たセネルさんが驚きの表情を浮かべて俺に問う。
「え、ネックレスが大きな箱に……何かのアーティファクトですか!?」
「あー、まぁ……セネルさん、この箱はそういう物だと思ってくれるとありがたい。レイク、電動スクーターを箱の中に入れてくれ」
「ああ、お安い御用だぜヒサシ! しかしこれを基に作る新しい乗り物ってなんだろうな?」
「何時もの通り、見ていれば分かるよ」
レイクが電動スクーターを持ち上げて箱の中に入れた所で、俺は更に箱の中へ更に石ころや土を入れ始める。
今回作る物は電動スクーターよりも大きく、出力と航続距離を上げて、それでいて三人以上の人間を乗せる事が出来る乗り物だ。
しかし大きさが大きさなので、今回は完成品としてではなく複数のパーツで分解した状態で生成させることにする。
俺が箱の蓋を閉じて手を触れて、そのイメージを送ると、箱に刻まれた文様が白く明滅し始めた。どうやら無事に作ってくれる様だ。
恐らくは箱の中で電動スクーターと石ころと土が分解され、また新しい形へと再構成されている事だろう
「この箱は一体何なんですか? 私が生きてきた500年の間でも見た事がない物なんですけど……」
「簡単に言ってしまえば、中に物を入れて俺の頭の中のイメージを送ると、その通りの物を作ってくれる箱だよ」
「如何いう事ですか? そういう事が出来る物なんて、それこそ創世の女神プロナフィア様のお力でもなければ不可能では……!?」
さらに驚いているセネルさんの様子を気にせず、俺とレイクはその場に座って箱の中の物が完成するのを待つ
創世の女神プロナフィア、交通事故死した俺をこの世界に送り込み、そしてこの箱――権能(チート)――を授けた女神。
実際の所はこの世界に送り込む人間は41歳のトラックドライバーの俺ではなく、勇気ある若い少年の予定だった。
しかし何の因果か、僅かな運命の行き違いで少年は死ぬ事は無く、代わりに俺が死に、止むを得ず女神は俺を選んだ。
そして俺はこの世界で生きる事になり、材料さえあれば何でも作れるこの箱――権能(チート)――を使って
のんびり好き放題に生きるつもりだったのに、何の因果なのか
……何故こうなった? そんな疑問を頭の中に浮かべつつ、箱の中の物の完成を待つ。
「ヒサシ、どうしたんだ? いつも箱を使って物を作る時の様な、完成を期待する様な表情じゃないぞ?」
「ああいや、人生って上手く行かない物だなって思ってな……」
俺の表情を見て何かを察したレイクが尻尾くねらせながら俺に問いかけるが、俺は曖昧に笑って答えて見せる。
多分、この事をレイクに話したとして、理解は出来たとしても、どうしようもする事は出来ない筈だ
運命の歯車は既にカタカタと音を立てて動き始めている、それも俺が全く望んでいない方向に。
これからの
そう思っている内に、白く輝いていた文様が青色へと変わり、箱の中の物が完成した事を知らせる。
「よし、完成したか……でも、組み立てるのがちょっと骨になりそうだな」
箱の蓋を開けてみれば、中にぎっちり収まっていたのは、恐らくはバイクに似た何かの乗り物と思われる部品。
それを俺が一つ一つ取り出し始めると、言われた訳でもないのにレイクも箱から部品を取り出すのを手伝い始めた。
彼女の尻尾は上機嫌に揺れており、恐らくは出来上がった物がどんな物なのか楽しみで仕方ない様子である。
一方でセネルさんは、先程箱に入れた電動スクーターと石ころや土とは全く別の物が箱から出てくる様子に、驚きを隠せないでいた
「あの、ヒサシさん、これは一体どうなってるんですか? 中の物が完全に別の物に代わってるなんて」
「これこそ、この箱、いや、俺が持つ権能(チート)だよ。さっきも言った様に、発想と材料さえあれば、この箱で何でも作れる」
「発想と材料さえあれば何でも作れる……まさに創世の女神、プロナフィア様のお力……それを使えるなんて……」
セネルさんが驚きを通り越して、何か感動している様子である。
まぁ確かに、創世の女神の力の一端を使えるなんて言われたら驚くのも無理はないだろう。
そんなセネルさんの様子を尻目に、俺とレイクは取り出した部品を組み上げていく。
「こいつ、後ろの車輪が二輪になってて人が二人余裕で座れる様になってるんだな」
「ああ、これで三人乗りで移動できる上に、大きくて重い荷物を載せて運ぶ事も出来る」
「あの、その、これは一体何なんですか、どういう物なのですか?」
組み上げていく物の形が明らかになっていくにつれ、セネルさんが矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。
まぁ、これだけ不思議な物を見せられたら、そりゃ質問したくもなるよな……だが、それも組み上げが終わり次第お終いだ。
最後にLEDのテールランプを取り付けて、俺は組み上げ終わった物を見て一つ頷いて見せる。
「完成! 三人乗りの電動トライクだ!」
俺が発想して作り上げたそれは、バイクの後輪部分を二輪にして、三人乗りにした通称トライクと呼ばれる物だった。
元の世界での大体のトライクはやや大型であるが、この箱では入りきらないと判断し、
スクーターをトライクにした様な少し小ぶりな形状にした上で、箱に納まる様に分解された状態で生成させた。
動力はバッテリーによるモーター駆動。恐らくガソリンや軽油の存在しないこの世界では、ディーゼルやガソリンエンジンでは燃料の問題に直面する。
それ故、箱で充電済みバッテリーを作るか、ソーラーパネルさえ作れば充電できる電動方式の方が何かと都合がいい。
モーターの出力は最初の電動スクーターの5倍以上、その出力に耐えられる様、バッテリー容量やフレーム構造も強化されている。
俺は完成したトライクの出来栄えに感心している所で、セネルさんは完成したトライクに対して驚きを隠せないでいた。
「私は、私は創世の女神プロナフィア様の御業の一端を見ている気分です、ヒサシさん、貴方は一体何者なのですか?」
「それについては、
「この、トライクと言う乗り物の後ろの座席に座るのですね……なんだか、私は夢でも見ている気分です……」
「三人乗りになったのはすげぇけど、前のスクーターの時の様にヒサシに抱きついて行けなくなったのは残念だな……」
驚きを隠せぬまま後部座席に座るセネルさん、そして何処か残念そうに尻尾をくねらせながら後部座席に座るレイク。
俺は二人がしっかり座ったのを確認すると、操縦者席へと跨り、既に装着済みの鍵をまわしてトライクの電装機器を起動させる。
ハンドルに付いたモニターにはバッテリーが満充電である事が表示され、それを確認した俺はスロットルを回してトライクをゆっくり走らせ始める。
最初はきちんと動作しているかどうかの確認の為に徒歩程度の速度で、そして問題無いと判断したのでスロットルを回し速度を上げる。
このトライクは以前のスクーターと違って、バネとショックアブソーバーの機能を持つ油圧式サスペンションが装着されている。
故に、路面の凹凸は勿論、悪路などへの耐久性ももちろんの事、乗り心地も幾分向上している筈だ。
暫く試走してトライクの各機能に問題が無いと判断した俺は速度を徐々に上げて行き、モーターの音の唸りと共に時速60km程度まで加速させる。
「おお、はえええ! 前のスクーターとやらも速かったけど、こいつはもっとはえええ!」
「あ、あわわわわ、はわわわわわ!? ちょ、ちょっと、ちょっと早いです、ヒサシさん、少し速度を緩めてぇぇぇ!?」
時速60kmも出せば、その体感速度は馬車やクルーガー鳥とやらとは比べ物にならない。
レイクは楽しそうに笑い、セネルさんは可愛らしく慌てふためきながら俺に速度をもう少し緩める様にと懇願してきた。
まぁ流石に慣れているレイクなら兎も角、初めてこういうのに乗るセネルさんの事を考え俺は素直に速度を緩めて走る事に専念した。
そしてヴァレンティの街の壁沿いに走行してゆき、南街道へと入ると、ソルキン村へと一路走り抜けるのだった。
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