「タトゥーシール」

 …彼女、タトゥーシールが趣味だったんです。


 接客業せっきゃくぎょうで知り合ったバイト仲間で。


 ロッカーで着替えていたら。

 二の腕にあるのを見つけて。


 ――黒い三センチほどの正方形で。


 制服せいふくで隠れる位置なんですけど。

 何それって聞いたら、オカルト系だと。


 ネットで見つけた図柄ずがららしくて。


 …元のサイトを開くとこんな感じで。

 閉鎖へいさの案内しか出ないんですけど。


 それをプリントして貼り付けると。

 色んなところに繋がると。


 正直、眉唾まゆつばな話だなと。

 ただ、気を悪くするといけないなと黙っていて。


 ――その、翌週でしたね。


 女子ロッカーで。

 私、うっかりヘアピンを切らしちゃって。

 

 接客業なんで。

 髪をまとめないといけないのに。


 その日に限って。

 無くなっていたのを忘れていて。


 …そしたら、彼女が箱ごと。


 太ももの内側。

 貼られた四角いタトゥーから抜き取っていて。

 

 私の視線に気づいたらしくて。

 便利なんだよと、彼女が。


 最初は肌に馴染なじまないけど。

 半日ほどで空洞くうどうになると。


 どんな大きさのものでも。

 出し入れができるようになると。


 今では、ポケット代わりにしていると。


 ――そう言いながら上着を脱いで。


 そしたら、彼女の二の腕に。

 びっしりと正方形の穴が並んでいて。

 

 市松模様いちまつもようってあるじゃないですか。


 あんな感じで。

 腕をぐるりと囲っていて。


 どれにも奥行おくゆきがあって。


 …その時、一匹のハエが。


 正方形のふちに止まったかと思うと。

 中に入って、出てを繰り返して。


 彼女、すぐに追い払ったんですけど。

 どうにも気持ちが悪くて。


 ――すぐに私、上司のところに行って。

 体調が悪くなったと伝えて。


 それから、しばらくバイトを休んで。


 …最期に見たのは先週のことで。


 ファーストフード店の二階から。

 たまたま、彼女が車に乗りこもうとする様子が。


 複数の人に連れられる形で。

 顔が、ひどく青白くて。


 体のタトゥーも増えていて。

 手のひらから、太もも、首すじまで。


 ただ、首の座りが悪いというか。

 どこかグラグラしている感じで。


 ――そこから、車に乗り込んだ瞬間でしたよね。

 

 車内に崩れたんです。


 服と頭部を残して。

 体がグシャリと。


 完全に白目で。

 黒い箱のようなものが散らばって。

 

 連れの人たちは淡々と。

 彼女の体から出たそれを回収して。


 何食わぬ顔で車に乗り込んで。


 …その時。

 私、なぜか思ったんです。

 

 あれは彼女じゃ無かったんだなと。


 シールを貼った瞬間から。 

 バイトで話しをして、崩れるまで。


 彼女の体は穴から箱に。

 図柄を通して換わってしまったのだと。


 ――納得がいってしまったんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る