「自殺志願者撲滅中」(比率:男2)約10分

・登場人物


 男:♂ 高校生。


 車木誠くるまぎまこと:♂ 28歳の男性。




ーーーーー




男(M)『自殺』その字の通り、自ら殺すこと。自分で自分の命をつこと。


男(M)我が国日本は、一日百人が自殺する自殺大国だとも言われている。


男(M)『自ら命を絶つなど、やめなさい』周りの人は簡単に『やめろ』などと吐き捨てる。


男(M)だが、これがいじめられている時はどうだ? あれほど簡単に吐き捨ててた『やめろ』という三文字の短い言葉でさえ、誰も言わない。みな、見て見ぬ振りで片付ける。


男(M)『自殺を減らそう』言葉で言うのは簡単だ。だが、実際に減っているのだろうか? 仮に減っていたとしたら、僕は屋上なんかには来ていないだろう。


男(M)『僕が死んだらどうなるかな?』今楽しみなことはそれくらいだ。僕が死んで、僕をいじめてたやつらがこれからどんな人生を歩んでいくのか。僕より苦痛な人生を……僕と同じ、死んだほうがいいと思えるくらい、苦痛な人生を歩んでくれよ。






 月明かりだけが辺りを照らし出している、廃病院の屋上。

 男は屋上の際に立って下を眺めている。早く落ちろと急かす様に、風が男の背を押している。



男「……じゃあね」


車木「ハックシュン!」


男「え⁉︎」



 男が慌てて入り口へと視線を向ける。入り口では、ブルブルと身を震わせる男──車木が、鼻下を擦りながら立っている。



車木「あぁ……寒いね。やっぱり、夜は冷えますなぁ」


男「だ、誰⁉︎」


車木「やぁ、こんばんわ! お元気ですか? あの、道をおたずねしたいんですが」


男「道……?」


車木「そうです。迷ってしまって。人生という名の、道にね!」


男「……」


車木「あれ、おかしいな? 八割くらいの自殺志願者にはウケてた鉄板ネタなんだけどな」


男「何言ってんだ、あんた……? それに、自殺志願者って?」


車木「君、今から自殺するんでしょ? 私たちは君みたいな人を『自殺志願者』って呼んでるんだよ」


男「そうですよ。僕はこれから死にます。止めに来たんですか?」


車木「止める? 私が君の自殺を?」


男「えぇ」


車木「……止めたほうがいい?」


男「……は?」


車木「止めてほしいんだったら、全力で止めるよ。『やめないか! 死んだらなにも残らないぞ!』ってな感じで。でも君、名前も知らない、よくわからない人にそんなこと言われて思いとどまるかい? そんな覚悟でここにきていないだろ」


男「だったら、あなたは何しにきたんですか? 死のうとしてる僕を笑いにきたんですか?」


車木「いいや、気になっただけだ」


男「気になった?」


車木「君が、なぜ自らを殺そうとしたのか。よかったら教えてくれないか? それを聞いたら、私はこの場を去るよ」


男「なんでもいいじゃないですか。理由なんて、僕が死んだ後にテレビ見てたら嫌でも分かりますよ」


車木「私は君の口から聞きたいんだ。君の口から語られる真実を」


男「さっきからなにを言ってるんですか?」


車木「見ず知らずの人間に自分を語るって怖いよね。だから、まず私から語ろう」


車木「私の名前は、車木誠くるまぎまこと。車に木で車木。誠実のせいで誠だ。年齢は二十八歳。ここにいる理由は……君が死のうとしてたからだ。だから、後をつけてきた」


男「なぜ、僕が死のうとしてたってわかるんですか?」


車木「それは私にも説明ができない。なんとなくわかるんだ。『この人は今から死ぬ』って。私も何度も自分を殺そうとしたからね。それのせいかもしれない」


男「あなたも……?」


車木「うん。私も何度か死のうとした。でも、今ここにいる。なぜかって? ある人が、ずっと私を止めてくれたからだ。『死ぬな』って」


男「だからあなたもその人みたいに、自殺しようとしてる人を止めたいと?」


車木「うーん……少し違うかな。確かに止められるなら止めたいさ。でも、私はあの人みたいな人間じゃない。あの人みたいに良くできた人間じゃない。バカでアホでクズでマヌケで……自分で言ってて泣けてくるから、このくらいにしておこう!」


男(なんなんだよ、この人は……?)


車木「ところで君、下を見たかい?」


男「下?」


車木「飛び降りるんだろ」


男「……はい」


車木「見たかい?」


男「はい」


車木「怖いかい?」


男「……怖くないです」


車木「そうか。それだけ君は、辛い思いをしていたんだね」


男「……」


車木「(拍手をする)」


男「な、なんですか?」


車木「君の勇気に」


男「はぁ?」


車木「『自殺』その名の通り自らを殺す。この世で一番恐ろしいこと。この世で一番勇気がいること。君はこの世で一番勇気がいることを今やろうとしているんだ。拍手せずにはいられないよ」


男「……バカにしてるんですか?」


車木「バカになんてしていないよ。バカには拍手は送らん」


男「あなたは、さっきから何を言ってるんですか……? 僕のことなんて、もう放っておいてくださいよ!」


車木「君は自らを殺す勇気がある! その勇気を、別のことに使ってみないかい?」


男「別の、こと……?」


車木「そう。別のことさ。無理にとは言わない。私は、君の勇気を無駄にはしたくない。君はここに来るまでに、様々な葛藤かっとうがあっただろう。それを乗り越えてここへ来たんだ。本当にすごい子だよ」


男「僕は……何も、すごくないですよ……」


車木「自分自身を肯定否定するのは簡単だ。誰だってできるさ。自分自身で自分を評価するな。決めつけるな。他人から言われた自分を見ろ。私から見た君を見ろ」


男「あなたから見た、僕?」


車木「死ねば全てがなくなるんだ。この世で一番恐ろしい選択ができるなんて、本当にすごいよ」


男「……」


車木「愛と勇気が友達のあんぱんのヒーローもびっくりなくらいの勇気を、君は持ってるよ」


男「(笑う)あんぱんの。なんですか、それは?」


車木「あぁぁぁ! やっと笑ってくれたよ! 一ポイントゲット!」


男「ポイントって、なんですか?」


車木「君が笑えば一ポイント。三ポイントで今日の晩ご飯はステーキさ」


男「そうですか。ステーキまで頑張ってください」


車木「私、頑張るわ! とっておきのギャグがあと二つあるんだけど、どうする?」


男「今は遠慮しておきます」


車木「そうか。それは仕方ないな。じゃあ、明日だね」


男「明日?」


車木「入り口のところに、紙を置いておくね」


男「紙?」


車木「もし、もしもだ。もし君が生きていたら、ここに書いてあるところまで会いに来てくれ」


車木「……いや、言い方を変えようか」


男「え?」


車木「私のとっておきのギャグが見たかったら、来てくれよ」


男「……わかりました」


車木「では、私はそろそろ失礼するよ。一人の時間を邪魔して悪かったね」


男「いえ」


車木「あ、そうだ。最後に、これだけ言わせてくれ」


男「なんですか?」


車木「私のような人間に、君の大切な大切な時間を使ってくれてありがとう」


男「え?」


車木「私と話してくれて、ありがとう。楽しかったよ」


男「たのし、かった……?」


車木「では」



 車木は背を向け手を軽くひらひらと男へ振ると、そのまま闇へと消えていく。



男「……あの人は、何しに来たんだろ?」



男(M)一人になり、改めて下を見た。


男(M)先程感じなかった、恐怖が込み上げて来た……。


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