「自殺志願者撲滅中」(比率:男2)約10分
・登場人物
男:♂ 高校生。
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男(M)『自殺』その字の通り、自ら殺すこと。自分で自分の命を
男(M)我が国日本は、一日百人が自殺する自殺大国だとも言われている。
男(M)『自ら命を絶つなど、やめなさい』周りの人は簡単に『やめろ』などと吐き捨てる。
男(M)だが、これがいじめられている時はどうだ? あれほど簡単に吐き捨ててた『やめろ』という三文字の短い言葉でさえ、誰も言わない。みな、見て見ぬ振りで片付ける。
男(M)『自殺を減らそう』言葉で言うのは簡単だ。だが、実際に減っているのだろうか? 仮に減っていたとしたら、僕は屋上なんかには来ていないだろう。
男(M)『僕が死んだらどうなるかな?』今楽しみなことはそれくらいだ。僕が死んで、僕をいじめてたやつらがこれからどんな人生を歩んでいくのか。僕より苦痛な人生を……僕と同じ、死んだほうがいいと思えるくらい、苦痛な人生を歩んでくれよ。
月明かりだけが辺りを照らし出している、廃病院の屋上。
男は屋上の際に立って下を眺めている。早く落ちろと急かす様に、風が男の背を押している。
男「……じゃあね」
車木「ハックシュン!」
男「え⁉︎」
男が慌てて入り口へと視線を向ける。入り口では、ブルブルと身を震わせる男──車木が、鼻下を擦りながら立っている。
車木「あぁ……寒いね。やっぱり、夜は冷えますなぁ」
男「だ、誰⁉︎」
車木「やぁ、こんばんわ! お元気ですか? あの、道をお
男「道……?」
車木「そうです。迷ってしまって。人生という名の、道にね!」
男「……」
車木「あれ、おかしいな? 八割くらいの自殺志願者にはウケてた鉄板ネタなんだけどな」
男「何言ってんだ、あんた……? それに、自殺志願者って?」
車木「君、今から自殺するんでしょ? 私たちは君みたいな人を『自殺志願者』って呼んでるんだよ」
男「そうですよ。僕はこれから死にます。止めに来たんですか?」
車木「止める? 私が君の自殺を?」
男「えぇ」
車木「……止めたほうがいい?」
男「……は?」
車木「止めてほしいんだったら、全力で止めるよ。『やめないか! 死んだらなにも残らないぞ!』ってな感じで。でも君、名前も知らない、よくわからない人にそんなこと言われて思いとどまるかい? そんな覚悟でここにきていないだろ」
男「だったら、あなたは何しにきたんですか? 死のうとしてる僕を笑いにきたんですか?」
車木「いいや、気になっただけだ」
男「気になった?」
車木「君が、なぜ自らを殺そうとしたのか。よかったら教えてくれないか? それを聞いたら、私はこの場を去るよ」
男「なんでもいいじゃないですか。理由なんて、僕が死んだ後にテレビ見てたら嫌でも分かりますよ」
車木「私は君の口から聞きたいんだ。君の口から語られる真実を」
男「さっきからなにを言ってるんですか?」
車木「見ず知らずの人間に自分を語るって怖いよね。だから、まず私から語ろう」
車木「私の名前は、
男「なぜ、僕が死のうとしてたってわかるんですか?」
車木「それは私にも説明ができない。なんとなくわかるんだ。『この人は今から死ぬ』って。私も何度も自分を殺そうとしたからね。それのせいかもしれない」
男「あなたも……?」
車木「うん。私も何度か死のうとした。でも、今ここにいる。なぜかって? ある人が、ずっと私を止めてくれたからだ。『死ぬな』って」
男「だからあなたもその人みたいに、自殺しようとしてる人を止めたいと?」
車木「うーん……少し違うかな。確かに止められるなら止めたいさ。でも、私はあの人みたいな人間じゃない。あの人みたいに良くできた人間じゃない。バカでアホでクズでマヌケで……自分で言ってて泣けてくるから、このくらいにしておこう!」
男(なんなんだよ、この人は……?)
車木「ところで君、下を見たかい?」
男「下?」
車木「飛び降りるんだろ」
男「……はい」
車木「見たかい?」
男「はい」
車木「怖いかい?」
男「……怖くないです」
車木「そうか。それだけ君は、辛い思いをしていたんだね」
男「……」
車木「(拍手をする)」
男「な、なんですか?」
車木「君の勇気に」
男「はぁ?」
車木「『自殺』その名の通り自らを殺す。この世で一番恐ろしいこと。この世で一番勇気がいること。君はこの世で一番勇気がいることを今やろうとしているんだ。拍手せずにはいられないよ」
男「……バカにしてるんですか?」
車木「バカになんてしていないよ。バカには拍手は送らん」
男「あなたは、さっきから何を言ってるんですか……? 僕のことなんて、もう放っておいてくださいよ!」
車木「君は自らを殺す勇気がある! その勇気を、別のことに使ってみないかい?」
男「別の、こと……?」
車木「そう。別のことさ。無理にとは言わない。私は、君の勇気を無駄にはしたくない。君はここに来るまでに、様々な
男「僕は……何も、すごくないですよ……」
車木「自分自身を肯定否定するのは簡単だ。誰だってできるさ。自分自身で自分を評価するな。決めつけるな。他人から言われた自分を見ろ。私から見た君を見ろ」
男「あなたから見た、僕?」
車木「死ねば全てがなくなるんだ。この世で一番恐ろしい選択ができるなんて、本当にすごいよ」
男「……」
車木「愛と勇気が友達のあんぱんのヒーローもびっくりなくらいの勇気を、君は持ってるよ」
男「(笑う)あんぱんの。なんですか、それは?」
車木「あぁぁぁ! やっと笑ってくれたよ! 一ポイントゲット!」
男「ポイントって、なんですか?」
車木「君が笑えば一ポイント。三ポイントで今日の晩ご飯はステーキさ」
男「そうですか。ステーキまで頑張ってください」
車木「私、頑張るわ! とっておきのギャグがあと二つあるんだけど、どうする?」
男「今は遠慮しておきます」
車木「そうか。それは仕方ないな。じゃあ、明日だね」
男「明日?」
車木「入り口のところに、紙を置いておくね」
男「紙?」
車木「もし、もしもだ。もし君が生きていたら、ここに書いてあるところまで会いに来てくれ」
車木「……いや、言い方を変えようか」
男「え?」
車木「私のとっておきのギャグが見たかったら、来てくれよ」
男「……わかりました」
車木「では、私はそろそろ失礼するよ。一人の時間を邪魔して悪かったね」
男「いえ」
車木「あ、そうだ。最後に、これだけ言わせてくれ」
男「なんですか?」
車木「私のような人間に、君の大切な大切な時間を使ってくれてありがとう」
男「え?」
車木「私と話してくれて、ありがとう。楽しかったよ」
男「たのし、かった……?」
車木「では」
車木は背を向け手を軽くひらひらと男へ振ると、そのまま闇へと消えていく。
男「……あの人は、何しに来たんだろ?」
男(M)一人になり、改めて下を見た。
男(M)先程感じなかった、恐怖が込み上げて来た……。
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