20 Drug Store:【陸斗】
ヒカルのお父さんも東京に来ていることを知った。なんでも、早期退職をした理由が再婚で、その相手とカフェを営むことになったからだそう。ヒカルが日本を発ってしばらくして出会ったそうで、実は八歳になるヒカルの母親違いの弟もいる。弟くんはとてもキュートだった。僕にも弟ができた気分で可愛がったし、ヒカルは弟に絵を教えていた。
お父さん達はしばらく事実婚だったそうで、きっと亡くなったヒカルのお母さんのこともあったからなんだろうと思った。カフェを営むことと、ヒカルが独立したことも後押ししたんだろうと思う。
僕はお父さんと奥さんにすぐに会わせてもらった。カフェの場所は奥さんの実家で、昔は都内で細々とやっていた旅館だったそう。そのビルを改装して一軒家カフェになった。カフェ自体は一階、二階と三階は事務所兼住居、四階は空きだったので、ヒカルの作品の一部を置いていた。僕も見たけれど、全フロアで木を多く使った素敵なリノベーションで、すごく気持ちが良かった。
ヒカルは帰国してからも依頼が絶えてなかった。帰国したことを聞きつけたメディアの取材にも沢山応じていたし、元々持ってた作品を全て持ち帰ってきていたので、展示の要望も多く展覧会に貸出もしている。相変わらず描くスピードが早いし、いくらでも描いていた。僕はいつかヒカルだけの展覧会や、画集を出版したいという夢を持った。
そもそもの話だけど、ヒカルとは僕の家で同棲していた。同棲って高三の夏休みに僕がヒカルの家にずっといた時以来。あの時はセックスしまくっていたが、さすがに今は大人の二人。高校生の時のようなことはしていない。ヒカルが欲しがっているのがわかるようになってきたので、ヒカルに合わせてする。僕がしたがることはもうしていない。
ヒカルは料理を作るのが上手かった。一人暮らしが長いからかもしれないが、まるで勉強してきたかのように栄養バランスが満点で健康的だった。例えば、「まごわやさしいって知ってる?」と言い出し、栄養バランスを整えるための七つの食材をきちんと取り入れたり、白米だけではなく玄米も多用していた。火を通した野菜を多く取り入れていて、普通の和食をすんなり作るから驚いた。手伝おうとすると、やらなくていいと断られた。
今は二人ともとにかく幸せで、本当に世界がピンク色に見えていた。ヒカルも自身の作品の色遣いに、幸せが満ちてると言っていた。
ヒカルは時々一人で出かけているようだけれど、逆に家で寝ていることがあった。体調がすぐれないのか、眠いのかわからないけど、朝起きれないこともあるし、僕が仕事から帰ってきた時にソファーやベッドで寝てる時があった。
「……陸斗おかえり。会いたくて泣きそうだったよ」
今日も帰ったらソファーで寝ていた。僕を見て手を伸ばしてくる。それでも元気そうにそんな冗談を言ってくる。
「大丈夫? 時々寝てるけど。今日はあんまり顔色良くないね。風邪でもひいた?」
「さっき薬飲んで、よく寝たから大丈夫。……あのさ、今日、して良い?」
「うん、なんかちょっとわかってたよ。君は僕に会いたかったんだもんね」
僕はソファーベッドのそばでしゃがんで、寝ているヒカルにキスをした。今日は髭を剃らなかったんだなと思って顎を撫でた。
「ヒカル、明日時間ある? 前からずっとヒカルが言ってた、パートナーシップの手続きに行かない?」
「マジで? 行く!」
「先週僕の家族と食事したでしょ。それで、今日会社に父が来て……あの人、けっこう楽しんでるよ。この家柄の家にハーフのうちの母親を後妻で招く人だからね」
「もはや結婚だな。どうしよう、嬉しい」
「元気になった?」
「……うん」
ヒカルはゆっくり体を起こしてソファーに座ったので、隣に座った。見つめてくるから、多分キスして欲しいんだとわかった。
「はい、いいよ」
僕は何も言われてないけど承諾をした。
「バレるのが早いな! 明日行けるお礼にね」
そう言って、ヒカルは僕に何度もキスをした。それ以上のことなら、僕は、体を隅々まで綺麗にしてからしたいんだけどな、と思った。
「陸斗、いつも俺のそばにいて」
僕の目を見て、手を握ってくれた。――あぁ、たまらない。耐えられない。そんなことを平気で言うこの人を、苦しくなるほど僕は愛していた。その言葉が心の奥に響き、温かい気持ちで満たされる。これ以上の幸せがあるだろうか。
「僕もだよ。本当に僕たち、パートナーになれるね」
ヒカルの瞳が喜びにキラキラと輝いているのを見て、心が高鳴った。
「俺、幸せで死ぬよ多分」
「こら、そんなことを言ったらダメだぞ」
翌日、僕たちはパートナーシップの手続きをし、晴れて夫婦になった。その帰り道は嬉しくて、手を繋いで帰った。アトリエに行ったら、敬親さんが手作りの指輪をプレゼントしてくれた。僕らとアトリエのメンバーで簡単な結婚式の真似事として、指輪の交換の儀式をした。遊びみたいにワイワイしながらだったけど、ヒカルはとても安堵した様子だった。ヒカルの笑顔が、どんな暗い日でも明るく照らしてくれる。だから、どんなことがあっても彼を守りたいと思った。「そばにいて」とよくヒカルは言うけど、ヒカルをそばに置いて何があっても離したくないのは、僕の方だった。
ある日、ヒカルがアトリエに出かけていて、僕は会社で仕事をして午後を在宅ワークに切り替えていた。日用品で買い足りないものがないかを考えたり部屋の掃除をした。仕事しろって感じだけど。夕方に買い物へ出たかった。
ヒカルの部屋は作業部屋になっているが、出入りは自由だ。逆に僕に掃除をしてほしいと頼んでくる。ティッシュの箱に手を入れて、まだあるなと確認した。ウェットティッシュは買った方が良いかも……とか色々考えていて、ふと目線を窓際の棚に目をうつす。束ねられたカーテンの裾に隠すように、白い紙袋が置かれていたのが目に入った。大学病院の処方箋の薬だった。
なんの薬だかわからないけど、沢山ある。そういえば体調悪そうだったから、風邪でもひいてたのかな。僕はその時、何も気に留めていなかった。
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