炎の騎士団

白河 隼

第1話 未来への誓い

 メラル村は、セレリア王国の東部に位置する静かな村で、深い森林と山脈に囲まれており、村人たちはその恵みを受けて穏やかな生活を送っている。


 北にある「ルナの森」の奥深くには「光の泉」があり、神聖な力を持つとされるその泉の水は、村の農業や生活の重要な源である。


「エルファルド山脈」は四季折々の風景を見せ、春には桜が咲き誇り、冬には雪に覆われる。村周辺の気候は温暖で、四季の変化を村人たちは楽しんでいた。

 

 村の人口は約三百人で、主に農業や狩猟、手工芸に従事している。畑では小麦や野菜が育てられ、森林からはキノコや山菜、狩猟で得た獲物も村にもたらされる。


 村の中心には「炎の神殿」があり、村人たちは炎の精霊が自分たちの生活を守り、作物を育てる力を与えてくれると信じていた。


 その神殿で毎年行われる「火炎祭り」は、村の繁栄と平和を祈る大切な行事であり、村全体が一体となって盛り上がる特別な日だった。


 十六歳の若者にとって「火炎祭り」は特別な意味を持ち、この日には騎士団に正式に入団する儀式が行われる。選ばれた若者は騎士団の剣を授かり、村を守る騎士としての責任を背負うことになる。


 そんなメラル村の青年であるフレイも幼馴染のアルゴと共にいつか騎士団に加わり村を守ることを夢見ていた。もう一人の幼馴染であるアイリスは騎士団には入らないつもりだったが、魔術の才能があり、村の治癒や守護に力を尽くすことを目指していた。


 祭りの前夜、フレイ、アルゴ、アイリスの三人はいつものように村外れの丘に立ち、夜空を見上げていた。澄んだ夜空に無数の星が輝き、月明かりが彼らの未来を象徴するかのように力強く照らしている。


「とうとう、俺たちも炎の騎士団員か」


 フレイは決意を込めて拳を握りしめながら言う。


 彼の濃赤髪は燃えるように輝き、その中性的な顔立ちの右目には炎のような情熱が宿っていた。左目には眼帯が覆われているため、右目の輝きは一層際立っている。


 しかし、アイリスはその真剣な様子に対して、すぐにからかいの笑みを浮かべた。


「アルゴはいいとして、あんたが選ばれるかどうかは怪しいんじゃない?」


 わざとフレイを挑発するように軽口を叩く。彼女のオレンジがかった髪が風になびき、可憐な大きな瞳が楽しそうに輝いている。


 アルゴもそれに乗っかるように、フレイをからかう声を上げる。


「安心しろよ、フレイ、幼い頃からの仲だ。俺が騎士団長になって採用してやるさ。」


 フレイを一瞥してニヤリと笑う。


 彼の濃い青髪は星の輝きに映え、スラリとした高い身長と凛とした知的さが溢れる姿は自信に満ちていることを感じさせる。


 フレイは二人に対してムキになる。


「なんだと!? 騎士団長には俺がなるに決まってるだろ!おい、いつもの三本勝負するぞ!」


 顔を真っ赤にして反論するフレイの様子に、アイリスは堪えきれずにクスクスと笑う。


「もう、またすぐに熱くなるんだから。」


 アイリスは軽く肩をすくめる。


 アルゴも笑いをこらえつつ、冗談めかして返す。


「全く、入団前からこんなにせわしない奴はフレイくらいだな。」


 フレイが真剣に夢を語れば、アイリスとアルゴはその場を和ませるように軽口を叩く。


 真剣に未来を見据えながらも、ふざけ合い、笑い合う三人の姿は、まさにこれから訪れる冒険と試練に立ち向かう準備が整っているかのようだった。


「おい!三人とも、そこで何をぼんやりしているんだ!まだ準備は終わっとらんぞ!」


 アイリスの父であり、この村の村長でもあるオルガンが遠くから叫ぶ声が響く。


「あーあ、パパに見つかっちゃった。」


 アイリスは肩をすくめながら、少し困ったような表情を浮かべる。


「結局、怒られるのは私なのよね。」


 彼女の声には、少しのため息が混じっていた。


 すると、アルゴがにやりとしながらフレイに言う。


「というわけだ、俺と三本勝負がしたいなら、オルガンさんを説得するんだな!」


 その言葉に、フレイは仕方ないという表情を浮かべる。


「アイリスが時間稼ぎしている間に三本勝負できるだろ?」


 フレイの適当な発言に、アイリスは怒りを露わにする。


「あたしだけパパの前に行けってこと!?信じらんない!そんなの準備が終わってからやればいいじゃない!」


 アイリスの怒りの抗議にはフレイも折れ、軽い笑みを浮かべる。


「はいはい、とっとと準備を終わらせるか。」


 アイリスは呆れたような表情を浮かべながらも、その顔には微笑みが隠れていた。


 その光景を見ていたアルゴは、嬉々としてその様子を楽しんでいる。


「さて、オルガンさんのところに戻るか。」

 

 アルゴに続いて、フレイとアイリスも丘を降りていく。

 

 しかし、その穏やかな時間が永遠に続くことはなかった。

 

 遠く、かすかに響く不吉な轟音。


 ――始まりの足音は、すぐそこまで迫っていた。

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