第8話 学年順位
「ようし。全員、自己紹介が済んだな。じゃあ、まずは順位について説明するぞ。知ってる奴も多いだろうが、ちゃんと聞いておくように」
ハーゲン先生はそう言ってあからさまにマヌエルのほうを見た。
「お前らは最終試験のときに試合をしたのは覚えているな? そのときの試合結果に様々な要素を加味してお前ら全員に暫定順位をつけた。この暫定順位に基づき上から順に二十名ずつAクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラスと分けられている」
なるほど。だがそうなると、なんで二勝した俺が最下位なんだ?
「これは様々な要素を考慮した暫定のもので、正式な順位は授業での試合を経て確定する。クラス間の試合もあるから、上位に勝てばよりランクアップできるぞ」
「すみません。質問してもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「俺は最終試験のときに二勝しているはずなんですが、なんで最下位なんでしょうか?」
「はっ! それは――」
バシン!
ハーゲン先生はマヌエルを遮るように教卓を叩いた。
「俺は王国騎士団出身だと言っただろう? 規律を守れない者はたとえ貴族であろうとも処分をするぞ」
「……はい」
マヌエルは絞り出したかのようなか細い声でそう答えた。
「さて、カイン。お前が最下位になった理由は、お前の魔術に関する記録が一切ないことだ。それに加え、不正をしたという報告が貴族の受験生を中心に複数上がっている。だがその証拠は一切ないため、お前の実力を適切に測ることを目的に暫定措置として最下位とした」
「そうですか……」
「そんな顔をするな。どうせ順位で得をするのは卒業時点のものだけだ。お前ならば一年でAクラスに上がると俺は思っているぞ」
「順位が上がると何か得をすることがあるんですか?」
「あるな。うちには魔術大学や王宮魔術師団、それに王国騎士団をはじめとする各騎士団への推薦枠があり、その優先権は順位が上の者にある。たとえ身分が上であっても割り込むことは許されない」
「なるほど」
「それに様々な職場から卒業生の紹介を依頼されるが、それも順位が上の者から順に話が回ってくる。卒業までに一つでも順位を上げておけば、それだけ今後の人生の選択肢が広がるだろう」
「分かりました」
魔術の高みを目指すのであれば、やはり狙うべきは大学か、もしくは王宮魔術師団への推薦枠だろうか。
「他に質問のある者はいるか?」
「はい」
「ジークリット殿下」
「順位はどうすれば上がるのでしょうか?」
「授業中の試合で順位が上の者に勝利することです。ですので、殿下が順位を上げるには別のクラスの学生との試合に勝つ必要があります」
「わかりました」
「他に質問は?」
ハーゲン先生はそう呼びかけるが、誰も手を挙げる者はいない。
「ようし。ならば明日、さっそく順位を確定するための試合をするぞ。しっかり準備をしておけ」
それからも様々な説明を聞き、初日はオリエンテーションのみで終了したのだった。
◆◇◆
翌日、俺たちは朝から最終試験をやった闘技場にやってきた。
「ようし。全員
女子はカーテシーを、男子は胸に手を当てて敬礼をしているので俺もそれに
すぐに中年の女性が入ってきて、その後ろから白をベースにした可愛い制服を着た女子たちが大勢入ってきた。
おお、すごい。ラルフが言っていたとおり、全員美少女だ。それも、ただの美少女ではない。それこそ村一番の美少女を集め、さらにその中から美少女を選りすぐったと言われても納得するほどの美少女だらけだ。
お!
ぞろぞろと入ってくる美少女たちの中にリタの姿がある。周りの女子たちはいわゆる美人系が多いので、可愛い系なリタは少し目立っている。もちろんその胸もあるのだが……っと、あまりジロジロ見ないであげたほうがいいよな。
あ! 目が合った!
俺はリタに向かってニコリとほほ笑んだ。するとリタも俺に気付いてくれたようで、一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに微笑み返してくれた。
すると俺の周りの男子たちがざわついた。
だがすぐにテレジア先生が挨拶を始める。
「ローゼンフルト王立魔術学園一年D組の皆さん、初めまして。わたくしは聖フロリアーナ女学院中央校、一年デイジークラスの担任を務めている司祭のテレジアと申します。この子たちはわたくしの受け持つ生徒たちです。これから一年間、皆さんとは度々行動を共にすることになりますので、どうぞお見知りおきをくださいませ」
それからリタたちはお淑やかにカーテシーをしてきた。
「テレジア先生、ありがとうございます。これからテレジア先生とデイジークラスの皆さんはお前たちが授業で負った怪我を治療してくださる。感謝と尊敬の念をもって接すること。それと、あまり無茶をして迷惑を掛けないように。分かったな?」
「「「はい」」」
「ようし。それじゃあ早速ランキング決定戦をするぞ。最初の試合はカイン・ベルガー」
「はい」
名前を呼ばれ、俺はすぐに立ち上がる。するとなんとリタが両手で小さくガッツポーズをしてくれていた。
きっと頑張れと応援してくれているのだろう。俺はしっかりとリタの目を見ながら大きく頷いてからリングの上へと登った。
「対するはマヌエル・フォン・ランゲンドルフ!」
「えっ?」
マヌエルが間抜けな声を出した一方で、デイジークラスの女子たちがざわついている。
「なんだ? 不満があるのだろう? だから再戦のチャンスを用意してやったんだ」
「っ!」
マヌエルは顔を真っ赤にしたが、すぐに立ち上がってリングの上へと駆け上がってきた。
「きゃー」
「頑張ってくださ~い」
デイジークラスの女子たちから黄色い歓声が次々と飛んでくる。するとマヌエルは気をよくしたのか、デイジークラスの女子たちに向かって気取った仕草で手を振った。
だがその中でリタは心配そうに俺のほうをじっと見つめている。
ありがとう、リタ。でも、こんな低レベルな奴には負けないから安心してくれ。
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