レッサーサキュバス使いの成り上がり

リンタイラン

第1話 召喚の儀

「ヴェルナー、そのサキュバスを斬れ。そうすれば追放だけは考え直してやる。」

父さんの威厳ある声が響くが、自分は目の前にいる怯えた表情をしたサキュバスを見つめ、ただただどうしてこんな状況になったのか振り返っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おはよう、兄さん!今日は待ちに待った召喚の儀だね!」

弟エリアスがドアを開け、騒がしく言った。まあ無理も無い。魔物使いの一員にとっては将来が決まると言っても過言では無いのだから。

「ああそうだなエリアス、気合が入っているようだがネクタイを忘れているぞ。」

「!にっ兄さんありがとう!すぐ取ってくる!」

やれやれ、元気がいいのは結構なことだがすこしおっちょこちょいなところがあるのが玉に瑕だ。


今日は自分と弟の最初の魔物を召喚するための儀式、そのままだが『召喚の儀』の日である。

最初に召喚された魔物によって魔物使いの魔力回路は影響されるため、最初の魔物と同じ系統の魔物しか召喚、または従属テイムすることができなくなる。

そのためこの『召喚の儀』で優れた系統の魔物を引き当てることが王国建国以来魔物使いとして国を支えてきたノクス家の一員としての至上命題である。


「兄さん、取ってきたよ〜」「よし、ならば行くか」

二人で並んで普段は剣術の鍛錬場として使われている建物へと向かう。

中には魔物の体内から取れる鉱物である魔石の山が自分とエリアスの分、置かれていた。

そしてその前には使用人たちと自分たち二人の父親であるグスタフ・ノクスが立っていた。

父さんは召喚の儀に使う魔法陣の最終調整を行うべく朝早くから準備を行なっていたらしく、普段よりもクマが深い気がした。

父さんが口を開いた。

「1分遅刻だがまあいい。さっさと魔石の前に立って始めろ。」

「は、はい!」「分かったよ、父さん」


使用人たちの中でもベテランたちは沈黙を保っていたが、雇われてまだ日の浅いものたちは特別なイベントに興奮を隠せないのか、小声でコソコソ話をしていた。

「...ヴェルナー様、どんな魔物を召喚できるかな?」

「文武両道で魔法も剣術も一流なヴェルナー様ならきっと最初の魔物も規格外のに違いないわ!例えば...ワイバーン!」

「流石にいきなりA級の魔物はいくらヴェルナー様でも無理でしょ...魔物使いは徐々に使役する魔物の等級を上げてかないと魔術回路が追いつかないってご主人様が言ってたのを聞いたことがあるし...」



父さんが魔法陣から目を上げずに言った。

「そこの二人、聞こえているぞ。ちょうどいい。エリアス、問題だ。ワイバーンをいずれ召喚できるようになりたいなら何の魔物を召喚すべきだ?」

いきなり問題を振られるとは思わなかったエリアスは飛び上がった。

「えっ!えっ僕!?えっとえっと...ワイバーンは竜の一種だから...蛇竜ワーム...ですか?」

「ふむ。及第点だ。ヴェルナー。」

「竜の召喚を可能になる魔物の系統は確認されている中では蛇竜ワーム、リザードマン、サーペントです。」

「よろしい。さすがは自慢の息子たちだ。さあさっさと始めよ。どんな魔物が来たとしても領地と王国の発展のために尽くすよう誓えるか?」

「「誓えます!」」


父さんがナイフを一本ずつ自分たちに配った。自分たちは指先を少し傷つけ、魔石の一つに血を垂らした。

「「深淵の闇に眠りし契約の魔物よ、我が呼び声に応え、此処に顕現せよ!

血と魂をもって汝を召喚し、我が力として誓約を結ばん!」」

詠唱を終えた瞬間、魔石が連鎖して輝き始め、やがて全ての魔石が振動し始めた。

魔石に蓄積された魔力が魔法陣へと流れ込み、役割を終えた魔石が霧散していく。

魔法陣の上の空間が歪み、やがてエリアスの魔法陣からは大きな影が現れた。


まずエリアスの魔法陣の輝きが収まり、魔物の姿が明らかになった。

それは高さ2.5mほどであり、体の表面は緑色の鱗で覆われていた。

光輝く全身鎧を身につけており、さらにはどうみても魔法が付与されているであろう青い炎を纏う剣を腰につけていた。

『grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr......』

さらに、それは唸り声をあげると、背中に生えている翼を広げた。

「なんだと...!?」

滅多なことでは驚かない父さんが今回ばかりは眼を剥いていた。

エリアスが召喚したのが魔法武器を身につけた異常に背の高いリザードマンでは無く、ドラゴニュートであることがわかったからだ。

長い歴史を持ち、魔物の召喚についての知識にかけては他の追随を許さないノクス家においても、ドラゴニュートを最初の魔物として召喚した前例はなかった。

それもそのはず、ドラゴニュートは本来先述した蛇竜ワーム、リザードマン、サーペントのような竜系統の魔物を最初に召喚した者が10年ほどかけて魔力回路の鍛錬を行い、やっと召喚できるはずの魔物であるからだ。

それを最初の召喚で呼び出してしまうのだから、エリアスの魔物使いとしての将来はこの時点で約束されたも同然だった。


「素晴らしい、素晴らしいぞエリアス!貴様はやはり私の誇りだ!」

「父さん...!」

エリアスと父さんが熱い抱擁を交わすのを見て頬が緩んだが、自分の魔法陣からは未だに魔物が現れない。

そうして数十秒経ち、使用人たちが少しざわつき出した時、魔法陣から吐き出されるようにして小さな影が出てきた。

それは身長150cmほどであり、ところどころほつれている黒いネグリジェを着ている少女のようであったが、人間でないことは頭部に生えた山羊に似た巻き角と腰から生えた先端が尖ったハートのような形をした尻尾から見て明らかだった。

それは訳がわからないといった様子で辺りを見まわし、やがてエリアスが召喚したドラゴニュートを発見し素っ頓狂な声をあげて飛び上がった。

それを見た使用人の一人が叫び声を上げた。

「う...嘘でしょ!?ヴェルナー様の最初がまさか...サキュバスだなんて!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る