女騎士ですが、昔助けた子が『Sランク』の冒険者になっていました
笹塔五郎
第1話 守れるくらいに強くなれたら
――リリエラ・ファルナーは剣術においては才能を持っていた。
ただ、元々剣士になりたかったわけではない。
元々は魔術師になりたかった。
けれど、魔力総量は人並み以下で――早々にその才能がないことに気付かされた。
だから、リリエラは剣術に特化した。
その結果――いつしか彼女は王国の騎士としても一線級の強さを身に着けることができたのだ。
だが――それはあくまで、人としての強さであって。
「……しくじりましたね」
脇腹からの出血を押さえながら、リリエラは小さな声で呟いた。
握った剣は折られており、右足にはズキズキとした痛みが走る――ひょっとしたら折れているのかもしれない。
自身の力を過信した――そう言われれば、否定はできないかもしれない。
目の前には、灰色の体毛を持つ狼がいた。
リリエラは小柄であるが、普通の人と比べてもそのサイズは巨大と言える。
一体だけならば――リリエラでも問題なく相手ができたかもしれない。
問題は、同じ巨体の狼がもう一体いたこと。
この辺りに最近出没するようになったという狼の魔物が、複数存在していたのだ。
じりじりと迫る二匹の狼を見据え、リリエラは小さく溜め息を吐いた。
「私もここまで、ですか」
意外と冷静だった――死ぬのが怖くないかと言えば、嘘になる。
それに、心残りがないかと言えば――一つだけあった。
(私も……恋の一つでもしてみたかったですね)
二匹の番の狼を見て、自嘲気味にそんな考えを巡らせた。
騎士になったのは――孤児院育ちで苦労した経験からだった。
騎士になれば待遇面では安泰で、人の役にも立てる。
リリエラにとってピッタリの仕事だ。
もちろん、危険と隣り合わせなのは理解している。
実際――こうして命の危機を迎えているのだから。
忙しかったから、恋愛の一つもする余裕はなかった。
(こんな時、助けてくれる人がいたら……)
なんて――都合のいいことを考え始めてしまう。
白馬の王子様――柄にもないことだ。
一匹の狼が口を大きく開いた――リリエラなど一呑みできてしまうだろう。
だが、狼の動きがピタリと止まった。
「……?」
リリエラは怪訝そうな表情を浮かべて、眼前に迫る狼を見る。
その目は虚ろになっており――やがて、ゆっくりとその首が地面へと滑り落ちた。
首が切断されている――もう一匹の狼は警戒するように後ろへと下がった。
リリエラの前に降り立ったのは、一つの人影だ。
長身で、黒を基調とした服に身を包み――獣の特徴と同じ耳と持つ、獣人族がそこにはいた。
ちらりとリリエラを見る横顔は凛々しく、思わず見惚れてしまうほどに。
「大丈夫?」
「えっ、あ、は、はいっ」
呆気に取られたリリエラだったが――問いかけられて返事をする。
獣人の剣士は、そのまま残った狼の方に視線を戻す。
そして、ほとんど同時に動き出した――大きな身体で飛び掛かった狼は、その勢いのままに地面を転がっていき、やがて動かなくなる。
またしても一撃――圧倒的な強さを前にして、リリエラはただ驚きの表情を浮かべることしかできなかった。
獣人の剣士は剣についた鮮血を掃うと、こちらに向かって歩いてくる。
――まさか、本当に助けてくれる人がいるとは。
しかも、かなりの美形にリリエラは図らずも緊張してしまう。
「そ、その、ありがとうござ――!?」
リリエラが感謝の言葉を口に使用とすると、獣人の剣士はあろうことか、リリエラを抱き締めたのだ。
いきなりのことで驚き、思考が停止してしまう。
――これは一体、どういうことなのか。
「よかった、君が無事で」
「あ、うっ、えっ?」
「ごめん、怪我をしていたよね。すぐに治療できる場所まで運ばないと」
そう言うと、獣人の剣士はリリエラを抱きかかえる――いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
小柄で軽装とはいえ、軽々と持ち上げる辺り、力もあるのだろう。
(か、顔は近い……!)
――リリエラはすっかり乙女になっていた。
今までこんな経験はしたことがない。
これがいわゆる一目惚れというやつなのかもしれない。
「そ、その……あなたの、お名前は?」
「――」
リリエラが問いかけると、ピタリと獣人の剣士は動きを止めた。
やや複雑そうな表情を浮かべてから、やがて納得したように頷くと、
「……そっか。もう五年以上経つわけだし、覚えている方が難しいよね」
「? それは、どういう……?」
「私は昔、君に会っているよ」
「え……!?」
リリエラはまた、驚きを隠せなかった。
これほどの美形なら、興味がなかったとしても印章に残るくらいなことはありそうだが――全く記憶にない。
むしろ、覚えていないことは失礼だろう。
リリエラは必死に思い出そうとする。
「その、ええっと……王都、とかで?」
「ううん、田舎の方かな。君がまだ騎士になってからそんなに時間が経っていない頃。私は君に助けられたから」
「私が、助けた……?」
ますます分からない――これほどの腕前を持つ剣士が、リリエラの助けを必要とするとは思えないが。
「まあ、髪も身長も随分と伸びたかもしれないけどね。『ラーズの村』って言えば分かる?」
「ラーズの村――あっ」
リリエラはそこまで言われて、一つの出来事を思い出した。
そこで昔、十歳くらいの獣人の子を助けたことがある。
まだ駆け出しの騎士だった時のことだ。
「――って、まさか……?」
「うん、その時に助けられたのが私だよ」
「え――あの時の!?」
リリエラは驚きに目を見開いた。
だって、記憶にある獣人の子はリリエラより背が低かった少年――そう思ったところで、自分の身体に当たる、胸の感覚で気付く。
獣人の剣士は、確かに女性だった。
「あの時の約束、果たしに来たんだ。君を守れるくらいに強くなれたら――結婚してくれるって約束、覚えてる?」
「――」
今度はリリエラがピタリと動きを止める。
危機を救ってくれて、一目惚れした相手は――かつて自分が助けた子で、今はとんでもなくかっこよく成長してしまった女の子だったのだから。
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