第5話 自給自足

近未来SF小説


 3月、工藤は退職し、山にこもる準備を始めた。愛車のジムニーが役立つが、いつまで乗れるかわからない。ガソリンがなくなれば、ただの物置きになりかねない。毎日のようにガソリンの買い出しをして、貯蔵タンクには100Lたまっている。

 想定外のことがひとつ起きた。東京で一人暮らしをしていた息子の隆一がやってきたのである。

「親父、オレも山暮らしをするよ。都会はもうだめだ」

 と疲れ切った顔で言うので、工藤は息子のつらさを感じ取り、同居を受け入れた。高校生までは、反抗期だったのでろくに口をきかなかった親子関係だった。それが自分を頼ってくるとはある意味嬉しかった。

 生活はテント生活で始まった。まずは自家発電の設置である。近くの川からパイプを通して発電機のブレードを回転させる仕組みを作った。以前、山形と福島の県境にある滑川温泉に行った時に、宿の電気が全て自家発電による水力発電ということを知り、そのミニ版を作ろうとしたのだ。水量がなかなか確保できなくて、思うような電気を得られなかったが、入り口のパイプを太めにすることで解決できた。初めて電気がついた時は息子と二人で抱き合っていた。予備の電源でソーラーパネルはあるのだが、降灰のせいか陽が差さない日が多く、充分な電気を得られないので、水力発電は不可欠だった。パイプの入り口のフィルターは毎日の仕事となった。

 次にしたのは水の確保である。沢の水を引き入れて、浄化用の樽にいれるようにした。樽には小石や炭などをいれて飲料できるようにした。風呂はドラム缶風呂にした。だが、いっぱいにするのは大変だったので、湯をわかしてあびるのが関の山だった。

  3番目は住居である。二人が生活するので、ある程度の広さが必要だ。地面に建てると土台を固定しないといけないので、ツリーハウスにすることにした。二本の大木の間に大きな石を置きその上に材木を置き、木にうちつけた。二人分の寝床は充分とれたし、枝の部分には棚を設置することもできた。梯子は50cmほどの高さにおさえた。これで雨や雪でも負けない家ができた。それと同時に畑づくりも行った。当分の間は保存食で間に合わせられるが、それがきれたら収穫したもので生活していかなければならない。時期をずらして食べられるように同じものでも、種まきをずらして植えた。ただ、土との相性はわからない。畑づくりは一種の賭けに近い。

 たんぱく質は主に川魚となった。小川に開閉式のヤナ場を作り、上流から魚を追い込むとおもしろいように魚がとれた。肉はめったに食べられなかったが、罠にかかったウサギはごちそうだった。ヘビやカエルは鶏肉みたいでおいしかった。

 息子の隆一が町に降りた時に、ヒヨコを買ってきた。すると皆オスだった。二人で苦笑いをしたが、育てることにした。簡単な鶏小屋を作った。二度目の買い出しで息子はメスのひなを買ってきた。これで、いつかは卵が食べられる。

 スマホは通じない。ネットも通じない。情報はラジオだけとなった。それも国営の一局のみの放送である。ただ、報道が真実とは限らない。かつての大本営発表みたいに政府に都合のいい報道しかされない可能性がある。民間の放送局がなくなったということはスポンサーがつかないということだ。それだけ経済はメチャクチャだ。

 学校は4月から自宅待機となっている。教師も同様で、給料は未払状態となった。

ラジオの放送によると九州の雲仙岳、北海道の旭岳も噴火したとのこと。それにフィリピンのカンラオン山が大噴火し、フィリピン全土が火山灰でおおわれたらしい。いずれ日本もそうなるかもしれないと工藤は思っていた。

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