第55話 想夜は逃げない

-美雪目線-


 ぼっちゃまと黒焔路は素早い攻防戦を繰り広げるっ!!


 ぼっちゃまは、黒焔路の速度に追い付く為にまとっている流力の量を徐々に増やしていくっ!! それにより速度が上がっていくっ!! 


美雪

「くっ!!」


 今すぐにでも、ぼっちゃまを助けに行きたいのにっ!! ぼっちゃまを護りたいのにっ!! 私の体は思うように動いてくれないっ!! 


黒焔路 焦土

「ほぉう……。体にまとう流力の量を増やし、私の速度に追い付くとは……随分と荒技を使うのだな……。しかし、それほど多くの流力を消費してしまったら……体の方が保たないのではないか?」


想夜

「余計なお世話ですっ!! この程度でバテるほどっ!! やわな鍛え方はしてませんよっ!!」


黒焔路 焦土

「膨大な流力量、その流力をまとい、扱う才能、剣技、強気な瞳……。素晴らしいな……。その瞳は……どのような事をすれば、絶望の色に染まるのだろうか?」


 黒焔路はぼっちゃまから距離を取り、私に左手を向ける。


美雪

「っ!?」


黒焔路 焦土

「君は、そこで動けなくなっている彼女を護りに来たのだろう?」 


想夜

「っ!?」


黒焔路 焦土

「ならば、しっかり護ってみせたまえ……。『黒焔こくえん天牙貫通黒炎槍てんがかんつうこくえんそう』」


 黒焔路は左手から黒い炎を出すっ!! その炎を槍の形にすると私に目掛けて投げ付けるっ!!


想夜

「くっ!!」


 ぼっちゃまは慌てて私の方へ向かって走り出すっ!!


黒焔路 焦土

「隙だらけだよ。『水刃初時雨』」


 黒焔路はそんなぼっちゃまに目掛けて数千の水の針を飛ばすっ!!


 ぼっちゃまも水の針の存在には気がつくが、構わず私の所に向かって走るっ!!


 水の針は容赦なくぼっちゃまの体に突き刺さっていくっ!!


美雪

「ぼっちゃまぁっ!?!?」


 ぼっちゃまは気にせず走るっ!! 私の前に立つと黒炎の槍を刀で防ぐっ!!


想夜

「くっ!! なんとか間に合ったっ!!」


黒焔路 焦土

「ほぉう……防ぐか……。だが、これならどうかね?」


 黒焔路が指をパチンと鳴らすっ!!


 その瞬間っ!! 黒炎の槍が突然燃え上がるっ!! その炎はぼっちゃまの身体にまとわりつくっ!!


美雪

「ぼっちゃまぁっ!?!?」


想夜

「っ!? くっ!?」


黒焔路 焦土

「どうかね? 生きたまま燃やされる気分は? さぞかし苦しかろう……」


美雪

「ぼっちゃまっ!? ぼっちゃまぁっ!?」


 ぼっちゃまに駆け寄りたいのにっ!! 体が動いてくれないっ!! 私は叫ぶ事しかできないっ!!


想夜

「熊丸っ!! お前の力を貸してくれっ!!」


 ぼっちゃまは刀を真上に投げるっ!! 熊丸さんが刀の姿からいつものクマのぬいぐるみの姿に戻るっ!! 


 熊丸さんの腹部から突然ジッパーのモノが出現するっ!! そのジッパーを開けるっ!!


 熊丸さんの開かれた腹部の中から大量の水が出すっ!! その水をぼっちゃまにかけ、消火するっ!!


想夜

「ふぅ……熱かった……」


熊丸

「想夜様、大丈夫ですか?」


 熊丸さんがぼっちゃまの頭に乗っかりながら話し掛ける。


想夜

「全然平気。炎に包まれる前に流力を多めにまとって防御したから、大して効いてないよ。それにしてもよく消火できたね」


熊丸

「まぁ、消火の加護がある水を出しましたから」


想夜

「……そんな水もあるんだ……」


黒焔路 焦土

「ほぉう……。そのぬいぐるみにはそのような力もあるのだな……。ますます興味深いな……。そのぬいぐるみ中身はどうなっているのかね? どうやってそのぬいぐるみの中に大量の水を入れていたのかね? 他にも何か入っているのかね?」


想夜

「……よくも……美雪お姉さんを……狙ったな……」


黒焔路 焦土

「まさか卑怯だと言う気かね?」


想夜

「……」


黒焔路 焦土

「君はいつから聖人君子を相手に戦っているつもりだったのかね? 弱点を攻めるのは戦略として、よくある事だ……。殺すか、殺されるかの戦いの中で……弱点を攻めるのは、正しい判断だと……私は思うがね……」


想夜

「別に正しいとか、正しくないとか……そんな事はどうでもいい……」


黒焔路 焦土

「……」


想夜

「貴方は、美雪お姉さんを狙って、攻撃した……。美雪お姉さんを弱で扱いした……。それが許せないだけだ……」


黒焔路 焦土

「……ほぉう……」


熊丸

「想夜様……。先程の黒い炎ですが……なかなか消えない炎というだけじゃありません……」


想夜

「うん……。分かってる……。あの黒い炎に燃やされた時、流力をかなり消費させられた……。たぶん、相手の流力を奪いながら燃える特殊な炎だ……。もう真っ向から受けるのは避けたい……」


美雪

「ぼっちゃまっ!! 私の事はいいですっ!! だからっ!! 早く逃げてくださいっ!! お願いですっ!!」


想夜

「逃げないよ」


美雪

「ぼっちゃま……」


想夜

「僕は逃げない。大切な人を置いて、逃げたりしない。僕は大切な人を護りたい」


美雪

「死んでしまいますっ!! 私なんかの為にっ!!」


想夜

「なんかじゃない。僕にとって美雪お姉さんは大切な人なんだ」


美雪

「ぼっちゃま……」


想夜

「……殺すのも、殺されるのも怖い……。けど、それ以上に僕は美雪お姉さんを護りたい……」


美雪

「……」


想夜

「大切な人達に傷ついてほしくない……。みんなで馬鹿な事して、笑ったり、泣いたり、そんな当たり前の日常が僕は大好きなんだ……。失いたくない……。だから僕は強くなって、大切なモノを全部護るって決めたんだっ!!」


 ぼっちゃまは拳を握りしめながら黒焔路を睨む。


想夜

「こんなポッと出てきたうんこ臭い意味不明ど畜生オッサンなんかにっ!! めちゃくちゃにされてたまるかっ!!」


黒焔路 焦土

「……失礼な事を言う子供だ……。おい、瞬月……。この子供は随分と失礼な事を言うのだな……」


熊丸

「想夜様……」


想夜

「熊丸。お前は美雪お姉さんを護ってくれ。奴はまた隙があれば美雪お姉さんを狙う。奴の攻撃は速い。僕の脚力で間に合わない場合もあると思う。だから美雪お姉さんを護ってくれ」


熊丸

「しかし……」


想夜

「それに光二と猿太郎もぼちぼち来ると思う。2人が来ればなんとかなる……。それまで僕がアイツを抑え込む……」


熊丸

「想夜様……」


想夜

「頼むよ。相棒」


熊丸

「………………はぁ、分かりました……。無理はしないでくださいね……」


想夜

「努力する」


黒焔路 焦土

「話し合いは終わったかね?」


想夜

「待っていてくれるなんて、随分と余裕ですね」


黒焔路 焦土

「まぁ、これが君と彼女にとって最期の語り合いになるかもしれないからな……。伝えたかった事も伝えられず、悔いを残して死んでしまうのは……あまりにも哀れな事だと思っただよ……」


想夜

「嘘つき。本当は僕の次の行動を見ていただけだろ」


黒焔路 焦土

「ふふ……。どうかな?」


 ぼっちゃまは黒焔路に向かって走り出すっ!!


 黒焔路は素早い剣技でぼっちゃまに斬り掛かるっ!!


 ぼっちゃまはその斬撃を避けながら爆破によって大破した車の影に素早く隠れるっ!!


 黒焔路はその車を切り裂くっ!!


 その瞬間、ぼっちゃまはポケットからジッポライターを取り出して火をつけるっ!!


 そして車から溢れ出たガソリンに火をつけるっ!! ガソリンに着火し激しく燃え上がるっ!!


 黒焔路は後ろに跳んで退がるっ!! それと同時にぼっちゃまは炎の中から飛び出すっ!!


想夜

「ウラアアアアアアァァァァッ!!!!」


 黒焔路の顎に跳び膝蹴りを叩き込むっ!!


黒焔路 焦土

「むぅっ!?」


想夜

「ウラアァッ!!」


 ぼっちゃまはさらに黒焔路の腹部を蹴るっ!! ぼっちゃまはさらにもう一撃蹴りを入れようとするが、黒焔路は後ろに跳んで避けるっ!!


黒焔路 焦土

「ふむ……。今のは少し痛かったな……。やれやれ……私とした事が少々遊び過ぎてしまったな……」


-美雪目線終了-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る