青空の流星 ー緋々色金の想い達はここにー
水神乙女
星の想い
第1話 お父さんっ!! 僕っ!! この人と結婚しますっ!!
あれは肌を突き刺すような寒い冬の日の事だった……。
想夜
「もこっ、もこっ、もこもっこぉ、辛味噌からから、もこもっこぉ〜」
僕『
神社のベンチに座って、気になるお菓子や食べ物を食べるのが当時の僕のマイブームだった。
熊丸
「想夜様、今日は一段とご機嫌ですね」
僕の右肩に乗っかった状態で話し掛けてきた熊のぬいぐるみは『
熊丸は喋るし、動くし、空中を浮く事ができるぬいぐるみ。熊丸は、物心ついた時にはすでに僕と一緒にいた。
想夜
「そりゃそうだよっ!! もこもこラーメンの最新作だよっ!! 楽しみだよっ!!」
熊丸
「また激辛を……。想夜様、辛いのは得意ではないでしょう?」
想夜
「その時は頑張って食べる」
そんな話をしながら神社の長い階段を登って行く。階段を登り終え、いつものベンチを見るとそこには見慣れないお姉さんが座っていた。
雪のように真っ白で綺麗な長い髪をしたお姉さんだ。そのお姉さんは俯いていた。
熊丸
「……想夜様……」
想夜
「うん……」
そのお姉さんはどこか悲しげで、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。そんなお姉さんを僕は放っては置けず、声を掛ける事にした。
想夜
「お姉さん、どうしたの?」
お姉さん
「……大丈夫……なんでもない……」
想夜
「……嘘だよ……。だって今にも泣いちゃいそうな顔をしているもん……」
お姉さん
「……」
想夜
「僕、これでも居酒屋でおじちゃん達の話をいっぱい聞くから聞き上手なんだよ。だから大丈夫だよ」
お姉さん
「……人にはね……いろいろな事が……あるんだよ……」
想夜
「いろいろな事? 何があったの?」
お姉さん
「……どんなに頑張っても……どんなに大切に想っていても……護れず……失ってしまったモノが……あったの……」
そう言ったお姉さんの顔を見て、いろいろなモノが擦り切れて、涙さえ出ないくらい傷ついてしまったのだと思った……。つらくて、つらくて、仕方ないように感じた……。
想夜
「……はい。これあげる……」
熊丸
「想夜様? 何をお考えになっているのですか?」
僕はそんなお姉さんに『辛味噌もこもこラーメン・激辛ハバネロ編』を渡す。
お姉さん
「……これは?」
想夜
「僕がお小遣いを貯めて買ったラーメンなのっ!!」
熊丸
「そ、想夜様っ!? 正気ですかっ!?」
カップラーメンにお湯を注ぎ、3分経ってから蓋を開けて、割り箸を渡す。
お姉さん
「……?」
想夜
「食べてみてっ!!」
お姉さんはそのラーメンを口に運ぶ。
お姉さん
「のおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?!?
熊丸
「ですよねぇ……」
想夜
「つらい時はね、泣いてもいいんだよ」
お姉さん
「え?」
お姉さんの空色の瞳は僕を見る。
想夜
「僕はつらい時は辛い物を食べるんだ。からいと涙が出るでしょう? だからね、その所為にしちゃって泣いてもいいんだよ」
熊丸
「想夜様……」
お姉さんは静かに僕の話を聴いてくれた。
想夜
「だからね、僕はつらい時は辛い物を食べて、その所為にしてるの。だからね、お姉さんも我慢しなくていいんだよ」
お姉さんは静かにラーメンを食べ始める。その目には涙が溢れていた。
お姉さん
「辛いよ……とっても……からい……」
僕はお姉さんの隣に座って、お姉さんの腰のあたりをさすっていた。
熊丸
「想夜様……他に良い慰め方はなかったのですか? 不器用通り越して嫌がらせですよ? 落ち込んでいる人に激辛ラーメンを渡すなんて……」
想夜
「そうかな?」
お姉さんが泣き止むのを待っていたら夜になっていた。
お姉さん
「ありがとう……えっと……」
想夜
「僕ね、『想夜』っていうの。こっちは『熊丸』」
熊丸
「『熊丸』といいます」
お姉さん
「っ!? ぬいぐるみが喋ってるっ!?」
想夜
「そんなに驚く事?」
熊丸
「普通は驚きますよ」
想夜
「そっかぁ……」
お姉さん
「えっと、とにかく、ありがとう。ちょっと元気出たよ」
想夜
「それは良かった。僕達そろそろ帰るけど……お姉さん、お家どこ?」
お姉さん
「……」
お姉さんの格好をよくよく見るとボロボロだった……。もしかして……お姉さん……帰る場所がないのかな? こんな寒い日に外にいたら……風邪引いちゃうよね……。
想夜
「お姉さん、お名前は?」
熊丸
「想夜様? 何をお考えで?」
お姉さん
「美雪だけど……」
想夜
「なら美雪お姉さんっ!! 僕について来てっ!!」
熊丸
「想夜様っ!?」
僕は美雪お姉さんの手を引き、僕の家まで連れて行く。
美雪
「えっ!? ちょっ!? 力強っ!!」
家に入るとお父さんの『星島 レンチ』が仁王立ちして待っていた。
レンチ
「想夜っ!! 熊丸っ!! 夜遅くまで出歩いちゃいけないってパパ言ったでしょっ!! 想夜っ!! お前はただでさえ顔付きがえちちなんだからっ!! って……ん? ソイツは……」
家族じゃない人が一緒に住むには……確か……これしかなかったと思うっ!!
想夜
「お父さんっ!! 僕っ!! この人と結婚しますっ!!」
レンチ
「なっ!?」
美雪
「えっ!?」
熊丸
「ふぁっ!?」
美雪&レンチ&熊丸
「「「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!? なんでそうなったああぁぁっ!?!?」」」
レンチ
「おいっ!! てめぇっ!! よくもウチの息子をたぶらかしよってからにっ!!」
お父さんはいきなりお姉さんの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らすっ!!
想夜
「やめてっ!! お父さんっ!!」
美雪
「えっ!? ちょっ!! お、落ち着いてくださいっ!! 息子っ!? 娘じゃなくてっ!?」
想夜
「むっ!! 僕、男の子だよっ!!」
美雪
「そ、そうだったんだ……勘違いしてごめんね……じゃないっ!! と、とにかくっ!! 落ち着いてくださいっ!! お義父さんっ!!」
レンチ
「誰がお義父さんじゃぁっ!! このタンカスボケがぁっ!! そのビッグなお乳を引きちぎってやるわああああぁぁぁぁっ!!!!」
想夜
「お父さんっ!! お願いっ!! やめてよっ!! 僕達の結婚を許してよっ!!」
レンチ
「なんでやぁっ!! いきなり現れたこやつにっ!! 俺の愛しのキューティーボーイの想夜を譲らなくちゃならんのやっ!! こんのっ!! 今すぐにでもぶっ殺したらぁっ!! おいっ!! 熊丸っ!! お前というモンがいながらなんでそうなったんやっ!?」
熊丸
「そ、そう言われましても……」
レンチ
「そもそもなんでいきなり結婚しようってなったんやっ!?」
ここは正直に悲しそうな顔した人を放って置けないって言った方がいいかもしれないけど……それじゃお父さんは納得してくれないっ!!
想夜
「だって男女が一緒に暮らすのって結婚する必要があるんでしょっ!! こんな悲しそうな顔したお姉さんを僕は放って置けないもんっ!!」
レンチ
「想夜っ!! そもそもっ!! お前っ!! この娘っ子とっ!! いつっ!! どこで出会ってっ!! なんで結婚する事になったんやっ!?」
想夜
「今日、神社で出会って、悲しそうにしていたんだよ」
レンチ
「……ほぅ、なるほどな……そんで?」
想夜
「帰る場所がないって言うから連れて来た。家族じゃない男女が暮らすのって結婚する必要があるんでしょ? だったら結婚するしかないかなって……」
レンチ
「ちょい待ちぃっ!! 発想が飛躍し過ぎとちゃいますのぉっ!? そないな理由でいきなり我が家に連れて来てっ!! 結婚はっ!! 飛躍し過ぎやってっ!!」
熊丸
「それは僕もそう思います」
想夜
「え? そうなの?」
美雪
「えっと……と、とにかく……みんな……落ち着きましょう……」
美雪お姉さんは困ったような顔をしながらお父さんを宥めようとする。
美雪
「お互いに冷静になってから話し合う必要があるかと……」
レンチ
「ウチのプリティーキュートな想夜ちゃんがどこぞのメス狼に奪われそうになっているのに落ち着いている場合かあああぁぁぁっ!!!!」
しかし、お父さんは怒鳴り散らす。そこまで怒鳴る理由が分からないけど……。お父さんはなんかものすごく過保護なんだよね……。
レンチ
「想夜の事はっ!! パパが護るんじゃあああぁぁぁいっ!!!!」
想夜
「と、とにかくお父さんっ!! 落ち着いてよっ!!」
美雪
「えっと……想夜くんだったよね……」
想夜
「うん、想夜だよ」
美雪
「いきなり知らない人を連れて来て、その人と結婚するなんて言ったら家族の人達はびっくりしちゃうよ……」
レンチ
「パパはめっちゃびっくりしてるぞっ!!」
美雪
「ですよねぇ……。えっとね……想夜くん……。私達、まだ会って間もないし……そもそも歳の差が……」
想夜
「でもお姉さんからは優しい人の匂いがしたよ」
美雪
「優しい人の匂い?」
レンチ
「なんだと?」
想夜
「僕ね、優しい人とか怖い人とかそういう人って匂いで分かるんだ。お姉さんからは優しい人の匂いがしたの。そんなお姉さんが悲しそうな顔しているのに放って置けないよ」
レンチ
「……想夜……」
想夜
「それにお父さん言ってたっ!! 『愛さえあれば歳の差なんて関係ない』ってっ!! お父さんは50歳で20歳だったお母さんと結婚しているしっ!!」
美雪
「すごい歳の差の夫婦だったっ!? えっ!? 今何歳なんですかっ!?」
レンチ
「えっと結婚してすぐに想夜が生まれたから……今は俺が56歳で妻が26歳だな……」
美雪
「結婚してすぐだったのっ!?」
想夜
「所謂『できちゃった婚だったなぁ』ってお父さん言ってたよっ!!」
美雪
「えっ!?」
想夜
「それにお父さんこうも言ってたもんっ!! 『子供ができちゃってから愛を育むのもまた愛の形だ』ってっ!!」
美雪
「想夜くんのぶっ飛んだ考え方の原因ってお義父さんの所為だったんじゃないのっ!?」
ヒロコ
「アンタッ!! 想夜になんて事を教えてんのっ!!」
レンチ
「ほげぷぎゃぁっ!?!?」
襖からお母さんの『ヒロコ』が飛び出し、お父さんの右頬に跳び膝蹴りが叩き込まれるっ!!
レンチ
「ち、違うんだっ!! ヒロコッ!! お、俺はっ!! 想夜にお前と結婚したのはなんでか聞かれたからっ!!」
ヒロコ
「ふぁっ!? ア、アンタッ!! まさかっ!! 正直に話したのっ!? まだ幼い息子に話したのっ!? 酒場でお互い酔った勢いでホテルでワンナイトしたら想夜を孕んじゃった事をっ!! 包み隠さず正直に話したのっ!? ウッソだろうっ!? お前っ!! マジでふざけんなよっ!!」
レンチ
「し、仕方ないだろうっ!! こればかりはっ!! お前と結婚する時に誓ったんだよっ!! 俺は家族には嘘はつかないってよっ!! そう決めてんだよっ!! ツライ時もっ!! 嬉しい時もっ!! 何もかも包み隠さずっ!! 家族には話すってっ!! 俺は俺のイチモツに誓ってんだよっ!!」
ヒロコ
「イチモツに誓ってんじゃねえええぇぇぇっ!!」
レンチ
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
お母さんがお父さんに馬乗りになり顔面をボカスカ殴る。お父さんは悲鳴をあげる。ある意味、修羅場だった。
あまりにも話が長引くので『お姉さんと駆け落ちする』と言ったらお父さんは渋々家で暮らす事を許してくれた。
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