第22話 借金男の第三の選択肢
ホールの外、誰も居ないような駐車場の端。
俺の前にはあてらと巡が立っている。
「先輩、選んで下さい」
「選ぶ?」
「はい。私か、目押ちゃんか、どっちかを選んで下さい」
「センパイ、私はいいから、あてらを選んで」
「目押ちゃん、自分に正直になってよ」
「もうさっき、正直に全部言った。私はセンパイが好き、あてらも好き、それだけだよ」
「私と先輩が付き合っても、本当にそれでいいの?」
「……嫌だけど、そうしないと私はもう2人の前にどんな顔して現れればいいのか、わかんない。でも、あてらとセンパイが付き合えば、私はまだここに居られる。これは私の為」
「そっか、じゃあ先輩、どちらかの手を握ってください。私と目押ちゃんは目を瞑ってますから、彼女にする方の手を握って、そのままこの場所から消えるんです」
消え……え?
「私と目押ちゃんはもう仲良くできません」
「そんな事ない! 私はあてらと仲良くしたい!」
「私は先輩に選ばれなかった、アイツがいるから選ばれなかったんだ。幸せになれないんだって、思わない?」
「思わない! そんな事」
「嘘ついてる、よね?」
「……あてら」
「わかってるよね? どちらかが選ばれてハッピーエンド、選ばれなかった方も友達として〜なんて物語でもあり得ない、現実ならなおさらでしょ」
「センパイ、あてら……」
「それじゃあ目を瞑ります。全部、先輩に任せます」
目の前には目を瞑った2人がいる。
ここで俺がどちらを選んでも、関係は壊れてしまうし、一人はここから消えてしまう。
それを俺にやれって?
キツイな……これ。
……メッセージ?
誰からだ。
『やばい状態なら言いなさい、アンタが勝手に行動してバカみたいな事に巻き込まれてるのは分かってる。アタシも同じホールに居たんだから説明は要らないわ』
柚月!
柚月なら……よし。
アイツに任せるか。
きっと俺がやるより、最善のやり方でなんとかしてくれるに違いない。
『助けて』
俺がメッセージを送ると、柚月から指示が飛んできた。
『まずあてらの悪い所を口に出しなさい』
『無いって、そんなの』
『あるっての! 目ぇついてんの? 思いつかないならアタシが書き込んだ物を口に出して! いい?』
『わからないけどわかった、頼む』
「あてら」
「はい」
「まず……えーっと、え、これマジで言うのか……」
「先輩?」
「あー、まずだな、お前は俺の彼女じゃないのに俺の行動を制限するな」
「それは……」
「他の人とデートするなとか、彼女が言うなら分かるけど、お前は彼女じゃないんだぞ」
「……はい」
「次、巡!」
「ん」
「お前は自分に自信がないのをあてらを理由にしてるだけだろ……そんな事ないとは……あ、それに! あてらとのデートの練習とか言って俺とあてらに気を使ってるつもりかもしれねぇけど、それはどっちの信頼も失う動きなんだ、絶対やめろ」
「……ごめん」
柚月のメッセージはここで終わってる。
次はどうする?
どうすればいい?
『実は俺、柚月と付き合ってるからお前らとは付き合えない』
「実は俺、ゆづ……え? いや、は? 付き合ってないんだけど?」
『ちょっと! しっかりセリフ言いなさいよバカ!』
こいつどっかで見てやがるな!?
どこだ、どこで見てやがる。
『あのね、ここで誰でもいいから付き合ってるって事にしておけば上手くまとまるのよ!』
な、成る程!
よし、それなら。
「先輩、今柚月先輩の話しましたか? 何でその名前が出てくるんですか?」
「センパイ、あてらでもなく私でもない、別の人を選ぶの?」
言えねぇ!
この空気じゃ絶対言えねぇ!
二人共もう目閉じてないじゃん、見開いてる!
めちゃくちゃ怖い!
くっそ、柚月のアドバイスはもう使い物にならん。
後は……俺の言葉でどうにかするしかないか。
本心をぶつけてやる。
これで無理なら……安全の為に家から出ないようにする!
「俺はな、ここでどっちかを選ぶ事はしない、つーか出来ない」
「どうしてですか?」
「あてら、お前は今ここで選ぶように言ったけどよ、少し考えてみろ。お前ら二人共めちゃくちゃ可愛いんだよ」
「そんな事、ない。あてらは可愛いけど、私は違う」
「目押ちゃん、今はそんな話してないよ。……続けて下さい、先輩」
「あてら、お前からは前に好きだって告白されたのはしっかり覚えてる、巡からも……まぁ聞いた。そしてその告白の答えだが、今は二人共ダメなんだよ」
巡は真剣な顔で俺を見ている。
それに比べて、あてらの瞳からは光が消えていて、確実に答えを間違えればここで酷い目にあわされるのは間違いないだろうと思える圧が放たれている。
「二人には俺の今の状況の話はしたよな?」
「学費を使い込まれた、だよね」
「ああ、残り一月でだいたい80万集めないといけないし、これが無理なら退学になっちまう。普通に考えてみろ、こんな追い込まれた状況で彼女なんて作ってる場合か? それよりも金を稼ぐ方が大切だろ」
「それは……そうですけど」
あてらは何か言いたげだ。
それを見て巡は何かを閃いたようで、今までの暗い表情とは打って変わって明るい笑顔を浮かべた。
「つまり、学費の問題が解決しない事には彼女は作れない。だから、それまでにお前らがアピールしろ、って事?」
「……成る程、つまり今はまだテスト期間って事ね」
「そうだよ、あてら。まだ結果を聞くには早い。」
言ってねぇよ、そんな事。
「私! 先輩の為に頑張ってパチンコ打ちます!」
「えーっと、俺の為に……パチンコを?」
「はい! 利益は全部先輩に貢がせて下さい!」
「み、貢ぐ!?」
「大好きな人に貢がせて下さい!」
いや表情は真面目だし、手伝おうとしてくれてるのは間違いないんだろうけどさ、言葉が悪い。
貢ぐて、貢ぐは無いだろ。
「……まぁ、よろしく頼む」
「はい! いーっぱい、お金渡しますね!」
やめろ、あてら。
巡がすごい顔で見てるぞ。
本当にダメな男を見るような顔で、俺を見てるじゃねぇか。
「センパイ」
あてらが笑顔になった所で、巡が一歩だけ前に出た。
「私はアピールとかしない。あてらに酷い事をしたから、出し抜くような事もしない、だから、私はもう二度と告白しないしデートにも誘わない」
「巡ちゃん……」
「あてら、やっぱり私はこの場所が好き。変な話して、笑って、パチンコを打てるこの関係が好き。この先、あてらとセンパイが付き合ったら自分がどう思うのかは知らないけれど、今の幸せを大切にしたい」
「うん、そっか……」
「だから、私も、ここにいていいかな」
「……言っておくけど、私は目押ちゃんには絶対負けないから」
「その話はもういいから……」
「先輩が目押ちゃんを選んだとしても?」
「……!?」
「ま、それは大丈夫、私も覚悟決めたから」
「覚悟?」
あてらの覚悟?
どんなのだろ、とにかく稼ぎまくるとか?
いや確かにめちゃくちゃ大金渡されたら嬉しいけどよ、その反面申し訳なさが酷くて、自分の心に押し潰されそうになりそう。
「とにかく! 今は今まで通りの生活をするって事で、先輩は私からの貢をしっかり受け取る事!」
「うぇ……お、おう」
「そして私を彼女にする事!」
「あー……あはは」
「はっきりしないですね……でもそんな先輩が好きです」
「あてら、男の趣味悪い、ね」
「お互い様、でしょ」
「確かに、フフッ」
とりあえずこれは……空気が軽くなったし、一件落着か?
「あっ、先輩」
「どうした?」
「んっ」
「ちょ、あてら!」
「あーーーッッッ!」
後ろの方から柚月の声が聞こえてきた。
巡は目をまんまるにしている。
いやこの二つはどうでもいい、それよりも、俺の唇から感じる柔らかい物と、目の前にあるあてらの顔が問題だ。
俺がキスしていると実感するのにそこまでの時間はいらなくて、あてらが離れた時、俺の顔は真っ赤になっていただろう。
多分、頭から湯気も出てた。
「あっ、あてらさん!? さっき、さっきその」
「私のファーストキスを貢ぎましたっ」
「ファースト……キス!?」
「はい! 先輩を絶対に彼氏にしたいので……あとは、私を嫉妬させたお返しのいたずらです!」
いたずらでおま、こんな大切な事……。
「先輩はもう私の初めてを一つ手に入れましたね? ……責任、取って下さいね」
最後の方はとても小さな声で、なおかつ普段とは違った少し低めの声で、俺に責任を取る事を求めてきた。
別にそんな性癖じゃないに、何故だろう、背中がゾクゾクする。
「あてら、大胆」
「先輩の唇が寂しそうにしてたから」
あてらは笑顔を浮かべ、巡はいつも通りの無表情に戻っている。
「さてと、目押ちゃん、行こっか」
「行くって、何処に?」
俺があてらに質問すると、あてらはイタズラっぽく片目を閉じてウインクをして。
「女の子同士の話ですっ! メッ! それでは先輩、また明日、頑張りましょうね!」
そう言いながら、目押を連れて何処かに行ってしまった。
気になった俺は巡にメッセージを送ったが。
『女の子の世界は、複雑なんだよ』
この一言だけが、帰ってくるだけだった。
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