第20話 転生者、葛藤する

コトローネは俺の姿を見て驚愕したような声をあげる


「お前…目を潰したのか!?」


コトローネは恐らくだが俺の目を見てそう言ったのだろう。

全く持ってその通りだ、俺は目を潰した。目から溢れ出したであろう鉄臭いドロドロとした血が口に入る

その度に激痛が走り、もはや俺は立てる状況ではなかった。


「やっぱ、未来視…の条件は視線を合わせること…だろ?手を使おうとしても目を…閉じても何か対策されると思っ…たんだ。だったら…こうするしかないよな」


何か青ざめたような図星を突けたような雰囲気を感じ取り、さらに俺は彼を誘導するように挑発する。


「どうした…?早く…来いよ…いつも死体でステーキ作ってんだからこんなの慣れてるだろ?」


俺がそう口にすると、コトローネは妙に苛ついたような口調で喋りだした。


「不要なんだよ…」


「…は?」


「ヴァーミリオンはもう不要なんだよ!そもそもコイツはお前の代用だ!!コイツが国1つ滅ぼせるレベルなら精神ぶっ壊して祖の目的の手伝いをさせるつもりだったんだ!なのに…なのにお前は余計な事ばっかしやがって…」


横を見ると、拘束されているヴァーミリオンは涙を流して震えていた。

その声のままある質問をした。


「じゃあ…私が餓死しそうになってた時!わた…私の名を明かす前から買ってくれたのは何故ですか…?」


いつもの妙な口調ではなく、本当に限界を迎えていると感じる程の声色でそう言った。


しかし、彼は非情に返答をした。


「未来視だ。最初から知ってたんだよ、買ってやった理由はそれだけだ。」


その事にかなりのショックを受けた様子で、さらに声を震わせ、続けて質問を投げかける


「じゃあ、私に手作りのスープを作ってくれたのも、小さな時によく遊んでくれたことも、馬車に乗せて綺麗な景色を見せてくれたのも全部全部……この状況を作るためだったんですか…?」


「………………………………………ああ」


長い沈黙の後、ついに口を開いた彼から飛び出した一言は、彼女を絶望の淵に立たせるのにそう時間をかけなかった。


しかし、そんな彼女の気を保たせるように俺は自分に走る激痛を我慢しながら言葉を発した


「俺は!俺…は…君を助けるために来たんだ…今なら助ける方法がある!…ど…どうするのか君が決めてくれ!」


すると、彼女は少し泣くのを止め、口を開いた


「子供は…最終的に親元を離れるらしい…だから、私もそうする」


鼻と涙をすする音が聞こえ、その後にその言葉が耳に入る。

そして、自分のやるべきことをもう一度確かめた。


「今…助ける…待ってて…くれ…」


「お前に出来るのか?助けることが」


俺がそう言うと、コトローネはそれが俺に出来るのか重い口調で確かめるが、そこには前と違い安心感がこもっているように思えた。


その声がする方向へ暗闇への不安感や焦燥感を覚え、よろけながらも行き着くと、コトローネに質問を1つした。


「もう…お前にとってヴァーミリオンは無価値なのか…?」


するとコトローネは少し悩み、間を大きく開けた。

そして息を大きく吸い、ため息をつく音が聞こえるとやっと返答が耳に入ってきた


「…あー…ああ…そうだな。無価値だ。」


その言葉を聞き、やはりそちらを答えるのかと呆れた。そして自分の口で手袋を噛んで外して自分の胸に当てた。


それと同時に、自分の掌から魔力を流すイメージをして、心の中で『位置交換』の魔法を唱えた。

あの日コトローネに教わった魔法だ。


「無価値か…俺はお前に無価値で買われた。で、今ヴァーミリオンのことも無価値と言った」


「…あぁ?」


そうコトローネに向かって話す

俺とヴァーミリオンどちらも無価値、等しい価値になる。


つまり、『等価交換』と『位置関係』を同時に使う。

目が見えなくても位置交換を行うことが出来る。


これは賭けだったが、突如として自分の腕が縛られるような拘束感を覚えたことから成功したのだろうと確信を持った。


「行け!ヴァーミリオン!」


位置交換でコトローネの前に出たであろうヴァーミリオンは、今出せる全力でコトローネの事を殴ったように骨が軋む音と風切り音が聞こえた。


「…ごほっ…か…息が…あぐ…」


「………………本当の父親だと今でも思ってるよ、さよなら」


直後、自分の拘束が解かれた。

彼女が解いてくれたのだろう。しかしもう俺に礼を言う元気すらない。血を失いすぎた。


「今、今すぐ治せる人を探すから❗️」


担がれた感覚がする。

彼女は出口を探し、辺りを見渡しているような動きをしていた。




そして


突如として後ろからコトローネの声が聞こえた。




「まだ…まだ逃がさねぇぞ、せめてこの力を『取り込ませる』ぐらいは…」


コトローネの声がする方向から立ち上がり、木製の床が軋む音がした。

さすがにこれ以上の策を講じていなかった俺は冷や汗を流した。


だが、突如として俺の視界が元に戻った。


「な…も、戻った!?」


そんな俺の疑問を払拭するように、彼女が肩にかけている魔剣のクルトが小声で話しかけてきた。


「君が死ぬとリオンが悲しむから、一応『回復(ヒール)』はしといてやる。感謝しろよ」


自身の傷が治り、視界が戻ったもののコトローネは俺を奪おうと襲いかかる。

その時、俺の視線とコトローネの視線があった。

目が合い、未来視が発動する


「ああ…そうか。」


彼がそう呟いたと思った瞬間、彼は俺達を追う事を辞めた。

そしてしばらくうつむいてから俺達に視線を合わせると口を開いた。


「早く行け、ここは厨房の地下だから…あの梯子から出られる。」


突然の事に意外性を感じたものの、俺を背負ったヴァーミリオンは最後に一瞬コトローネと目を合わせてから、もう後ろを振り向くことなく、俺と共に屋敷の外へと脱出した。


屋敷の外に出た後、いったいどんな未来が見えたのかと疑問に思ったその瞬間、今まで俺達がいた、コトローネが残っている屋敷に火がついた。

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