第11話 転生者、暗殺ギルドを知る

ここは暗殺ギルドの拠点の一つ。

そこで俺は強面の男達に囲まれた

その男達は今、俺の前で土下座をしている

………どういう状況??


「頼む!俺達に協力してくれ!」


「えっと…協力?」


「トウスさん!土下座をすれば人は何でもしてくれるって言ってたじゃないですか!」


近くで一緒に土下座している男がトウスに話しかけている。

こっそり話しているようだが…滅茶苦茶聞こえてる


「ああ…もしや人ではないのかもしれないのである…」


「おい」


「っ!ありがとう…それでは、説明の時間である」


いや、やるなんて一言もいってないんだけど…

なんかもう何言っても無理そうだし…ここは話だけでも聞いておくかぁ…


「君はクリム・ベルリアを知っているか?」


「…いや…知らないな。誰?」


「この世界を支配しようとした『転生者』を殺した『英雄』と呼ばれる女性だ。」


今の俺の発言は嘘だ。彼女のことはコリントから聞いた。それに、ここでも転生者という言葉が出てきて内心焦ったのだが…それ以上に転生者を殺した英雄という情報…1つだけ、核心に迫る謎が解けた


英雄に殺された『転生者』と奴らの崇拝する『祖』は同一人物だ。


やっと俺に奴らが付き纏ってくる理由が解った。これは大きな進歩だ。そう思っているとトウスはやっと頭を上げてこちらを刺すような目で見つめた。

こうしているとバ…天然?には見えないんだがな


「彼女…ベルは転生者を殺した後、とある男と結婚し子供も授かったのである。しかし、悲劇はそのすぐ後に起きた。」


「…悲劇?」


「ベルの夫は冷酷な男だった。2人の間に出来た子供…ヴァーミリオンをスタル王国という国に奴隷として売り飛ばしたのである」


「…は?」

なんだよそれ、何で、父親だろ?何でそんな事ができる。たかだか金のためだけに子供を…ましてや英雄と称えられた人間の

そう思うと腸が煮えくり返ってきた

それを察した周りの男達は俺をなだめ、トウスは話を続けた


「そして自分の子供が売られた事を知ったベルは夫を殺害、その後スタル王国を一人で滅ぼした」


「たった一人で…!?」


「…残念なことに、既に王国外に売られたヴァーミリオンを探している最中にベルは何者かに殺されてしまったのであるが…。」


なんて胸糞悪い話だ…たった一人の人間のせいで英雄すらも最悪の結末を辿ることになるなんて

しかし、その話が何に関係あるんだ?


「で、…ヴァーミリオンの居場所がわかったのである」


「えっ」

予想だにしない展開に驚きつつもそこからの話を聞き漏らさないように必死にトウスの話を聞く


「クリム家の知り合いを名乗るクロトーンという男から手紙でヴァーミリオンの居場所と彼女の救出、そして監禁している人物の暗殺という依頼が暗殺協会に来たのである」


「あ、暗殺…それよりも、どこなんだ?どこにヴァーミリオンは…」


「君のいた街、アセロラに住む豪商、コトローネの屋敷に監禁されているらしい。」


「あ、アセロラに…そんな馬鹿な…」

自分がよく行き来していたアセロラに、そんな悪人が何食わぬ顔で生活していたことと、警察官でありながら気づけなかった自分に対して苛立ちを感じた


「そして、ここからが君に関することなのだが、試しに何度か俺の分身を彼の屋敷に忍び込ませたのだが…一人も帰って来なかったのだ。」


「な…A級冒険者のあんたの分身が?」


「ああ、そのせいで何も情報が手に入らなかった。そこで、君の出番だ。君の潜在能力と勇気は並大抵のものではない…と感じた。俺が保証するのである。」


「え…いや…まさか…」


トウスは無言で頷く


「君には奴隷のフリをしてコトローネの屋敷に潜入し、情報を持ち帰ってきて欲しい。勿論、数人の仲間も一緒に行かせるから安心してほしいのである」


これは…俺の命を落とすかもしれない危険な事件だ

しかし、父親のようになるため、そしてせっかく俺を信じて頼ってくれたトウス、今も酷い目に遭っているヴァーミリオンを助けるため、断るという選択肢はない


「わかった。やらせてくれ、俺に」


「ほ、本当か!ありがとう…助かった!」


「トウスさん!やっぱり土下座をすれば言う事を聞くんですね!」


いや…別に土下座されたから言う事聞いたわけじゃないけど…

そう思いながら設置してあった古びた木製のテーブルに目を落とすと、一冊の本が置いてあることに気付いた


「トウス、あの本は何だ?一冊だけ置いてあるけど」


「ああ…それは転生者が遺した手記だな。」


転生者の?マジかよ…思わぬ所でこんな巡り合わせが…

欲しい!これがあれば父さんの居場所の手がかりになるかもしれないじゃないか!


「む?君、この本が欲しそうな顔をしているな」


「おっ…え、いや、大丈夫。大事な物だろ」


「いや、君が救出に成功した暁には謝礼と共にこれも渡そうではないか。そもそも俺達が読んでも理解ができなかったのであるが」


まさに一石二鳥の思いだった。

コウヤは父親のような正義を体現した人間になるため

そしてその父親の居場所を見つけ出すため

再度クロトーンの屋敷に潜入し、ヴァーミリオンを助け出す決意をした


ーーーーーー


その後、今度はしっかりと目隠しでアセロラまで帰ってきたコウヤはトウスから連絡が来る前に必要な準備をしようとした。

しかし、いざ歩き始めようとした瞬間、目の前が暗転し、体が倒れる感覚がした


「あれ…魔力切れ?いや、ないだろ…あっ」


魔力切れ以前に、自分が10日間以上も寝れていなかったことを思い出した

そりゃ倒れると自分自身を戒め、地面に落ちる___

かに思われたが、後ろから誰かが自分の体を支えた


「危ないよ?って、君…身体がボロボロだね、大丈夫かい?」


顔を見上げると、自分の体を支えていたのは

暗く、少し青が混じった夜空のような綺麗な髪色で白衣を着た、いかにも医者のような見た目とは裏腹に、右耳に十数個のピアスをつけた美女だった

何度も自分に『大丈夫?』と聞いてきたのだが、

俺の意識はもう保たず、腕の中で眠ってしまった


ーーーーーー

夢を見た

ずっと前の、父さんが行方不明になる前の思い出


俺はその時、父さんと遊園地に遊びに来ていた。

たくさんアトラクションに乗って、疲れてベンチに休んでいた時に、父さんは俺に話かけてきた


「なあ、次はアレに乗らねーか?途中で10回転するんだってよ!父さんまだ体力ありあまってるぞ!」


「わ、わかったからちょっと休ませて…」

アイスを2つ買ってきて俺に1つ渡しながら、目を輝かせて大きなジェットコースターを指差した

しかし、これ以前にいくつも乗ってきたせいで俺の体力は限界だった

この体力はいったいどこから来るんだ…


そう思いながらアイスを受け取ると、後ろ側から叫び声が聞こえてきた


「あああ!あぁぁああ!」


後ろを見ると、顔が赤く、明らかに寄っているであろう中年の男が包丁を振り回しながら意味のわからない言葉を叫びながら走り回っている。

その瞬間、父さんが俺の頭に手を置く


「コウヤ、絶対ここから離れるなよ」


そう言って父さん…兼房レイジは男の前へと飛び出した


「うぅ〜?うわぁぁぁァァァ!!!!」


またもや意味のわからない言葉を発した男はレイジ目掛けて包丁を突き刺そうとする。

しかし、レイジは左手を包丁を持った手にスライドさせて軌道をずらし、その瞬間に手首を掴んで包丁を落とさせて足で蹴って遠くへ飛ばし、そのまま取り押さえ助けを呼んだ


「早く!早く警備の人を連れてきてください!」


その後、警備の方々に男は連れていかれた。

男が暴れていた時に近くにいた女性にお礼を言われている父親の隣にコウヤは立っていて、彼に対して尊敬の念を抱いていた。


「父さん、その…かっこよかった!いつもと違ってちゃんとしてた!」


「当たり前だろ…警察だし。ま、でも格好良かっただろ?いつかお前も俺みたいになれるかもな!」


そう言って肩をポンポンと叩く父さんとその言葉を聞いて、より一層兼房レイジという人間、ひいては警察官に尊敬の念を抱いた。


…そういえば、警察官になって沢山の人を助ける。って夢、この時から出来たんだっけ_____


ーーーーーー


目を覚ますと、木製の小さな病室の中に俺はいた

近くには、さっき頭の向きを変えた時に頭から落ちた濡れた布と小さな人間の体にコウモリの顔がついた奴がこちらを見つめていた


…何コイツ?


目が合ったまま、しばらく間が開く。

相変わらずお互いに何も喋らず、気まずい時間が流れた


突如、その時扉が開き、眠る前に会った美女が入ってきた。


「やあ、体調は大丈夫かい?ずっとうなされてたんだよ、君?」


「あ、ああ、体調は大分良くなった。悪いな…運んで貰っちゃって」


自分がアセロラで倒れたことを少しづつ思い出しながら、ここにいるということはこの娘に運んで貰ったのだろう、俺はよく女性の前で気を失うな。

と感じながらもお礼を言った


「いやいや、君に死んでもらっちゃ困るからね、ね?転生者君」


「…は?何で知ってるんだよ」

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