第2話


 宇宙服のバイザー越しに見えたのは、漆黒の宇宙に浮かぶ巨大な影だった。悟風は息をのんだ。


 「……これは、機械か?」


 エアロックを抜け、慎重にスラスターを吹かしながら近づく。光の届かぬ深淵にそびえ立つそれは、まるで神話に語られる巨人のようだった。金属とも石ともつかぬ外殻は無数の傷に覆われ、かつて激しい戦いを潜り抜けた痕跡を残している。全長はゆうに100メートルを超える。人型——いや、機械巨人。


 オリオンIIの無人探査機がこの近辺で異常信号を捉えた理由は、これだったのか。


 悟風は慎重にスラスターを調整し、機体の表面へと降り立った。重力はないはずなのに、不思議と体が引き寄せられるような感覚を覚える。無意識のうちに手が伸び、指先がその装甲に触れた瞬間——


 カチッ。


 耳元の通信機がノイズを発した。


 「……ようこそ。」


 機械音と人の声が入り混じったような音が響いた瞬間、悟風の視界が反転した。


 次の瞬間、彼は機械巨人のコクピットにいた。


 「……どういうことだ?」


 座席に固定されるでもなく、重力を感じるでもなく、ただそこに"いる"という感覚。パネルやスイッチはなく、代わりに彼の意識が機体そのものと"繋がって"いるのを悟る。


 ——この機械は生きている。


 悟風の脳裏に、無数のデータが流れ込んできた。古代の星々、滅びた文明、幾千の戦争。そして、この機械が最後に見た光景——宇宙の果てにある"何か"。


 「お前は……何を見た?」


 問いかけるが、答えはない。


 その代わりに、機械巨人がゆっくりと動き始めた。


(続く)


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