第20話 大神機擂台賽

 早朝だというのに聞こえてくる歓声が空気を揺らしている――大神機擂台賽の会場は既に大賑わいだ。

 大規模なイベントとは聞いていたが、その規模は想像をはるかに超えていた。

 見える人々の多くはフォンクォン人ばかりだが、帝国人や自分と同じルール人、遠く隔てた海の先にあるサードヨーク人と顔ぶれは様々。会場全体の熱気がとにかく凄まじい。


「エントリー名は『スカーシルバー』ね。まず予選を行うから機体と一緒に地下の格納庫で待機してね」

 口ひげを生やしたスタッフらしき男に案内され、ノア、ナハイムと共にガレージへ移動する。

 格納庫エリアはとても広く、色とりどりの神機が所狭しと並んでいる。もし大会中じゃなければ一機一機観察したいくらいだ。

「随分とワクワクしてるじゃないか」

「神機が見れますから」

「ふん……お前がこいつに乗ることになったのもそんなきっかけだったな」

 ガレージに神機を停める。すぐ側には会場の様子を見れるモニターがついていて、予選の様子が延々と流れている。

「今年は20万人規模の予選参加者がおるようだの」

「ここから振るい落とされて残るのはわずか十数名程度。良くもまぁ払い下げの型落ち品を鍛え上げたもんだな」

 モニターの画角外へと吹っ飛んでいくトシ。どうやら予選敗退のようだ。

「頼むから負けてくれるなよ。正規手段で皇帝に会うにはこれぐらいしかないからな」

 せっかくの気楽な気分へとのしかかるプレッシャー。

 互いに武器なし、さらにこっちは性能で勝るGA型とはいえプロに敵うだろうか。武者震いが己の全身を襲う。


「次、『スカーシルバー』!」

 しばらく経ってようやく名前が呼ばれる。

 暇だったためにイメージトレーニングを数回する時間すらあったほどで、緊張をほぐすには十分すぎた。

 ゆっくりとゲートをくぐる。モニター越しでも眩しいほどの太陽が差し込み、少し目を細める。

 試験官らしき兵士の神機の前にまで移動する。相手はイシュタム、マルティのものとは違い装甲色が全体的に白い。

「本戦に進むには試験官を殺害以外で戦闘不能にすること、倒されれば資格なし。時間制限もなし!」

 審判がルールを読み上げ、紅白の旗を前へと真っ直ぐに構える。

 そして近くにいた神機が、持っている銃器を真上に掲げる。

「互いに構えて!」

 審判の号令。地面を踏みしめるように構え、姿勢を低くする。

「始めィッ!」

 開始の号令と共に号砲が鳴る。

 号砲に間髪入れず、獣のように低く構えた状態のまま、最高速度でイシュタムへと掴みかかる。

「何ィ!? 早いぞアイツ」

 周囲の歓声が聞こえる。ちょっと大人気ないだろうか、これは。

 反応できなかったのか、イシュタムは無様に足を掴まれ無防備を晒してしまう。

「脳が揺れたらごめんなさい!」

 一応断りを入れ、足を掴んだまま壁へと突き進む。

「や、やる気かあの銀色!?」

「こっちに来るぞ! 何かにつかまれ! 吹っ飛ぶぞ!」

 響く鈍い音、試験官のイシュタムは頭部ユニットが壁に突き刺さり起動停止する。

「合格ッ! 『スカーシルバー』、本戦出場!」

 拍手が鳴り響く。どうやらやり方に問題は無かったようだ。


 大した損傷もなかったのでそのまま来た道を戻る。

 格納庫に入った瞬間襲いかかってくる感覚。周囲から感じる明らかな興味、「好敵手」を求める人々の視線。

「悪目立っちゃったなぁ」

 後悔先に立たず。壁に突き刺して勝つべきじゃなかった。下手に性能を晒してしまった。

 せめてもう少しHB型らしい徒手格闘でもしておけばよかったかもしれない。

 コクピットを開けて深呼吸、本戦出場は楽に終わった。だが次からはイシュタムと戦えるパイロットたちとの勝負、今以上に気が抜けない。

「やけに飛ばしてたな」

 ノアがからかい気味に声をかけてくる。

「自分もやりすぎたとは思ってますよ……」

「なぁに、センスのない塗装のイシュタムをコテンパンにしてくれてありがたいぐらいだ」

 かっこいいとまでは言わないが悪くないとは思っていたのに。

「白と金色なぞ見るに耐えん。冗談じゃない」

 文句を続けるナハイムを横目に、モニターに移る予選の様子を眺めていた。


 そこから十数時間後、日が暮れた後にようやく予選が終わる。明日には本戦のトーナメント戦が開始される。

 そしてそれに先駆けて、本戦の開会式が行われていた。

「これより、第十四回大神機擂台賽を開幕する!」

 夜だと言うのに会場が歓声の音圧で揺れている。予選以上に凄まじい熱気だ。

「皇帝陛下のご覧の下、我々全員が公平に戦い合うことを宣誓する!」

 宣誓する男の目線の先には皇帝の座る席の代わり、会場に鎮座する一騎の神機があった。それが会場を見下ろす姿は荘厳という他ない。

「あれがDの皇帝カイザーリンの……」

「凍てつく戦乙女ヴァルキュリア、イツトラコリウキだ」


 それをしっかりと見上げた瞬間、自分の周りの時間が静止した。

 白を基調とした装甲、その隙間に走る漆黒のライン。他の神機に比べても細い体躯、そして戦乙女のような剣闘士のヘルメット形の頭部。

 鎮座しているだけだというのに、そのツイン・アイの目線が直接突き刺さってくるかのような感覚。

 復権皇帝の栄光、美しくも残酷な戦場の悪夢、その両方を象徴する生きた英雄の神機がそこにいた。

 かつては帝国の識別マークが描かれていたという装甲の部分は、フォンクォンの国旗で上から塗りつぶされていた。

「……美しい神機って聞いてましたけど、いざ実際見ると凄いですね」

「あの戦場じゃ恐怖の象徴、今じゃ皇帝の権威そのものか……」

 夜闇の中でもはっきりと見えるイツトラコリウキを見上げるノアの目と表情には、懐かしみがあるように見えた。

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