第12話 砂漠の夜明けに
右腕の武装を失ったはずであるが、マルティの操るイシュタムの攻撃は逆に獣のごとき激しさを増していた。
『ほらほらほらほらぁ! いつまで受け身でいるつもりだ!』
激しい旋回を伴って繰り出される回転斬り。両手時とは違い腰部や脚部のブースターがモニター越しでもわかるほどに赤熱化し、機体の限界レベルにまで加速を伴ったその攻撃は、防ぎ切るのにも一苦労するほどの連撃をこちらへと与えてくる。
(攻めなきゃ押し負ける……でもどう攻めればいい?)
顕著な経験の差、それでいて片腕の武器を無力化できたのは奇跡と呼ぶ他ない。
もし両手の武器が健在だった時に最大出力でやられていたら、自分はとっくに負けていた。
『どうした銀色! オレを倒す気がないのか! お前にとっての不条理な支配を取り除きたいんじゃあないのか!』
「ぐぅっ……!」
『それとも口だけかぁ? それに乗れるDの、恵まれた奴の
「恵まれてるだって……!」
確かに自分は不幸な生まれではなかった。
でも僕だって何も失っていないわけじゃない。両親の記憶はない。だが僕の人生に「恵まれてる」なんて気軽に言われる筋合いなんてものはない。
「何も知らないのは貴方の方だ!」
『そうさ、知るもんか。お前みたいな
「そうやって何も見ようとしないから、貴方は支配しかできないんだ!」
『うるせぇ! 分かり合えないくせにわかったような口をきくな!』
ぶつかり合うプラズマと言葉の刃。言葉を平和の道具と宣いながらも、結局自分も攻撃的に使ってしまっている。
矛盾、分かってはいる。だがそうであっても、この人を許すわけにはいかないのだ。
■■■
「凄まじいな」
キャリアーの上からグレガリアのトシを一機ずつ撃ち抜きながら、ノアは呟く。
『少々押し負けてるように見えますが……援護するべきでしょうか?』
ジークは不安げに問う。
「いや、良い。アイツなら一人でやれるかもしれん」
『了解。作戦に戻ります』
通信が切れたのを確認してから、ノアはまた呟く。
「……どうせマルティに引導を渡すのは、俺だしな」
■■■
(同じだ……テスカトリポカの時と。片腕で、爪の武器……)
違うのは機体性能の差のみ。もしこの程度で負けるようであれば、自分は一生かかってもアレに勝てはしない。
別に勝ちたいだなんて言わない、でももし次があるのなら……彼とは対話をしてみたい。
だから負ける訳にはいかない。
激しいスパーク音と点滅を放つサーベルを構えたまま、思い切り後ろへと操縦桿を引く。
バーニアの逆噴射によって姿勢を保ったまま後ずさり、鍔迫り合いから逃れる。
『逃がすかよぉ!』
クローを振りかぶり、こちらへと追撃をしかけてくるイシュタム。
その体が完全に浮く、その瞬間を狙い操縦桿を前に思いきり倒す。
「テヤァァァッ!」
『来るか! いいぜぇ、かかってこいよぉ!』
垂直に構えたサーベルを持ったまま、イシュタムの下部へと潜り込む。
負けじと相手もクローを垂らすように構える。どちらかが避けなければ、どちらもコクピットごと真っ二つになるような構図、まさにチキン・レースであった。
その刃がククルカンの頭上に当たるその瞬間、片方のペダルを思い切り踏み込む。
『旋……回……だぁッ!?』
ククルカンがバレルロールを行うことによって右に旋回し、保持していたレイ・サーベルによって地面を巻き込む斬撃が激しい火花を散らしながら繰り出される。
警告音とともにモニターに被害状況が表示された。背中の翼に大きな損傷を貰ってしまったようだが、もはや気にする必要は無い。
「……貴方の回転斬り、参考になりました」
次の瞬間、イシュタムの頭部が火花を上げて撥ね飛ばされる。メインカメラを失ったその機体は制御を失い、近くの岩に衝突して停止する。
『クソパクリ野郎が……ッ!』
まだバーニアを吹かして逃走を図るイシュタムの下半身ブロックを切り落とし、完全に無力化する。空は次第に白み始めていた。
息をつこうとするが、周りからはまだ激しい銃弾の音が鳴り響いている。
『お、おい! マルティ様がやられた!』
『はぁ!? どうすんだよ、俺たちだけでハチドリなんかにッ!』
未だに戦い続けていたグレガリアの兵士達も、ノアのトラロックやトシ部隊の人々によって無力化されていく。
『ウィッシュ、お前はケンプとアシマとキャリアーを漁ってこい。後で壊すが物資はいただいていく』
「了解です、ククルカンはどうすれば?」
『危ない状況になったらオートパイロットで帰還させる。早く行け!』
できるだけ相手のキャリアーへと近づいてからキーを抜き、コックピットから飛び出る。
「……無茶させたかな」
振り返って見たククルカンの装甲のあちこちには焦げたような跡が残り、右の翼は先端が折れていた。まだまだ自分の技量が足りていない証左だった。
「おーいウィッシュ君、機体が心配なのはわかるけど行くよ!」
反省に浸る自分を引き摺って、アシマがキャリアー内部へと突き進む。
扉を蹴りあけた瞬間漂う砂埃の臭い、ヘルメット越しでここまで臭うのは整備なんてほとんどしてない様なものだ。
「くっさ! 管理不行き届きにも程があるでしょ!」
「だから期待できないって言ったんだよアシマ。まともに使えるのがどれくらいあるやら」
「まだ分かんないって。とりあえず僕は一階、ケンプは二階、ウィッシュ君は三階とメインブリッジをよろしく。護身用にこれ持ってね」
手渡されたのは古風なリボルバー式拳銃、撃ったことはもちろんない。
「撃ち方はわかる?」
「ハンマーを倒してトリガーを引くだけで合ってますか?」
古い資料で見た事がある程度の知識を述べる。
「うんオッケー。じゃあ時間も惜しいし早く済ませよう」
そういうとアシマは近くの部屋へ消えていった。
「エレベーターが動く保証があればいいが……」
近くにあった上行きのボタンを押しながらケンプが呟く。
「コントロールパネルの問題だったらすぐに直せますよ」
「そうだったらお願いしようかな」
だが幸いな事に、非常にうるさい音を立てながらエレベーターは降りてきた。
「……大丈夫ですかね、これ」
「どうせ壊すんだし、今乗れればいいよ」
乗り込んで行き先の階のボタンを押す。パネルのライトは常時点滅しているし、音声に至っては流れすらしない。しかも上がっていく度に金属と金属の擦れる不快な音が響き渡り、不安を増幅させていく。
「帰りは階段の方がいいね、これ」
「はい……」
今にも崩れ落ちるんじゃないかと言わんばかりのエレベーターだったが、どうにか行き先には着いてくれた。ただ一つ、自分の階になって扉が半開きで止まったあたりでもう二度と乗りたくはなくなった。
三階のほとんどは空部屋かおそらく仮眠室らしき部屋で、多少の人がいた痕跡はあるものの、全てもぬけの殻であった。
「使えるものどころか何も無い……」
それに加えて汚いったらありゃしない。ヘルメットをつけていてよかったと心から思った。
全ての部屋を見回り、メインブリッジのある階へと渡る時には、外の銃撃戦の音はすっかり聞こえなくなっていた。
『キャリアー探索組、こっちは完了したからゆっくり探してもいいぞ』
ちょうどよくノアから通信が入る。
『了解です』
『りょーかい』
自分も「はい」と返事をして、残りの階段を上がっていく。
このキャリアーのメインブリッジのある階、三階と言うには中途半端な階層は他の部分に比べれば多少小綺麗なのが目立つ。
メインブリッジの扉が開くと、外の光で一瞬目が遮られる。数秒の後、光に目が慣れた瞬間、違和感に気づく
「これ……帝国の?」
今までの部分がとても汚れていたので気づけなかったが、この小綺麗なメインブリッジのモニターや壁にあるマークは、レーゲンス帝国の国旗である太陽を示すマークであった。
「なんで帝国のマークが……」
モニターに近づこうとした時、背後で物音が立つ。
「誰……だ?」
咄嗟に向けた銃、しかし背後の物音の正体を見た時に、思わず自分はそれを下ろしてしまった。
「女の子……?」
それは、自分とそう歳が離れていないであろう。美しい白い髪の女の子であった。
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