第6話 黒い神機

 砂塵を巻き上げ、砂嵐を割いてキャリアーが砂漠を進む。空母を改造したような見た目も相まって、巨体によって舞い散った砂が船体に押されて掻き分けられていくその様子はさながら大海を渡る大船を想起させる。

 随分な巨体かつ、旅団全体や神機を格納してなおかなりのスピードを出せているのは、キャリアーに搭載されているG.A.システムドライブのスケールダウンモデルである動力源H BHummingBirdエンジンがなせる技だ。

 ……とスラスラと語ったが、自分も実際のものを見るのは初めてだ。せいぜい故郷でエリアブロック移動のエレベーターでしか似た原理のものは経験したことがない。

 しかし神機が一般化するために作られたHBエンジンが、運用によってはその見た目の十数倍大きな車両すら動かせるというのはすごい。

 渡されたブロック型の携帯食料を貪りつつ、窓の外で流れる景色をひたすらに眺めていた。

「目的地まではあと6時間か、何もなきゃいいがね」

 髭の男がマップと窓を交互に見ながらつぶやく。

「縁起でもないなぁトレズ。悪いことってのは想像したら現実になるんだよ」

「シィ、危機感とお前お得意の縁起をごちゃまぜにするな。何しろ東側エリアにはとっくに入ってんだ、いつクソ共の襲撃があるか―――」


 瞬間鳴り響く爆発、衝撃で揺れるメインブリッジ、モニターに表示される損傷警告。

「ぐえっ!?」

 自分は揺れによって前方に少しばかり身体が浮く。自分を椅子へと引き留めるシートベルトで首が締まりかけた。

「ほら見た事か」

「言ってる場合じゃねぇだろ! 敵襲ーッ!」

 アラートが慌ただしく鳴り響き、艦内に異常の発生を知らせる。

「重力波観測レーダーに反応あり、多分直前まで起動してなかったんだな」

 ソナーに似た画面には4つの黒丸が点滅している。

「ウィッシュ、悪いが出撃だ。頼んだぞ」

「はい!」

 威勢よく返事してメインブリッジを出たのはいい。だがしかし、今朝の襲撃時よりも揺れが酷く移動が大変だ。慎重に行かないと壁に容赦なく激突しかねない。

 何とかこける事なく乗り込んだエレベーターは無事に動き、なんとか格納庫まで辿り着くことが出来た。


「ナストアさん!」

「わかってる、ほら!」

 投げ渡されたヘルメットとパイロットスーツをキャッチしてククルカンのコックピットへ飛び込む。急いでスーツとヘルメットを装着し、ククルカンを起動させる。

「準備完了!」

『了解。ハッチオープン、昇降機上昇開始』

 だんだんと外の景色が見えてくる。風とキャリアーの移動による振動でククルカンが微妙に揺れている。

『ウィッシュ、移動中ということを鑑みて今回は作戦に使える時間を制定する』

 ククルカンの計器モニターにタイマーが出現する。表示された時間は07:00、つまり7分もたせるかそれ以内に全機を無力化しろということだ。

『タイマーがゼロになったらいかなる行動を行っていたとしても帰投しろ、わかったか?』

「はい!」

『俺は艦の為に援護できないが……まぁこの程度ならお前一人で十分だろう、頼んだぞ』

 昇降機が上がり切り、振動が収まる。

『ククルカン発進許可!』

 許可が出ると共にタイマーが作動し、作戦終了までのカウントダウンが始まる。

「ククルカン、出ます!」


 前のようなゆっくりとした発進ではなく、最初から一定の速度を出してキャリアーから距離をとるように発進する。

「相手は……?」

 位置を確認するため計器モニターの画面を重力波観測レーダーに切り替えようとすると、いきなり警告が表示される。

「なんだ? ……誘導ミサイル!?」

 白煙を上げてこちらへと一直線に迫るロケット型のミサイルがモニターに移る。


 そうか、G.A.D.D.システムが起動していないから使えるのかと己の中で納得する……いやそんな場合じゃない。

「やれるかな?」

 剣を展開してミサイルへ突撃すると、すれ違いざまに両断する。

 数秒遅れて後ろで聞こえる爆発音、無事切り抜けられたが冷や汗が垂れる。

「流石に緊張したな……そういえば敵は?」

 今度こそレーダーを切り替え方向を確認する。おおよそ10時の方向に丸が集まっているようだ。

「こっちか!」

 アクセルを全開にし、全速力で砂漠を飛ぶ。すると5秒もかからず前方にグレガリア特有のスパイクの付いたトシが4機見えてくる。


『クニカベ隊長、誘導ミサイル通じません!』

 グレガリアに回線を閉じるという習慣はないのだろうか、彼らに近づいた為か会話が聞こえてくる。

『さすがはジダムニの報告にあった銀色だな。接近してくるぞ、ナレシは次のミサイルを装填しろ』

『隊長、自分達はどうすれば?』

『ソクシ、カマセは後方援護だ、銀色は俺がやる!』

 隊長機フラグシップということを強調するように特徴的なアンテナが外付けされたトシがアックスを抜刀すると、バーニアを吹かしてこちらへと突進してくる。


 ここまではいつも通り、しかし直後自分に入った通信が状況を一変させる。

『ウィッシュ! 重力波観測レーダーが異常反応を検出した、注意しろ!』

 通信を聞いてすぐに目線を一瞬レーダーに落とす。するとトシとは比較にならない大きさの丸が表示されている。つまりこれは、GA型相当の機体が迫っている事を示していた。

「一体何が……!?」

『隊長、異常反応がレーダーに―――うわッ!』

『ナレシ!?』

 突然敵の背後から起こった爆発、自分だけでなく敵の3機も思わずその方向を見る。

 撃墜されたトシが大爆発し、それによって起こった砂混じりの爆煙。それが薄れるにつれ、だんだんとその中にいるが姿を現す。

「黒い……神機?」

 

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